津島の窓から 第3回

tsushima

津島、お笑いの賞レースに出場する(後半)

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
前半から続く)

 いよいよR-1グランプリ一回戦当日(といってもほとんどなんの準備もしてないが)、私の出番は午後遅くだったのだが、その日私は珍しくひどい風邪をひいていた。熱があり、鼻水が止まらない。

・・・行くのめんどくせえ!!!!!

 私は当日バックレることを午前中決意した。それを聞いた家族は激怒していた。しかし、午後になってから気が変わり、せっかくだから出るだけ出るかと思い、なんばに繰り出して行った。エントリーも、写真を用意したりなんだりと若干めんどくさかったので、バックレるのももったいないという判断だ。

 受付で参加費の千円を払うと、スポンサーの東洋水産のマルチャンラーメン二袋をくれた。本番前に邪魔だしいらねえ。(どうでもいいが今年の公式サイトを見ると二千円に値上がりしている)
 会場近辺では、大阪の売れない芸人たちが顔見知りと挨拶や雑談をしている姿が多数見られ、誰も知り合いのいない私は浮きまくっていた。しかもほとんど男だ。女がいるだけでなんだか目立っている。舞台の裏の控室は、着替えをしている者や出場者が置いた荷物の山、ブツブツと小声で練習をしている人たちでカオスだった。私は普段着でスケッチブック一つを持ち、非常に身軽である。私以外は、もちろんみんな本気だ。いいかんじの熱気だ。存分にこのエネルギーを吸い込み、若返りたい。しかし、みんな財布や携帯などの貴重品はどうしているのか?無防備にこんなところに置いているのか?

 やがて出番が近づくと、舞台の裏に出場順に一列に並ばされ裏で待った。衝撃の事実だ、舞台の背景である黒いカーテン一枚の裏には芸人が二十名ぐらい静かに並んでいる・・・!
 一回戦とは全体的に全然笑いの起きない乾いた大会で、客席もやたら静かだ。ここで、爆笑が起きるような人が二回戦に進める人なのだろう。


 
 私の前に並んでいた男は背が高くてちょっと顔が良く、女のファンとかついてそうで明らかに調子に乗った感じのやつで、調子乗ってないですよなどと言い逃れのできない雰囲気を出しており、しかも吉本やしな!とムカついたので、そのあと速攻でググって、彼のプロフィールやツイッターをチェックした。「今日はR-1グランプリ一回戦!がんばりま〜す」じゃねえよ。いやしかし、自分の前の人がイケメンだと、気が散りますね!(控室に出場順の紙が貼ってあるので、名前とか所属事務所がわかるシステムなのだ)

 並んでいる間にスタッフの人に、譜面台を使用するか聞かれたので、別にどっちでもよかったがせっかくなので、使用しますと言ってみた。よく、芸人がフリップを置くのに使ってるやつだ。私も使ったほうが芸人ぽくていいじゃないか。しかし、使うとは言ってみたが、どのタイミングで譜面台を受け取るんだ。謎だ。まったくシステムのわからんものを使用するのは不安でいっぱいだ。

 一回戦の司会は微妙に関西では名前が知られているような知られていないような、まあちょっとお笑いが好きな人なら知ってるのかなみたいなコンビであり、出番の前の出場者を十名だか二十名かずつ、まとめて読み上げていく。そして、その読み上げられた十名だか二十名かずつがノンストップでネタを披露する、という繰り返しだ。審査結果は、後程発表なので、その場で発表されたりというのはない。ネタをやったらさっさと帰れ、というスタイルだ。無駄に待たされなくてよかった。

 
 出場者名をまとめて次々と読み上げるときは、そのコンビのAが
「ミラネーゼ!」
と言うと、Bのほうが
「ミラネーゼ!」
と復唱し、会場のお客さんがいちいち拍手をパチパチするリズムになっており、Bのほうがたまに気が向くと一言コメントなどを挟んでくる。私のときにはBが
「ミラネーゼ!未来は君のためにあるっ」
 という全くもって意味不明なコメントをしてくれていた。ミラネーゼの「ミラ」と「未来」は無関係なのだが・・・。いいかげんなことを適当にやらないでほしい。

