出版業界今昔モノ語り 第3回

shinbo
 
 
新保信長(「乱筆乱文にて失礼いたします。」連載中)
 
 
 
 
 

気がつけば編集・ライター生活も世紀をまたいで28年。
その間、テクノロジーは大きく進化し、
仕事で使う道具や仕事の進め方もずいぶん様変わりしてきた。
この連載では、そんな出版業界の仕事環境の変遷を、
道具=モノを軸に振り返ってみたい。

 

【その3】FAX
 
 さて、ここで問題です。
 電話とFAX、先に発明されたのはどっち?

 …………ハイ、わざわざ聞くところからしてだいたい予想がつくと思うけど、正解はFAX。グラハム・ベルによる電話の発明(1876年)に先立つこと33年、イギリスのアレクサンダー・ベインが1843年に画像電送の特許を出願したのが最初とされる。ただし、実用化はアメリカのベル研究所がベル式写真電信機を発表した1925年のこと。同じ頃、ドイツやフランスでもそれぞれの方式による写真電信機が開発された。
 日本では1928年(昭和3年)秋の昭和天皇の即位の礼を速報すべく、新聞各社が競って写真電信機を輸入。一方で日本独自の電信機の開発も進められ、式典直前に完成した試作機を使った毎日新聞が東京−大阪間の写真電送に成功、いち早く号外を出すことができたという。
 一般企業への普及は70年代に入ってから。71年に公衆電気通信法が改正されて、一般電話回線にFAX端末機を自由に接続できるようになったのがきっかけで、本格的に普及しだしたのは80年代のことだった。発明が早かったわりに、普及は遅かったのである。

 それでも、私が就職した87年にはもうほとんどの会社にFAXがあったと思う。最初に入った教育系出版社(実態は訪問販売用の幼児教材やビジネス教材を作ってる会社)にもちゃんとあった。よく覚えてないが、機械本体に黒電話がつながっていて、送信するときにはそれで送り先のFAX番号をダイヤルして、相手が出たら送信ボタンを押すとか、そんな感じだったような気がする。
 家庭にはまだ全然普及していなかったので、会社に入って初めてFAXというものを見るのが普通。最初は使い方もよくわからず、送信したはずの書類が手元に残っているもんだから、送られてないと思って何度も送り直した——なんて笑い話がまことしやかに語られたりもした。私がフリーになる前に勤めていた出版社には、FAXの着信音を聞いた新人が受話器を取って元気よく「はい、○○です!」と応答し、数秒の沈黙後、「なんかピーッて言ってます!」と先輩に報告したという伝説が残っている。

 
 私が自宅にFAXを買ったのは90年頃。パナソニックの留守電付きFAXで、B4感熱紙ロールを使うやつだった。まだ社員編集者時代だが、社外のライター仕事もちょこちょこやっていて、原稿を送ったりレイアウトやゲラ(校正刷り)を送ってもらったりするのに必要だったのだ。当時すでにコンビニでのFAXサービスはあったと思うが、コンビニまでがちょっと遠くて面倒くさかった。
 内閣府の消費動向調査によれば、一般世帯のFAX普及率は1992年で5.5%。それ以前のデータはないが、その頃、個人でFAXを持っていたのは、ほとんどがライターか漫画家だったんじゃないか。【その1】で書いたように、90年代末まで作家やライターからの原稿はだいたいFAXで受け取っていた。一度だけ、大御所の作家から封書で原稿が届いたことがあるが、それが許されるのは大御所なればこそ。ゲラを送るのも基本的にFAXだったので(何十ページにもわたる場合は別)、多くの書き手はこの時期、続々とFAXを導入していったと思われる。
 ちなみに、一般世帯の普及率も1995年10.0%、2000年32.9%、2005年49.7%と急増。その後は50%台で推移し、2014年は57.4%となっている(総務省の調査では2013年末時点での世帯保有率46.4%)。

 SPA!編集部の場合、FAXは2台(2回線)。FAXでのやりとり全盛の頃は、大量のFAXに紛れて送ったはずの原稿が担当者に届かなかったり、話し中が多くてつながらなかったりということもあった。感熱紙の時代は、届いたFAXにそのまま原稿整理(表記の統一や写植オペレーターへの指示)をするとボールペンが詰まってしまうので、一度コピーしてから書き込んだりもした(コピーするのは元原稿保存の意味もある)。
 要注意なのは大宅壮一文庫(東京・八幡山にある雑誌の図書館)で、FAXで申し込めば雑誌記事の検索結果や記事そのものの複写を送ってくれるファクシミリサービスというのがある。資料集めには便利だが、考えなしに大量の記事の複写を申し込むヤツがいると、その受信のために長時間FAXが占領されてしまって大迷惑。しかも、1枚309円(2015年1月現在)なので50枚で1万450円、100枚だと3万900円もかかって経費的にも大変だ。まあ、私が払うわけじゃないから、それは知ったこっちゃないけれど。

 パソコンや携帯電話と違ってFAXは、通信速度が速くなったり解像度が上がったりしたぐらいで、20年前と比べても劇的な進化は遂げていない。ある意味、安定感があるというか、しぶとく生き残っているツールである。しかしながら、今や会社でも個人でも使用頻度が減っていることは間違いない。
 作家やライターの原稿はほとんどメール送信だし、最近では漫画家もメールでネーム(コマ割りやセリフがわかるラフ)を送る人が増えている。私自身も原稿やレイアウト、ゲラの送受信は基本的にメール。たまにマンガのネームや著者からの校正戻しがFAXで送られてくる場合があるので仕事場のFAX(複合機)は健在だが、こちらから企画書などをFAXする必要があるときはPCのFAXソフトからモデム経由で直接送信してしまう。ライターや漫画家からは「FAXはもう処分した」という話もちらほら聞く。

 にもかかわらず、いまだに編集部宛てにFAXでリリースを送ってくる会社が結構あるんだよなあ。個人名宛てならまだしも、「○○情報ご担当者様」とかいうぼんやりした宛名で新製品とかイベントのリリース送ってもゴミになるだけだから! 資源のムダだし、本当に必要なFAXが紛れちゃったら困るので、心当たりのある企業の広報担当およびPR会社の方は別の手法を考えたほうがいいですよ。
 
 
【参考サイト】
NTT「研究開発の歴史」
FAXの歴史 
 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2015年1月16日号-

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