津島の窓から 第9回

tsushima

バリ島でラフティング(後半)

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 
前回(第8回)からの続き
 
 
 そして、ラフティング再出発である。やっぱり楽しい! 何時間もやってどうすんだと最初は思ったが全く飽きない。ところが後半が始まってしばらくしたところで、何か後方で大声が聞こえ、うちのボートもガイドによって止められた。明らかに何か起きたようだ。なんだ。
 と思って、見ると、オーストラリア人家族の長女、肥満のジェシーが思いっきり川に一人だけ落ちており、
「ウォオオオオオオオオ」
 とひどい大声で号泣していた。
 うっわ、ジェシー・・・! 落ちてる! めっちゃ泣いてる! 私は笑いをこらえるのに必死だった。ギャグみたいなことになっている。コメディでのデブの役割をこなしすぎだ。残された家族はボートの上で茫然としていた。向こうのガイドに、ボートのところまで歩いて戻ってこいと言われているのに
「ノォオオオオ!! 怖いぃい!!! できないい!!!! 痛いぃいい!!! 動けないぃいい!!! ウォオオオオオオ」
 と大声で叫んで、ジェシーは川の真ん中に立ったまま動けなくなっていた。ちなみに、水位は腰ぐらいであり、歩くのは余裕なはずだが、本気で怯えきっており、動けないようだ。パパや弟が呼んでも
「無理だよぉお!! 手があ! 手を怪我してるんだよお!!! 痛いよお! 怖いよお!」
 と泣き叫ぶばかりで埒が明かない。ちなみに、どう見ても手のひらをちょっと擦りむいた程度である。パパや弟は本当に心配していた。あんなに最初はしゃいでいたパパがテンション落ちまくっていて、見ていて、むしろパパがかわいそうで仕方なかった。
 ジェシーがどうしようもないので、うちのガイドもボートを離れ、向こうのガイドと二人で救出に向かうことになった。ガイドが自分で川に入って、ボートの紐をつかんでボートを止めてくれていたので、問答無用でワン助に「おまえ、川に入ってボートつかんでろ」と指示が出され、ワン助は、川の中に腰までつかってボートの紐を持たされる羽目に遭った。災難である。


 
 そして、全然動かない肥満のジェシーを、大の男二人がかりで肩を抱え、もう、当たり前のように、私たちのほうのボートに乗せた。やはり、あっちのボートではバランスが悪かったのだろう。いやそりゃそうだろ、私が見たってわかったよ・・・。

 てか、そんなバランス破壊神である肥満ジェシーをうちのボートに乗せるのはやめてくれないか!?ともちろん思ったが言えない。しかも、ただバランスを崩すリスクがあるだけなら、どうせ落ちるのはまたジェシーだし我慢できるが、ボートの一番後ろでずっと「ウォオオオ」としつこく泣いているのだ。彼女も途中でラフティングをやめさせてもらうわけにもいかず、かわいそうに。とにかく川を下りきってしまうまでリタイアできないのだ。
 私とワン助二人はさっきまで楽しく、きゃあきゃあ言いながら笑ってラフティングを楽しんでいたのに、そんなもんが同じボートにいたら、はしゃぎたくてもはしゃげないし、もう、そんな気分にもなれない。実際、ジェシーが乗ったことによって、ガイドがスリル度を調節してゆるくしたのか、それとも超重量が加わったことによってスピードが出なくなったのかどちらか不明だが、さっきまでと比べて、露骨にスピードやスリルが落ちていた。アドベンチャーだったのに、いきなりゆるい川下りのようになった。
 いつまでも泣いているジェシーに
「もうこれ、そのうち終わるからさ、心配しないでよ。泣かないでジェシー」
 などと声をかけたが、てんで聞いちゃいない。もう早く終わってくれよ・・・という心境になり、大自然の中ウォオオオという泣き声をBGMに後半はほとんど楽しめなかった。

 しかし、そのうちいつのまにかジェシーは泣き止んでおり、いきなり、
「あんたのところからここへは飛行機で何時間かかるのか」
 と質問された。なんでそれを突然聞こうと思うに至ったか、まったく理解できない。ちなみにジェシーのところからは、3時間ほどだそうだ。「えっ!? 近っ!!!」とやたら変な反応をしてしまった。よくよく地図を考えれば確かにオーストラリアからインドネシアは近いのだが、なんというか、自分と同じカテゴリーであるアジア圏内のバリ島が白人の家からめっちゃ近い、ということがものすごく不思議な感じしませんか?(バリ島にはかなりの数の白人観光客がいるが、彼らの多くはオーストラリア人らしい。近いから)

