今朝はボニー・バック 第53回

bonnie

大晦日の夜はこの映画を見よう!

 
ボニー・アイドル
(第18号で「キミは知っているかい ババヘラアイスを」執筆)

 
 
 
みなさん、あけましておめでとうございます! 本年もよろしくお願い申し上げます。
……と、心から言いたいところですが、この原稿を書いているのは2014年12月30日。まだ2014年を振り返る余裕さえないのが実情でござる。

今年の年末年始は郷里の秋田に帰らず、久しぶりに東京でひとり寂しく年越しすることにした。そこで今から気にかけているのが、大晦日の夜どうやって時間をつぶすか、だ。紅白歌合戦やゆく年くる年が終わってからの寂しさに耐えられるだろうか。というわけで、ぼくは大晦日の夜の時間をつぶすため、一本のビデオテープをAmazon経由で注文した。それは、1989年公開の映画「一杯のかけそば」。
この映画はDVD化されていないので、ソフトはVHSのみ。ということは、今やレンタルビデオ店でも置いているところは少ないだろう。実際、届いたブツは「7泊8日」というレンタルビデオ店のシールがこびりついて剥がれないレンタル落ちの商品だった。
 
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一杯のかけそば——。
大晦日の夜、札幌にある一軒のそば屋「北海亭」。最後の客も帰り、主人と女将はそろそろ表の暖簾を下げようかと思っていた矢先、一組のみすぼらしい親子客が入ってきた。男の子ふたりを連れたその女性は女将に言う。
「かけそば、一人前なんですが、よろしいでしょうか?」
女将は喜んで親子を店内に招き入れ、厨房にいる主人に「かけ一丁!」と声をかける。主人も「あいよっ、かけ一丁!」と威勢よく応えつつ、手元ではそば一玉半を湯で上げて熱いツユが入った丼の中へ。テーブルの上に置かれた一杯のかけそばを囲んで幸せそうに食べる三人。
食べ終え会計を済ませ店を出て行く親子に、「ありがとうございました! 良いお年を!」と声をかける主人と女将。

以上、童話作家・栗良平氏原作による“実話を元にした”童話「一杯のかけそば」の導入部である。続きを読みたい方はこちらのサイトに全文載っているのでよろしければ。
http://www.midorii-clinic.jp/kyuukei/img/ipainokakesoba.pdf#search=’一杯のかけそば+全文’
この童話、今どれだけの人が知っていますかね?
ひょっとしたら、「よく考えてみなさいな、当社の新サービスに投資する金額なんざ、毎日喫茶店で飲んでいる一杯のコーヒー代を節約したらお釣りが来るようなもんだよ、チミ」と、よく詐欺話に使われる「一杯のコーヒー」と勘違いしているひともいるのかもしれない。また、落語のように関西に行ったら「そば」が「うどん」になったりもしない。

もしかしたら、「一杯のかけそば」を今年あった佐村河内守氏のゴーストライター問題に絡めて初めて知ったというひとも多いのではないだろうか。なんせ、このスキャンダルは「現代の一杯のかけそば」と言われたぐらいだし。
では、佐村河内守氏と「一杯のかけそば」の原作者・栗良平氏の共通点はどこにあるのだろうか。佐村河内氏のように、栗氏が身体に障害を持っていると偽り、ゴーストライターを立てて「一杯のかけそば」を自分名義で発表したというのではない。栗氏は経歴詐称や寸借詐欺を繰り返す正真正銘の詐欺師だったのだ。

大宅壮一文庫の検索端末で「一杯のかけそば」と入力すると、出るわ出るわ栗氏のスキャンダル記事。彼がこれまで働いた詐欺行為を簡単に紹介すると、
○学歴詐称→高卒を北大医学部卒業と偽る
○無免許による医療行為→知り合いに「いい薬があるから」と前金で25万円かすめてトンズラ
○自動車泥棒→他人から借りた自動車に乗ってトンズラ
○人妻と駆け落ち→出版に興味がある人妻を言葉巧みに騙して全国を転々。駆け落ち相手の親戚からも大金を吐き出させて競馬につぎ込む。各地の旅館代も払わずトンズラ
○「有名人に大勢知り合いがいる」「新作は宮崎駿も絶賛している」と大ボラを連発して、声優志望の高校生から“著作権を得るための手数料”6万円強をかすめ取る
○1999年頃には滋賀県の某寺に潜り込んで住職を懐柔し、「良空」という得度名を授かる
この報道を最後に、彼の行方はようとして知れないらしい…。

ぼくは原作の「一杯のかけそば」の話はだいぶ前から知っていたが、タモリが日本中が泣いていた1989年当時に「涙のファシズム」と喝破したように、「さあお泣きなさい」と言わんばかりの安っぽい人情話にイマイチ乗れなかった。これよりなら「北の国から’84夏」で田中邦衛がラーメン屋の女性店員に啖呵を切った「まだ子どもが食べてる途中でしょうがぁああ!!」の方がよっぽど感動する。
原作童話自体どーでもいいものと記憶から消えかけていた矢先起こった、佐村河内守のゴーストライター問題。そして、その元祖として取り上げられた「一杯のかけそば」原作者・栗良平氏の過去。氏の経歴に比べれば詐欺話「一杯のコーヒー」や落語「時そば」の方がよっぽどかわいらしい童話のように思える。
パッケージを見ただけで明らかにZ級のクォリティに、欺瞞と偽善に塗り固められた原作者の人生という隠し味がついているんだから、この映画見ないわけにはいかない。

明日の晩を待ちきれずに、さっきちょっとだけ鑑賞してみたのだが、冒頭のシーンはなんとアニメーション! 札幌の町に捨てられた一匹の子犬が「ぼくがこの時計台横丁に捨てられたのは大晦日の夜なんだ」と『サザエさん』のタラちゃんの声でしゃべりかけてくるではないか。
 
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このユルユルのアニメから渡瀬恒彦(そば屋の主人役)や泉ピン子(かけそばを頼む母親役)という濃い口の役者陣が登場するんだから、これは期待以上の作品のようだ。ここで一先ずビデオの停止ボタンを押した。
大晦日の夜、天ぷらそばでもたぐりながら楽しもうと思う。

 
 
 
-ヒビレポ 2015年1月6日号-

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