MAKE A NOISE! 第53回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

ウシ、シャチ、チンパンジー

 

山口ゆかり
(第16号で「どんなに幸せでも罪悪感と孤独感はぬぐえない」を執筆)
 
 
 
 タイトルがしりとりになって何だかうれしい今回は動物の映画3本、それぞれに酷い話です。
 
 
 まずは『Moo Man』、直訳すると“モー男”というドキュメンタリー。
 牛愛に満ちたおじさんと、1頭ずつ名前で「もっと水飲むか? イーダ」なんて世話される牛たちの日々にほっこり。乳牛なのがポイントですね。名前つけといて、最後は屠殺じゃ、ホラーです。
 

 
 ほんわか映画と思いきや、おじさんの一言「牛乳1リットルのコストが34ペンスなのに、スーパーは1リットル27ペンスでしか買ってくれない。週に60〜70時間働いても生活保護を受けないと暮らせない」。おじさんには、牛だけでなく、まだ小学生のお子様を含む家族が。
 ほのぼの見てましたが、やっぱり今時は大規模経営で効率化、小規模で1頭ずつ親身に面倒みる経営では無理?普段買ってるスーパーの牛乳は、リットル27ペンスでやってける農場からきてたのか。どう牛を扱ってるか気になるなあ。

 
 
 というわけで、おじさんは直売。自ら牛乳配達したり、ファーマーズ・マーケットで売り子も務める。がんばれ! まっとうに働いてる人が報われますように。
 もともと酪農家育ちで、後を継いだおじさん。子供の時に、町にある親戚の家で飲んだ牛乳のまずさに驚いたほど、味も違うそう。そんなにおいしいの?   
 サセックスの農場でしたが、調べたら、うちから行けなくもない朝市にも出してるのを発見。2パイント(約1.13リットル)で3ポンド(約550円)と、いつもスーパーで買う2パイント89ペンスの3倍強。
 おいしい牛乳+乳牛に優しい食生活を目指すも、高値の前に夢破れました。人にがんばれとか言ってる場合じゃなく、おまえもがんばれよ、だったのね。
 
 
『Blackfish』は、ショーのおねえさんを殺してしまった水族館のシャチ、ティルクムのドキュメンタリー。でも、シャチ怖えーじゃありません。
 

 
 おねえさんの死を悲しむ水族館職員でさえ、誰もティルクムを悪く言わない。そもそも、連れてこられた状況が幼児誘拐。ティルクムが捕獲された時、家族らしいシャチの群れが、まだ小さいティルクムの乗せられた船からずっと離れなかった。そして、ティルクムは芸を仕込まれ、狭い水槽で飼育される。おねえさんへの殺意ではなく、トラウマのうえに、ストレスフルな生活が、そういう形になったのを、みながわかってる。
 ほかのシャチ、生まれた子がよその水族館に移された母シャチの鳴き声なども収録されています。鳴くというより、泣くと表現したい声が、いつまでも止まない。
 おねえさんじゃなく、狙うは水族館の経営者、とティルクムに入れ知恵したくなりました。
 
 
 最後は『プロジェクト・ニム』。日本でも東京国際映画祭で上映、WOWOWで放映されたので、ご覧になっていたら、うれしいです。こちらも、人間より動物に肩入れしたいドキュメンタリー。
 

 
 これはストレートに酷い。赤ん坊の頃から、人と同じように育てられたチンパンジーのニムが主人公。言語能力を調べるとか何とか科学実験プロジェクトなのですが、何が酷いって、大きくなったニムを人間の家では育てられなくなり、最後は動物の檻に戻してしまう。急にお父さん、お母さん役だった人から離され、いきなり動物扱い。本人(本猿)にしたら、自分は人の子と思っていたかもしれないのに。どれだけショックで悲しいことか。例えば、育て上げた人間の子供に「あんたは5歳になったから、今日からここ」とか言って、犬小屋に住まわせ、ドッグフードを与えるくらいに酷い。

 その後の展開がまたショック。最初のお母さん役だった人が20年ぶりに会いに行きます。同じ家に居た仲だから、当然、檻に入っていく。ニムはそのお母さんの足をつかんで、振り回し、大怪我を負わせる。殺そうと思えば殺せる状況だったのに、怪我までにとどめたとも言えるそうですが。もっと前の、お父さん役ともいえるプロジェクトの責任者、テラス博士との再会時は大喜びだったのに。
 「ママ、どうして僕を捨てたの?」と怒りは母に、「わーい、パパ会いに来てくれたんだ」と感謝は父に向けるのは不公平と、フェミニズム的観点でニムを説教するのは筋違いですね。博士はボスで、女性で力も弱い母役は下位にいるというお猿の本能による序列でしょう。本能は強いです。そこでまた、それを無視して、人間と中途半端に暮らさせたテラス博士に怒りが湧く。人権(猿権)はどうなるの!
 ニムは、寿命50年というチンパンジーとしては若死にの26歳で亡くなっています。死因は心臓発作となっていますが、ニムとの友情を築いた飼育係は傷心が死因と言います。
 
 ジェームズ・マーシュ監督のお話も、ショックでした。BBCドキュメンタリーなどテレビと映画の両方で優れたドラマやドキュメンタリーを作り、ニムの前作『マン・オン・ワイヤー』ではアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞獲得の監督です。

JM 2012Bs

ジェームズ・マーシュ監督 2012年ベルリン国際映画祭(撮影:著者)

 
 そのマーシュ監督が貧乏だった! アカデミー賞以前でも評価が高い作品を撮ってたのに。
 2012年サンダンス・ロンドンのトーク・イベントで、インディペンデント映画でやっていくのがいかに大変かというお話でした。そうなんですよねえ。映画を配給しろと言ってるわけじゃなく、書かせろと言ってるだけの私でさえ、場所がもらえず苦労してますもん。
 ということで、この冬は日本に営業に行きます。今回のような映画について、書いていいよ、という御奇特な方がいらっしゃいましたら、下記の映画UKのコンタクトからご連絡ください。今日はクリスマス・イブ、私に良いクリスマス・プレゼントが届きますように。
 どさくさに紛れ、才能あふれるマーシュ監督の昔の境遇に自分を重ねる、サンタどころか神をも恐れぬやり口で呼びかけてみました。みなさまも良いクリスマスを。
 
 
 次回は、いよいよ大晦日で最終回。お正月を前に、ホーム・スイート・ホームな映画で締めます。
 
 
 
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-ヒビレポ 2014年12月24日号-

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