津島の窓から 第6回

tsushima

ファンとおんなごころ

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 別に私だけじゃないから恥ずかしくない、という前提で書くが、女は小学校高学年ぐらいから高校生にかけて、十代のときに、好きな男性の有名人を一人作り、いちいち色恋というか「付き合いたい」だの「結婚したい」だの騒ぐことを日常としている。
 ミュージシャン、スポーツ選手、俳優、ジャニーズ、お笑い芸人。顔面を重視し、いちいち、付き合いたいかどうかということだけでファンになる。
「あのベースラインが」
「あのパスの回し方が」
「演技力が」
 とかいう目線でファンにならない。顔面が主な基準だ。こちらを知らない相手に対して本気で付き合いたいとかそういうことばかり一日中言っている時代が女には必ずある。授業中などは主にそのことを考えて過ごすし、彼に関する内容の手紙をこそこそ書いては友達に回し合う。熱愛や結婚を知ると、本気でショックを受けて、たいがいファンを辞める。そして、数年後、後で思い返すと「わああああああ」となる。ほとんどの女はそうなので、通過儀礼だと思いたい。

 私にも当然そのようなことはあり何人かのファンになった。当時は下敷きや写真集を買ったり、ファンレターを出したり、当たり前のようにポエムなんか作って、なんかもう、思い出すと「わああああああ」だ。具体的に誰のファンだったかは、もちろんここでは伏せたい。まだ活躍している人もいるし、勝手に好きになっといて今は「わああああ」と思っているということも失礼極まりないが、私的にはもう、ほんとうに「わあああ」なのだ、申し訳ないけれど。同年代の女との間のカミングアウトの場でしか言うつもりはない。というか言えない。


 
 しかし、はっきりいって、私なんか、選んだ相手に関してはだいぶマシなほうだ。当時の流行や何かを考えると、趣味が良いほうだと言える。カミングアウトをしたところで、特に笑いは取れないレベルだ。「それだったらそんなに恥ずかしくない」「全然マシだ」など、同年代の女にはよく言ってもらえる。

 私の中高生時代なんか、ビジュアル系バンドが異様にハヤって、やたらと、男が眉毛を整えたり髪を染めたり異常に美しくメイクをして、高音で歌っているようなのが流行っていた。私はそれらに全く興味がなく、かっこいいとも思わなかったし、そういう音楽も嫌いだった。
 申し訳ないが、ほんっっっとうによかったと思っている。
 当時、それらのファンになった同世代の女たちは、軒並みそれを恥だと考えており、口をそろえて黒歴史だと言うからだ。まあ、そりゃそうだろう。私は当時から、それらを好きになるのは恥ずかしいと考えていたので、回避に成功している。

 音楽の好みでいえば、「わあああ」歴史が皆無なわけではないが軽く済んでいる。基本的には女性のアーティストばかり好きだったので、その点非常に良かった。おかげさまで、後で「わあああ」となることもなく、当時から好きだった音楽を今も聴けるしずっとファンでいられる。勝手に色恋感情を抱くと、もうその音楽すら二度と聴けなくなる。そもそも音楽そのものではなく、メンバーの顔面のファンだったのだから今さら聴く必要もないだろう。十代の女は音楽を聴くのにも、ヴォーカルが男だと、付き合いたいとかの感情無しでは聴けないのだ。顔面を見ているだけでまともに聴いていない、とも言える。観賞用音楽だ。

 私の高校の一年後輩のFなど、とあるミュージシャンのファンだった高校時代のことを突っ込むと顔を赤くして
「いつまで言ってくるんですかっ!!! やめてくださいよっ私だって黒歴史なんですからっ!!! ほんまに自分でもなんで好きだったか理解に苦しむんですよっ」
 と今では本気で言われたくなさそうである。私も自分の過去のことは絶対に人から言われたくはないが、彼女ほど恥ずかしい趣味でもなかったという確信がある。彼女の趣味は、今の私たちの基準では常軌を逸しているにも関わらず、当時は本気でかっこいいだの結婚したいだの言っていたので、もう、今もついつい一年に一度は、からかってしまう。

