津島の窓から 第8回

tsushima

バリ島でラフティング(前半)

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 数年前、インドネシアのバリ島に観光旅行で行ったとき、同行者のワン助(犬好き)が現地でのラフティングを希望した。ラフティングとは、川の上流から下流に向かって(激流?)、ゴムボートで下るレジャーだ。ヘルメットやライフジャケット着用の上、パドルを持って漕いだりするアドベンチャー、なんか見たことはある。

 わざわざ日本で高いお金で予約をするのは嫌だし面倒くさいので、現地で適当に申し込むことになった。
 バリ島現地では、いたるところにツアーデスクはあった。路上に小さなテーブルとパラソルを出しているお姉さんやお兄さんに「明日のラフティングツアーある?」と聞いて、置いてあるパンフレットを見て申し込めばいいのだ。その場で、携帯でどこかに連絡をしてくれて手書きで伝票を渡され、予約完了だ。
 ところがパンフレットを見ると、内容が思っているのと全然違った。
 朝7時半だか8時半に、自分のホテルまで迎えに来てくれて、帰りにホテルまで送ってくれるのが夕方だ。ランチは金額に含まれている。拘束時間は約八時間から九時間。長すぎる。
 明らかにやりすぎじゃないか。バリまで来てラフティングに一日遣うだなんて。だいたい、何時間ラフティングさせる気だ。ちょっとやってみたいだけなのに、そんな何時間もやるなんて正気の沙汰とは思えなかった。
「ちょっとこれ長すぎるんじゃない? この半分の長さでいいから、半額ぐらいで無いの?」
 とお姉さんに言ったら、
「ないよ! でもランチも含まれてるしこのツアー超いいよ!」
 とごりごりに押され、
「いや、ランチとか別にいらんしラフティングも長すぎるし」
 とかなんだかんだ言っていたら、半額以下の値段でランチ付きのまま、そのラフティングツアーに申し込めることになった。結局時間は変わらなかったが、なんかしらんけどすごく安くなったので、よかった。いろいろ言ってみるもんだ。


 
 当日の朝、ホテルに迎えに来てくれた車に乗り込むと、オーストラリア人の家族がすでに乗っており、「ハァイ!」と笑顔で挨拶を交わした。
 パパはジョージ・クルーニーそっくりのハンサムなおじさんで、日本人なら絶対「白人はおじさんになってもかっこいいなあ!」とかコメントしたくなるようなかっこいい渋いおっさんだった。母親はおらず、兄弟四人は全員ものすごい赤毛でそばかすだった。母親似なのだろうか。上のお姉ちゃんのジェシー(のちに16歳とわかる)は日本ではまず見ないような超肥満体型で、助手席に座り、プリングルスを朝っぱらから一人で食っていた。海外のコメディに出てくるデブそのまんまだ。人懐こい性格なのか、ドライバーに、バリ島に関する素朴な質問やそのとき思った思いつきなどを常時ぶつけてベラベラと一人でしゃべっており、ドライバーに「あんたもチップス食べるか?」など聞いてプリングルスをあげようとしていたが、いらないと言われていた。
 真ん中二人は男の子で、8歳から12歳ぐらいだろうか、年も近いようで、二人でカメラで遊んだり、ああでもないこうでもないとキャッキャとしているのだが、行儀が良い。大声を出して騒ぐわけでもなく、とてもかわいらしかった。そして末っ子の女の子はまだ4,5歳で幼く、パパが付きっきりという感じだった。
 私とワン助がいろいろしゃべっているのは日本語なのでみんな何言ってるかわからないだろうが、この一家は英語でしゃべっているので、彼らの会話が全部筒抜けで、なんだかいつも英語が母国語の人には申し訳ないような気持ちになる。
 ところで自分たちは半額以下でツアーに申し込んだので、彼らが一体いくら払ったのか気になった。パパは値切りそうな人に見えない・・・。

 さて、車はホテルが居並ぶリゾートエリアを抜け、どんどん山奥に入っていく。そうか。川下りが上流から始まるってことは、スタートは山奥なのだ・・・。思ってたより随分遠い。ツアープログラムがやたら長い理由がわかった。往復の移動時間が単純にそもそも長いのだ。

