ヒビムシ  3 – 4

先山:ヒトツモンイシノミ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 
 
 
 いろいろ考えた末,特別な事を何もしないことにして,1月17日の朝に,昨日行った淡路島,先山の事を書いています.

 国産み神話が何らかの歴史的事実を,どの程度にか反映しているのか,そもそも不明なのだが,ともかく淡路島だという事になっている.そのつもりで眺めると,それぞれ森と稲と海の技術を伴った異文化の混在,それらが逃げ場なく凝縮され,新たな調和が発生する場として,ちょうどいいコンパクトさに思えてくる.
 先山(せんざん)は洲本平野の西にある,わかりやすい独立峰である.『淡路富士』とも呼ばれるらしい.その頂上に千光寺がある.古くから信仰の山であったおかげで,自然に近いスダジイ林が残されている.
 森林は,特に理由がない限り人々の歴史の中で伐られてしまう,ヒトにとっては何世代にもわたる変化であり実感しにくい事だが,それが実情なのだ.薪炭林に姿を変え,森としては残っている事も多い.今となっては田畑とともにそれらを原風景と感じるかもしれない.しかしそれは決して自然ではないのである.

 先山への登山道は東側,つまり洲本側からついている.しかし北側からの細い車道もあり,頂上付近にだけ興味がある筆者はそっちを使う.地形図では448mとなっているが,頂上に三角点はない.不思議な事だ.設置しなかった理由を知りたいが,そんな事情は記録されないのが歴史だとも思う.
 山頂を取り巻くように枝道がいくつもある.背の高い木々に覆われて,落ち葉が積もり,木が朽ちている.
 ケヤキの大木はこの山では多くない.葉を落としているが,独特の樹皮でわかりやすい.滑らかで丸く剥がれる性質があり,虫に越冬場所を提供している.この日の一匹め,アオモンツノカメムシを,この,先山らしくない木でみつけてしまった.一部に緑を残した配色は成虫越冬向きではなさそうだが,冬場の樹皮からも時々見つかる普通種.なんだか残念な虫である.
 

 
329_lr-s

アオモンツノカメムシ

329_ag
 
 この地ならではの常緑樫の巨木を重点的に見ねばと思う.その幹の樹皮もヒビや隙間があったり樹皮が半剥がれだったり,ほぼ剥がれだったりで,虫たちに様々なサイズのシェルターを提供している.半剥がれの樹皮を幾つかめくると,イシノミの類いが見つかった.帰ってから調べるとヒトツモンイシノミと判明した.
 写真のように沼エビっぽい姿である.和名の語源からいうと,イシノミは石の蚤であるが,蚤とは全く関係ない.葉の上ではなく地面にいて(石),いざとなったら跳ねる(蚤)からだろう.
 系統発生上の位置づけとしては,イシノミは六本脚で歩く体制に(ほぼ)なっているが,翅はもたない,半分昆虫になりかけの状態を残した虫である.口の構造はかなり昆虫的なのだが…という感じである.
 なので分類上,イシノミ類(古顎目)は六脚亜門ではあるが,昆虫綱に含めるか微妙,口の構造で線を引くことにして,それでもぎりぎりセーフと判定されている.昆虫綱認定おめでとう.ちなみにこの基準でいくとアウトなのがトビムシ類(粘管目)などであり,シミ類(総尾目)は余裕でセーフである.つまりイシノミは,いわば昆虫の基本みたいな虫である.そう思うと何か歴史の重みというか貫禄っぽいものを感じますね(個人の感想です).
 ところでこの樫の樹種が気になった.はるか上の枝の葉と,足元の落葉,落ちた枝のドングリなどから,たぶんアカガシだと思う.このとき林床に散らばる様々な葉に樹種の多さを実感した.
 
