津島の窓から 第5回

tsushima

探偵の話(二) 張り込み中の飲食

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 前職が探偵の私はレポに何度か探偵の記事を書かせていただいているため意外に思われるかもしれないが、普段、私はあまり元探偵だと人に言わない。なぜかというと単純で、元探偵だと言うと、もういろんな人から百回ぐらいされた同じ質問を絶対にされるので、めんどくさいからだ。たまにだが、「おお、この質問は初めてだ・・・!」という質問をされると、感動するし、その人の印象が良くなるということもある。
 だが、だいたいは興味本位のベタな質問ばかりで答えたくない。

 例えるならば、あなたがある外国に住んでいるとして、見た目だけでは日本人だとバレないのだが、もし日本人だと言ったら必ず会う人全員から
「日本に行ったらニンジャに会えるのか?」
「あなたの先祖はサムライか?」
「日本刀はどこで買えるのか?日本人は全員持っているのか?」
「ハラキリ?」
 などの同じ質問ばかり毎回毎回されるような感じだ。どんな気持ちか、わかっていただけたかと思う。いちいち真面目に答えたくないだろう。

 
 中でも腹立つパターンの一つに
 
 「張り込み中はやっぱりアンパン食べるの?」
 

 
 というのがある。しかも絶対、なんかちょっと顔を赤くして口角あげまくって嬉しそうに聞いてくる。まさかそんなこと本気で言っているとも思えないので冗談のつもりなのだろうが、だとしたら、最低のギャグセンスだ。こんな面白くないことを平気で言えるような人間は、今後もどうせ寒いことばかり言うに決まっているので、私は心のシャッターを瞬時に下す。
 
 で、アンパン食べるかどうかを真面目に答えるとすれば、そりゃ場合によっては食べることもあるだろう。
 第一に、普通に普段からアンパンが好きな人なら張り込み中に食べていても普通だから可能性はある。第二に、「張り込みといえばアンパン・・・」と形から入りたがってしまうバカがいる可能性があるが、だいたいこういうお調子者タイプは、気が済んだらとっとと数か月で探偵やめたり、調子に乗ってるからすぐに尾行がバレたりすると思う。

 コンビニでもなんでもあるこの時代に、アンパンをあえて食べるなら上記の可能性だ。

 というかそもそも、張り込み中に何か食べてるのかという点だが、もう、これは、みんなすっごく何か食べてますね。だって暇だから。やることないし。

「探偵は体力勝負だし、調査が何時間続くかわからないから食べられるときに食べておこう」
 とか言うとかっこいいかもしれないし、そういう面も当然あるのだが、それよりは、暇だから口さみしくてなんか食べる。映画館で何か買って食べたくなる感じと似ているかもしれない。

 さて、具体的に探偵が張り込み中に何を食べているのかお話したい。

(一) 冬の人気
肉まん(カレーまん、ピザまんなども)が冬場の探偵に人気。というか私のイチオシ。温かいし、どこでもすぐに買えるし安くて美味しくボリュームもあるのに、立っていても片手で食べられる。万能すぎる。冬の外での立ち張りで最高の相棒といえる。食べた直後は一瞬あたたまるが、すぐに寒くなる。

(二) 夏の人気
私はもともとアイスがそんなに好きじゃないのであまり食べなかったが、探偵たちに人気は夏はやはりアイスだろう。というか水分補給しないと死ぬ。真夏のめちゃくちゃ暑いさなか、濃厚なクリーム系を食べたくないことは想像していただけるかと思う。サッパリしたソーダ系のものが人気だ。もちろん、カップタイプではなく、棒のタイプが張り込みには適している。となると、必然的に一番人気はガリガリ君になりがちだ。あと、パピコなんかだと、半分くれる人もいるが、私はアイスを食べるのは食感がめんどくさいので好きじゃない。まあ、たまに食べると美味しいが、二口くらいでめんどくさくなる。夏なら私はやはり、スポーツドリンクや炭酸を飲むほうがいい。

(三) 弁当類
車で張り込みなんかだと、普通にから揚げ弁当や牛丼を食べている人もいる。まあ、車だとなんでもあり感が強まる。

(四) 菓子類
やはり車で張り込みだと、ボリボリと袋からスナック菓子を食べることもある。みんなに袋を回してくれたりして、パーティかよ!遠足かよ!という雰囲気になりがちだが、目だけは出入り口を見たままなのでシュールだ。前を見ながら、ボリボリと無心で袋に手を突っ込んで食べ続けられるスナック菓子はいかにも暇つぶしにいい。しかし、このあと仕事でどうせ機材やハンドルを油で汚れた手で触ることを考えると、あまりよろしくない。あと、チョコ類は普通に手軽に不動人気だ。