 到着すると、車を降りて小屋で準備をした。そこから実際の川の乗り場へは急な長い階段を自力で下りないといけないのだが、ジェシーは肥満により膝が悪いのかあまり動けないのか、階段を下りるのにも、手すりにつかまって一段一段、尋常じゃない遅さで下っており、弟のうちの一人が付き添ってあげていた。私たちは、階段を下りたところで、ジェシーを待たされた。ジェシーは、まだ何も始まっていないのに死にそうな顔をしていた。

 同じスタート地点には他のツアー客もたくさんいて、にぎやかでみんなテンションが高く楽しい雰囲気だ。多数のツアー会社と船乗り場やルートは同じなのだ。
 うちのツアーは、私とワン助が二人で一台、オーストラリア家族が五人で一台、それぞれ現地のガイドさんが一人つくという構成で出発だ。出発地点では、いろんな国の人が乗ったたくさんのボートがあり、みんな、パドルで川の水を他のボートの人に引っかけてキャアキャアと、大騒ぎである。特に韓国人や中国人の若い団体の出発早々のテンションが半端なかった。彼らは見た目は同じ東洋人だが、たまにテンションがものすごく日本人と異なる。
 そんな中、明らかに私たちに狙いを定めて水をぶっかけてきたやつがおり、見ると、ジェシーんちのパパがやんちゃなものすごい笑顔でパドルを上げて見せてきた。まさかのおまえか!!! 渋い感じのかっこいいオヤジかと思いきや、お茶目である。ここはとにかく何らかのリアクションを取らないといけないので、
「オウノーッ!!!」
 などと大声で叫んでみたものの、水をやり返すほどテンションが急にあげられないのが、悲しき日本人だ。いや、他人に水かけるって結構勇気いるだろ。

 そろりそろりとスタートしたラフティングだったが、すぐにスリル満点のアドベンチャーな川下りとなっていった。ガイドの指示に合わせて、パドルを前や後ろに漕ぐ。楽しい! 時々岩にボートがぶつかるのも、なんだか、面白い。周りのボートでは、しょっちゅう、だれかが吹き飛んだり、川に落ちてしまったりしていたが、それはそれで盛り上がっていた。韓国人や中国人の団体は仲間が川に落ちるたびに大爆笑で盛り上がり、見ているこっちもつられて大笑いした。見ている分には面白いがぜひ自分だけは落ちたくないものだ。

 うちのツアーの二台は、常に一緒に行動することになっているので、少し離れたりした場合は、岩場で止まって一方を待つ。
 ところでジェシー一家を待っているとき気付いたが、私たちはいいのだが、あちらの家族を見ると、背の高いパパと、100kgぐらい余裕であるであろう超肥満ジェシーと、あと、どう見ても軽量の子供3人で、非常にバランスの悪い感じになっており、明らかに他のボートと比べて、なんか怪しい動きをしていた。素人目に見ても明らかにヤバそうで「あれ大丈夫なの?」と言わずにいられない。なんらかの拍子に、いつ子供三人のうち誰かが飛んでいってもまったく不思議ではない。気になるが、自分たちも激流に巻き込まれているので、あまり人のボートを気にしてもいられず、基本的には見ている場合じゃない。

 そのうち、こちらも、岩にすごいスピードでぶつかった衝撃でワン助が肩を強打し出血するなどちょっとした事故もあったが、ガイドに
「ディスイズアドベンチャー!」
 と言われ、ワン助も「yeah」など言って血を流しながらニヤニヤしていた。日本人丸出しの反応だ。まあ、ガイドの言うとおりアドベンチャーなので仕方ない。血を出したのは私ではないので知ったこっちゃない。

 途中、滝のある陸地で休憩がとられた。現地のババアが氷水で冷やした缶のコーラやビールをちょっと割高だがまあこの状況なら普通買うよなっていう絶妙な値段で売っていて、いい商売だなと思った。冷たい飲み物がとても美味しかった。
 
 
(次号・後半へ続く)
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2015年2月19日号-

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