 舞台の「かみて」「しもて」がどっちがどっちだか私は素人なのでよくわからないが、とにかく、自分の名前がアナウンスされたら、裏から見て右から入って左から出ていくということは承知した。なお、心配していた譜面台に関しては、左から出ていった後、裏の黒いカーテンの後ろを通って一旦右に戻ってきて係りの人に返して、という指示か、もしくは次の人が連続で使う場合はそのまま置いといて、という指示をされることがわかった。

 私の前のイケメン野郎が舞台に出ると、若干大阪では有名な若手だったらしく、出てきただけで、なんだか少しだけだが会場が盛り上がったような雰囲気があった。そして、ネタは何やら少しウケており笑いが聞こえてきた。といっても、別に爆笑をかっさらっているというようなもんでもなんでもないが、基本的に客席が全然笑わないので、少しでも笑いが起きると、おお、あいつウケてるな、という感じになる。

 そして、彼は出番が終わると、次も使うから置いといてと言われた譜面台をそのままナチュラルに左に持って出て行ってしまった。
 って、おーい!!!なにやっとんや!!

 舞台の右側で「はい、どうぞ!」などと、出場者に出るタイミングを教えてくれる係りのおっさんが「えっ譜面台は!? 持って行っちゃった!?」などといって狼狽していたが、後ろで譜面台を持っていた出場者の若手芸人の男が、たぶん私物なのだがとっさに貸してくれた。誰や。誰か知らんがありがとう。てか、イケメンヤロウ、あの野郎め。やり遂げた達成感で微妙にいい笑顔で左に行く彼の顔が想像できるわ。青二才が!(ちなみに彼は一回戦で落ちていた。)

 とか何とか言っている私は、ひどい風邪のため、頭がぼーっとしており、結果的にはそのおかげでぼーっとしたまま舞台に立てたので良かった。健康状態だったら、緊張して震えていたと思う。いやーやっぱり緊張しますよあれ。

 登場の際は、上方お笑いではお決まりの登場のし方をやってみた。最もオーソドックスな
「はいっどうもーミラネーゼですぅーどうぞよろしくお願いしますぅ〜」
 と登場と同時に元気よく挨拶する、あれである。子供の頃からずっと聴きなじんでいるので、別に練習しなくても、非常にリズムよく口から自然に出る。うまい! さすが大阪人! 譜面台を置くタイミングも非常に自然にできた。このへんの流れは、たとえ素人であろうと、大阪人はある程度うまくできるな、と思いましたね。

 ネタを始めたが、客席のほうを見ると、意外とみなさん好意的な微笑みを浮かべて見てくれているという印象があった。突き刺すような鋭い目線というわけではない。しかし、結局二分間で一回も笑いを起こすことはできなかった。というか、滑り散らかしました。もう、それは綺麗に滑り散らかしましたよ。当たり前のように、津島(ミラネーゼ)の挑戦は一回戦で終わりました。

 ちなみに、ネタは「このメス、股の間から血ィ流しとるわ!!」など、全く誰も得しない下品な下ネタの連続である。さすが、酒を飲みながら5分で考えたネタだ。というか、なぜこのような下ネタを平気で出してしまったのだろうか。今になって恥ずかしい。しかも私は風貌的には、そんなこと絶対に言わなさそうな見た目だ。こんな微妙な下ネタで勝負するなら、いっそウンコとか直球でやったほうがまだ少しは笑いを取れる可能性がある。どこにでも、無条件にウンコに弱いやつっているからな。

 私が学んだことは、笑いを取るって自分が考えているよりずっと難しいという事実だ。ほんっとうに難しい。ネタで人を笑わせるって、ものすっごいことですよ!!!って、実際ここまでやってみないとわからないことなのか? いや正直わかりませんでした。 
 でもみなさんもテレビなんかでお笑い番組を見てて、
「この人のどこが面白いの〜」
 とか言っちゃうことあるんじゃないですか? とんっでもないですよ。人を笑わせるってことは、すごいことなんですよ・・・
 ちなみに、テレビで見たことあるけど全然面白いと思ってなかった芸人でも、生のライブで見ると、めっちゃくちゃ面白くて「プロ、すげえ!!!」ってなることすっごい多いよってことも、もしご存知じゃなかったら合わせて知ってもらいたい事実ですね。

 
 
 
-ヒビレポ 2015年1月15日号-

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