(五) マクドナルド
朝が弱い私は朝マックに自主的に休みの日や出勤前に行くことはほぼ不可能なのだが、朝一からの張り込みなら、いける!!探偵ならではだ。しかし、肉まんなんかと違って1アイテムではないので(セットだとマフィン、ハッシュドポテト、ドリンクで3アイテムとかになるから)すぐに片付けられないしゆっくり食べたいので、食べられる機会は限られる。
会社員なんかはもちろん朝絶対に家から出てきて出社するので、こっちも朝マックを食べている暇はない。ねらい目は、基本的に家にいるような主婦の張り込み(子供を朝幼稚園などに送り迎えしない場合)や、その日朝から出かけるなどいう情報が無くいかにもゆっくり起きそうな会社員の土日の朝からの張り込みなど。すぐに出てこないことが朝から予想される案件に限られる。早起きして朝から張り込みなど全然したくないが、張り込み中の朝マックはとても美味しい。たぶん、普通に店内で食べるより美味しい!
一度、思いっきり3アイテムを広げて食べているときに、予想外に対象者が朝早くから突然家を出てきたことがある。やっぱり、3アイテムはとっさにどうしようもない。車内張りではなく立ち張りだったので、一緒に食べていた同僚の尚子(季刊レポ18号に登場)と泣く泣くその場に全部放置した。というか、食べかけのマクドナルドを住宅街に放置するなど、絶対にダメだ。「すいません・・・!」と強く思ったので今もよく覚えているし、たまにあのときのことは今も尚子と話す。朝マックは張り込みには向かないが、美味い。

(六) 対象者の入った飲食店
尾行をしていると、対象者が飲食店に入ることは当然よくある。対象者が一人で牛丼屋やラーメン、回転寿司に入ったときなど、明らかにすぐに食べて出てくるのがわかっているときはおとなしく外で出入り口を見て待っているが、そうでなければ探偵たちも一緒に店内に入ることもけっこうある。もちろん、客席が何席かしかないような小さな店や、大将やマスター、ママなどがいるような店などだとこっちに気付かれるリスクが高いので入らないが、明らかに店内が広くて、対象者とある程度の距離を置いて座れそうなら、入ったほうがいい。いつ出てくるかわからない対象者をずっと出入り口で見てなくていいし、店内のほうが出るタイミングがわかる。一緒にいる人との様子を撮影したり、会話も場合によっては聞ける。浮気調査なんかだと、がんがん証拠を取りたいところだ。探偵たちも入店したら何も注文しないわけにはいかない。ファミレスなんかだと、ドリンクだけにせずに普通に注文して食べているときもある。対象者さえ見失わなければいいのだ。どうせ彼らも、わざわざ誰かと入店してるんだからすぐには出ない。
「あの対象者の頼んだやつ美味しそうじゃない?私もあれにしよう」
「美味しそうだよね。私もそうする」
などと小声で言って、探偵が対象者と同じものを注文したくなる率が尋常ではない。あれはなぜだ。

(七) 飲酒?
尾行していたら対象者が不倫相手と昼間にお花見に行ったことがある。桜満開の非常に天気の良い日で、最高の花見日和だった。二人は、露店で生ビールとおつまみを買い、野外に特別設置されたテーブル席に腰を下ろした。私たちも少し離れた場所に座って、まあ、露店でなんか買って食べるかという状況になったが、もう、対象者にあんなに美味しそうにビールを飲まれて、私が我慢できるはずがない。超おいしそうな顔して飲んでいるのをこっちは見ているのだ。今も対象者のあの一口目を飲んだあとのプハーッという顔を思い出せる。そんなこと、あっちは知らんだろうが。当時めちゃくちゃ新人だったが本当に我慢できなかったので、先輩に
「ビール・・・一杯だけ・・・ダメですか・・・?」
と聞いてしまった。我ながら、いい度胸だ。「酔っぱらってそのあと仕事にならないとかにならなかったらいい」と言われたので、ビール一杯なら何も変わらない自信がある私は、青空と桜の中、ビールをいただいた。あれは本当に最高に美味しかった。まあこれは特殊な例だ。

 こんなことばかりしていたら、私は探偵を始めてから半年で8kgも急激に太った(しかも今も戻らない)。張り込み中の買い食いと、不規則な生活、仕事上のストレスによる暴飲暴食が理由だろう。しかし、別に他の探偵たちに太っている人などいないので、「探偵になると太る」とは言えないし、自分の責任だ。でも絶対「どんなに食べても太らない」とか「痩せの大食い」タイプが探偵には多いと思う。みんなあんなに張り込み中なにか食べてるし仕事の後も外食ばかりなのに、細い人ばかりだ。うらやましい。

 
 
 
-ヒビレポ 2015年1月29日号-

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