351_lr-s
ヒトツモンイシノミ

351_ag
 
 この時期にここへ来るにあたって,期待していたものがある.ヒメカマキリの卵(卵鞘)である.ヒナ(鄙)ではなくヒメ(姫)のほうだ.淡路島は各所でヒメカマをよく見かけるので,探せば見つけられそうに思った.前々回書いたように,ヒナカマキリの卵は近場で押さえてあるので両方収録したいな的な考えからである.
 ただヒナのほうが小さいけれど白い色が目立つのに対し,ヒメのはやや大きいが暗い色で目立たない.動きのない目標を探すわけで,木の幹や切り株などをいつもよりゆっくりじっくり目で舐めていく.目を皿のように,と,漢字で書くと90度回転してると今気づいた.四ではだめか.
 樹皮にはさまざまな蘚苔類や地衣類がみられた.チャタテムシ類を見かけなかったのが意外だが,代りに変な虫を発見した.生えかけのコケみたいだが左右対称なので虫だと分かり注目.よく見るとアリヂゴクのような姿である.長い牙(大アゴ)がある.
 アリヂゴクの事を…以前(夏編第2回春編第12回)に出てきたツノトンボの類の説明で書いた…と思って今たしかめると書いていない.ツノトンボの幼虫は自走式のアリヂゴクなのである.それがこんな感じだ.アゴを全開にして草の上で獲物を待つ.
 ウスバカゲロウの類いの幼虫も似た姿だが砂の中で構えるので蟻地獄となる.どちらも脈翅目の仲間である.
 コケっぽいこの虫もそれら脈翅目の幼虫だとは思うが,分かるのはそこまで.詳細不明のままとりあえず撮影した.帰ってググると案外簡単に正体が判明した.コマダラウスバカゲロウの幼虫だという.ウスバカゲロウの類の中にあって蟻地獄しない変りダネらしい.少なからずファン(?)がいるようだ.私も今期から参加します.
 
368_lr-s
コマダラウスバカゲロウの幼虫

368_ag
 
 目を皿のようにして探したがヒメカマの卵は結局,古い抜け跡すら発見できなかった.思いつきではだめだ.成虫を拉致して産んでもらうのが良いかもしれない.成虫なら昨秋も二回ほど見ているし.

 転がっている朽木を崩してみると,今回もオオゴキブリがいた.あと甲虫類のツヤヒサゴゴミムシダマシやウロマの雌雄など.ツヤヒサゴゴミダマは飛ばない甲虫である.「ヒサゴ(瓢)」は瓢箪型のことをいう.以前(夏編第6回)に飛ぶのをやめて久しい甲虫としてホソクビキマワリを紹介した.「ホソクビ」と言ったり「ヒサゴ」と言ったり,同じ体形をいう異なる表現にすぎない.
 ウロマは学名の属名”Uloma”のことだ.日本産のこの属は数種いて,互いによく似ている.現場ではとりあえずウロマとの認識である.しかし種の識別はともかく雌雄は一目瞭然である.♂の胸(前胸背)には鈍い突起があるからだ.今回のはペアで,♀の方は明るい環境に割り出されたショックからか産卵管を突き出して擬死している.せっかくなのでそのまま撮影した.
 
428_lr-s

ツヤヒサゴゴミムシダマシ

428_ag
 
 朽木からはイシムカデ類のイッスンムカデも出た.カミキリの幼虫が掘った坑道に潜んでいて,動きが鈍かった.おかげでゴツゴツした背中の彫刻が良い感じに撮れた.
 今回は昆虫の基本みたいなイシノミが登場しているし,さらに昆虫ではない節足動物のイッスンムカデを図示して対比し,体節の機能分化とか付属肢の変形みたいな事をきちんと書けば,立派な解説になるかも,とも思ったが,虫嫌いをふやしそうなので自粛.
 興味のある方はウィキってください.普通のオオムカデ類(ムカデ亜綱)とイシムカデ類(ゲジ亜綱)の違いとかも面白いです.

 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2015年1月26日号-

Share on Facebook