MAKE A NOISE! 最終回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

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山口ゆかり
(第16号で「どんなに幸せでも罪悪感と孤独感はぬぐえない」を執筆)
 
 
 
 このおうちで、このお母さん、お父さんに育てられた人なら、間違いなし。お見合い? いえいえ、アザゼル・ジェイコブス監督のこと。ふつうなら映画監督は作品で判断。もちろん、ジェイコブス監督も作品から判断しました。『Momma’s Man』という映画です。

 お母さんっ子という意味のMother’s boyをManにして、いい歳の大人がお母さんっ子なコメディ。笑えて、じわっとハート・ブレーキングだったりも。
 というわけで、舞台はお母さんち(お父さんもいるけど、ひとまず、おいときます)。この家が最高。玄関から直に階段とか、ロフトみたいな子供部屋とか、変わった作りで、中には骨董というほどでもないけどガラクタというには惜しい物たちがぎっしり。狭いスペースが物で埋まっていても、乱雑ではなく居心地良さげ。ずっと家の中のシーンが続くのですが、最後まで間取りがよくわからないのも、隠れ家的な気配を強めます。
 この実家に帰ってきた、中年にさしかかった男性が、ここから出ないプチひきこもり状態になるお話なんですが、この家なら私も出たくない。

 
 
 お母さん役も最高。ゆったりした口調と細面に後ろで結わえた長い髪が、今は亡き名優、岸田今日子を思わせます。
 このお母さん、息子が悪いとは絶対思わない。小太り息子にはもったいないくらいの綺麗なお嫁さんが、浮気してるに違いないと思い込む始末。いいなあ。冷静で客観的な判断を下すお母さんより、「うちの子に限って」なお母さんが好き。
 対するお父さんは、そうは思っていない様子。息子のぐずぐずを察しているふう。お父さんまで「うちの子に限って」だと困ります。お母さんがそうなら、お父さんには物事がちゃんと見えていてほしい。こちらのお父さん役も、ただものではない佇まい。どこの役者さんたちだろう?

 試写してすぐIMDBからチェック開始。なんと、監督自身の両親とその住まいと判明。お父さんはケン・ジェイコブスという知る人ぞ知るアート系映像作家、お母さんはフロ・ジェイコブスといって、こちらもアーティスト。芸術家の家だったのか。作り物じゃないからこその味、深く納得。
 慣れ親しんだ実家と両親を、ジェイコブス監督はドラマとして成り立たせています。今時のすっきり綺麗な映像ではなく、16ミリフィルムでくもり気味の映像にしたのがノスタルジックな雰囲気を加味。主役に据えられたマット・ボーレンも適役。実家を舞台に両親がそのまま両親役なら、自分が主人公やればという話ですが、監督は両親譲りのいかにも芸術家っぽい風貌。普遍的な郷愁につながったのは、丸ぽちゃなボーレンの庶民性あればこそ。両親を味ある演技に見せているのも、受けるボーレンの演技力かも。

 お話のそもそもは、ロサンゼルスからニューヨークに出張した息子の実家泊。子供時代を過ごした部屋でまったり。懐かしい物たちに囲まれ、ギターを爪弾いたり、おもちゃで遊んでみたり。                                                           
 それが、なんやかやと言い訳しては、会社を休み、妻のもとにも帰らず、ずるずる居座ってしまう。赤ちゃんがいる妻は大変。そうなんです。普通なら、父親としてがんばろうという時期、前進しか選択がないような時期なんです。でも、そんな時期だからこそ、逆に後ろ向きになってしまう、子供に戻ろうと必死になってしまう気持ち、なんとなくわかる。
 
 さて主人公、しばしのひきこもり生活から、どうにか外に出るも、行くのは学生時代の友人の所と、あくまで後ろ向き。男友達とは古いビデオで当時さながら盛り上がり、昔のことを謝りに行った女友達は、妻同様、幼子を連れて今が大変、謝られてる出来事さえ思い出せない。
 そうこうしながら、やっぱり戻らない。両親のベッドでいっしょに映画鑑賞とか、若いパパとママに小さいボクなら可愛いですが、老いた両親と中年男の図はなんとも。かと思うと、食事中に眠リ込んでしまったあどけない子供時代と、大きな体で母の膝の上という今を重ねて見せる。笑いたいような泣きたいような映像の数々に、ピアノ伴奏が柔らかい。
 そして、煮え切らない息子を、母はどこまでも受け止める。「好きなだけ居て、いいのよ」、ああ、母よ!
 
 2008年の映画でしたが、その後、ジェイコブス監督は名脇役ジョン・C・ライリーも出演した2011年の映画『Terri』や、『Doll&Em』という2013年からのテレビシリーズでたくさんの人に知られるようになりました。
 でも、やっぱり珠玉の作品と呼べるのは『Momma’s Man』と思います。

 長らくおつきあいいただき、ほんとうにありがとうございました。良いお年をお迎えください。

 
 
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-ヒビレポ 2014年12月31日号-

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