 ガイドは、ジェシーに「ママはどうしたんだ」と聞いていたがジェシーは無視していた。どう見ても父子家庭なのに、せっかく泣き止んだ子になんてことを聞いてくれているんだ。たまに外国人は日本人では考えられないようなデリカシーの無い質問をするが、あれはなんなんだろうか。ガイドが年齢を聞くと、16歳だと答えていた。16歳って、川に落ちたからって、別に擦り傷程度のたいした怪我でもなかったのに、あんな大声でワアワアいつまでも泣くもんだろうか?普通。

 そして、いよいよラフティングはラストを迎える。私は全く知らずに心の準備ゼロだったが、このツアーでは、ラストで数メートルの落差をそのままボートで落下するというイベントがあったのだ。前を行くボートたちが次々と落ちていき、ギャアアアアアという遊園地の絶叫マシンのような叫び声が聞こえてくる。
 マジかよ・・・私は絶叫マシンは得意ではないのだ。
 しかしジェシーはこれがあることを知っていたらしく、
「来るぞ来るぞーッ!」
 といって嬉しそうに満面の笑みである。元気やないかおまえ!!!
 まだ、遊園地の乗り物なら、なんていうか、それ用に作られているわけだし、救命ベルトもあるかしらんが、思いっきり自然のそのへんの川の落差を、ライジャケ着用とはいえ、生身の身体一つで飛び降りていいわけない。怖すぎる。ていうか、うちのボートにはジェシーみたいな破壊神がいるのだ。もう、バランス崩して落下は免れないだろう。てか、打って死んだり怪我したり…というようなことを一瞬で頭で考えた。もう、だめだ。川には間違いなく落ちる。どうせジェシーも落ちるだろうが私も絶対落ちる、それは決定だ。

 なむさん・・・!
 という気持ちで、ボートは数メートルの落差を落ちていった。体感的には、本当に、飛んでいた。なんていうか、飛んでいたのだ。遊園地の急流すべりは、レールの上を滑り下りている感じがあるが、これは、単純に、何メートルか飛んでいた。ものすごい空中飛行感だ。もう、Let it goである。
 意外と無事に着水し、ラフティングはゴールを迎えた。向こうの家族とも無事に合流し、パパに
「ジェシーを一緒に乗せてくれてありがとう。ごめんね」
 と言われた。
「どういたしまして、問題ないですよ」
 と言うしかないじゃないか。ジェシーからのお礼はなかった。

 そして、ゴール地点の小屋でシャワーをして、ジェシー一家と一緒にランチである。いかにも現地のおばさんが作ったのであろうという感じの、焼きそばや焼き飯、野菜炒め、フライなどを、お皿に自分の好きなものを好きなだけ入れるビュッフェスタイルだ。運動したあと外で食べるランチだから何食べても美味しいかもしれないが、野菜中心のどの料理もめちゃくちゃ美味い! 気取っていない素朴な味だ。きっと、料理上手の現地のおばさんが作ってくれたのだ。と勝手に想像するとますます美味い。おかわりをして、たくさん食べてしまった。
 ジェシーもおかわりで二回目を取りに行っていた。二回目だが、尋常じゃなくてんこもりに盛られていた。おお、さすが肥満は違うなと感心していたのだが、なんでかしらんが、ジェシーはそれをほとんど残した。意味がわからん!! 一回目に多く取ったが味が合わないとかおなかいっぱいとかで残すんならまだわかるが、なんのために二回目取ったんだ。もう、意味がわからなすぎて、食べ物を残すのはよくない、バイキングでは食べられるだけ取りなさいという日本文化の私たちはショックを受けた。
 パパは疲れた様子で、別料金のビールを飲んでいた。そりゃ飲むよな、と思った。

 そして、また、それぞれのホテルまで車で送迎である。バンの中に、ジェシー一家が先に乗り込み何列も使って座ったため、私とワン助は、一家の中に交じってバラバラに座らされた。気遣いゼロである。しかも、末っ子の娘とパパが離れて座ったため、「すまないけど、彼女を見ていてもらえるかな」などと、なぜか子守まで頼まれた。おまえが一緒に座れや!
 途中、ジェシー一家のリクエストにより、小さいコンビニみたいなところに立ち寄った。パパはそこでもビールを買って車の中で飲んでいた。一人で四人の子供の世話してればそりゃ飲みたくもなるだろう。しかも、一番上が一番しっかりしていなくて手がかかるっぽいし、心労は計り知れない。そしてジェシーはチョコレートを買ってまた食っていた。そんなもん食わんでいいから、さっきの自分が皿に盛った焼きそば食えや!!!

 
 
 
-ヒビレポ 2015年2月26日号-

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