津島の窓から 第2回

tsushima

津島、お笑いの賞レースに出場する(前半)

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 売れないお笑い芸人の男と付き合っていた頃、毎月何度か売れない芸人たちのお笑いライブを見に行っていた。これがまあ全然面白くなく、一回もくすりとも笑わないで何時間か過ごすことが多くあった。客の少ないライブなので、前がガラガラだといかんかなと思い、私としては気を遣って前のほうに座ってあげているつもりだったのだが、芸人たちの間で

「全然笑わない女が目の前にいつも座ってて怖い。ネタ中、気になってしょうがないし集中できない。誰だあれ。全然笑わないのにいつも何しに来てんだ」

 などという噂が立つ始末だった。私としては、「うるせえ、笑わせられないほうが悪い!芸人だったらこの私を笑わせてみろ!」という感じで、面白くなかったらぜってー笑わねえからな、とムキになっていく一方だった。ほんとに、誰なんだ私は。

 そんな立場でライブに足を運んでいると、どうしても拭いきれない疑念が湧いてくる。

 こんな売れない芸人の学芸会なんかより、関西出身の自分が本気でネタをやったほうが面白いんではないか。

 と・・・。試してみたい。この私の実力がいかほどのものなのか、こいつらより面白いってことを証明したい。

 やはり、できれば、実際にその芸人たちより自分のほうが面白いと直接的にわかりたい。同じ土俵で結果がわかるのがベストだろう。でも、事務所に所属してない自分がライブに出られるわけではないし、むしろ出たくない。でも試したいという気持ちが自分の中でくすぶっていた。

 そんな中、最高にわかりやすく自分の実力を試せる舞台があった。

「R-1グランプリ」

である。どーん。出場資格はプロアマ芸歴問わず。日本一のピン芸人、一人芸を決める大会だ。優勝賞金500万のめちゃくちゃ有名な賞レースである。
(本年度のR-1グランプリ公式サイト)


 
 まさに私にうってつけの大会だ。とものすごく軽い気持ちで出場を決めた。芸名は「ミラネーゼ」、うちで飼っているマルチーズの名前「ミラノ」からものすごく適当に決めた。目の前にたまたまあった適当なものから芸名決めた感満載である。

 それにしても、ちょっと試したいとか言ってたわりに、誰もが知っている有名な大会に出場しちゃっている。やるなら頂点目指そうぜ!

 決勝ではテレビで放送されるけど会社とか知られて大丈夫かなあ。まあ別に一回テレビ出るぐらい差支えないし大丈夫か。それまで準決勝とかで会社何回か休むことになるだろうけど、なんといって休めばいいのか・・・決勝でテレビ出たらバレるしな・・・などといろいろと心配もしていた。まあ、宝くじ1億当たったらどうしよう〜程度の妄想である。本気でそんなこと思ってないので大丈夫です。

 第一回戦は日本各地数か所で行われるが、やはりここは、大阪の文化で育った私にとってホームで出場すべきであろうと大阪大会でエントリー。年末年始に行われるので、帰省した際に出られる。ちなみにこの年の出場者は全国で三千名を越えた。

 ネタに関しては、本気で自分がやったら面白いとか偉そうに言っていたわりに、特に何も思いつかず、やる気も全くなく、友人と酒をガバガバ飲みながら居酒屋でメモも取らずに5分で考えた。音源や凝ったメイクや衣装、小道具などは面倒臭いので当然無しの漫談スタイル一択だ。あまりに身一つでは不安なので、スケッチブックに文字を書いて、めくって見せながらしゃべるという通称「めくり芸」「フリップネタ」と言われるらしいタイプをなんとなく採用した。文字は下書き無しで、油性マジックで一発で適当に書いた。

 本番までに、通して練習した回数は一回のみである。持ち時間は一回戦では一人二分なので、通したらだいたいそんなもんで、まあいいだろという感じで適当だ。ちなみに、二分ってあっという間かと思っていたが、一人でネタをやるとなると、めちゃくちゃ長かった。ヒイ!二分のネタってけっこう長いィ!

 って、どうせやるならもっと真面目にちゃんと本気でやらないのか? 自分のいい加減さが情けない。せっかく出るのに、むやみやたらに適当だ。

 それでも一回戦ぐらいは突破できればいいなあと目標を持っていた。私の知っている売れない芸人たちは、ほとんど一回戦を落選していたので、自分が一回戦を通過すれば、私が彼らより面白いことが証明される。というか、なんのために出たんだろうか・・・。気軽に参加しすぎだ。やるならもっと本気でやればよかったと今でも後悔している。

 ちなみに普段、R-1出場経験があるということは自分ではすっかり忘れているのだが、わりとインパクトがあるらしく一年に一回ぐらいしか会わない人とかにもわりといまだに「なんで出たの?」と言われる。

 (後半へ続く)
 
 
 
-ヒビレポ 2015年1月8日号-

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