 十代の頃は、必ず常に一人「付き合いたい」と思っている芸能人等が絶対にいないといけなかったが、大人になると、気付けば別にそういうこともなくなった。
「芸能人で誰が好き?」
 と聞かれても、特にいない! 即答できない! みたいなことがよくある。いやもうそんなもん、思いっきり顔面だけで答えれば向井理だったりもするのですが、別に彼の出演作品を全部見たり集めたり何度も見たり、結婚にショックを受けたり、そんなことは全然ない。昔の感覚で言えばこれは、別にファンとは言えない。ただ、かっこいいと思っているだけである。そんなレベルでも、好きな芸能人として言って一応いいのだろうか? でも、この程度なら言うほどでもないなあという感じもして、なんかもう、「ファンってなんだっけ・・・」と思っている。付き合えると言われたら余裕で付き合うが別にそのことを真剣に妄想とかはしないのが十代の頃と違う。

 そして、二十代後半になってから私の場合、まさかの大相撲ファンになるという人生のターニングポイントがあった。これは完全に「付き合いたい相手じゃないとファンになれない」という呪いから解き放たれたと確信した瞬間である。
「すごい!!! 力士とか全然付き合いたくないし、男として好きじゃないのに、相撲めっちゃ好き! ファンだ・・・!!!」
 という謎の新しい感覚に私は驚いた。付き合いたくないのにファンって!? 好きって!?
 好きな力士など、何人かお気に入りがもちろんいるのだが、別に付き合いたくないのだ。アリかナシかで言えば、なんなら無しである。でも、お相撲さんの姿を見ると、すっごくときめくのだ。この感覚が、本当に私の中では斬新だった。
 とはいうものの、バレンタインデー直前に出待ちして好きな力士にチョコレートを渡して、「キャァアアア渡しちゃったあああああ」とか黄色い声出しちゃったあたり、まだまだ、いくところまではいってない感がある。まだちょっと、何かこじらせている感も否めない。なんだろう。よくわからない。それに、よくよく調べてみると、無意識に力士の中でも、既婚者力士のファンになるのは避けているっぽい。付き合いたいわけじゃないとか言いながら、私が好きな力士は独身ばかり・・・! 先日、結婚を発表した横綱の鶴竜のグッズも今まであんなに買ったが、もう買うことはないし、今年の初場所は鶴竜を応援もしなかった。
 

 また、最近はすっごく久しぶりに好きなバンドができてファンになった。なんとヴォーカルは未婚の男である。でも、色恋感情無しに、その音楽が好きだと言い切れるのだ。なんて成長したんだ私は! 別に、付き合いたいとかそんなことを思っているわけでもないのに、彼らの音楽を聴くとすごくときめく。彼らのPVやライブDVDなどを見ると胸が尋常じゃなくキュンとしてしまう。なのに、別に付き合いたいとかじゃないのだ・・・! 彼女もいるらしいが、全く平気だ。こんなこと、十代なら考えられない。
「別に付き合いたくない男の音楽のファン」
 になれる日が私に来るなんて・・・!
 もちろんミュージシャンは顔面ではないし、その音楽と色恋感情は切り離して考えるべきであって、当然そうあるべきなのにそれができるようになるまでこんなに年数を要してしまった (そういう意味ではブルーハーツとかナンバーガールは好きで聴いてたけど、それができていた。なんていうか元から枠が違うじゃないですか)
 でも、なんだかんだいって、そのバンドのメンバーのうち二人ほどに関しては
「決してすっごいかっこいいとかじゃないし、別にかっこいいとか思ってないんだけど、なんていうか、アリかナシかで言えば全然アリっていうか、全然付き合える」
 とか確実に思っている自分も時々見え隠れしており、なんだかまだちょっとギリギリ危ない。っていうか、たぶん、まだちょっとダメだ。本当に、そういうのって完全に卒業できるのはいつになるんだろうか。

 でも、韓流ファンのおばちゃんとかを考えると、別に大人になったから必ず逃れられるものでもなく一生続いて卒業はないのかもしれない。ときめきは大事だし、悪いことではない気もするから、むしろ私も、何か芸能人とかで本気で付き合いたい人が一人ぐらいはほしい気もする。誰かいい人おらんかね。
 

 
 
 
-ヒビレポ 2015年2月5日号-

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