出版業界今昔モノ語り 第9回

shinbo
 
 
新保信長(「乱筆乱文にて失礼いたします。」連載中)
 
 
 
 
 

気がつけば編集・ライター生活も世紀をまたいで28年。
その間、テクノロジーは大きく進化し、
仕事で使う道具や仕事の進め方もずいぶん様変わりしてきた。
この連載では、そんな出版業界の仕事環境の変遷を、
道具=モノを軸に振り返ってみたい。

 

【その9】電話帳

 そういえばここ数年、タウンページの配布がないなあ、経費削減でやめちゃったのかなあ……と思って調べてみたら、まだちゃんとやってるらしい。じゃあなんでウチに届かないんだ、配達員がサボってんのか、と思ったら、タウンページNETの「よくあるお問い合わせ」に理由が書いてあった。
〈タウンページ・ハローページはNTT東日本・NTT西日本電話回線に加入契約いただいているお客さまにお届けしております。ご契約がない場合、無料でお届けすることができません〉
 ……そうだった、ウチは数年前に回線をNTTからJ:COM PHONEに変更してたのだ。やめちゃったのはNTTではなく私のほうだった。疑ってスマン、NTT。
 というか、配布されてないのに数年気づかないほど、使っていなかったわけである。タウンページで調べるようなことは、今はだいたいネットで済むし、そもそもタウンページ自体が「iタウンページ」となってネットで利用できるようになっている。

 しかし、90年代後半ぐらいまでは、仕事でタウンページを使いまくっていた。
 心に残るのは92年、直近5年のうち最下位4回、5位が1回と低迷していた我らが阪神タイガースが、亀山・新庄らの活躍で突如として優勝戦線に躍り出た年のことだ。当然、雑誌も阪神特集を組むわけで、日頃から阪神阪神言ってる私にもお声がかかった。街の虎フィーバーぶりをいろいろ取材するなかで、小ネタコラムとして「大阪と東京のカラオケ屋で『六甲おろし』が入ってる率」を比較調査することになった(今なら通信でどんな曲でも入ってるのが当たり前だが、当時は店によって入ってる曲が結構違ったのだ)。
 そこでどうしたかというと、大阪と東京のタウンページに載ってるカラオケ屋各100軒に電話をかけまくり、「六甲おろし」(正式タイトルは「阪神タイガースの歌」)が入ってるかどうかを逐一聞いたのである。結果は予想どおり大阪の圧勝。細かい数字は忘れたが、大阪9割、東京3割ぐらいだったか。その調査結果を丸ごとテレビにパクられたのも、今となってはいい思い出だ。私とライターさんがたまたま選んだ100軒×2に電話して調べただけの数字を出典も示さず、まるで公的な統計データのように扱っていたのには呆れたが、テレビにはその後も何度もパクられて、もう怒る気もしない。

 
 世間的には無名ながら業界では圧倒的シェアを誇る「知られざる独占企業」を紹介する企画でも、タウンページは大活躍。職業別になってること自体がまずネタ探しのヒントになる。ここぞと当たりをつけたら、その分野で企画趣旨に沿う企業がないか、いろんな会社や業界団体に電話して調べていく。「仕事現場の達人ワザ」みたいな企画でも同様に、タウンページを頼りに電話をかけまくった。「[謎の協会]の正体を探る」みたいな企画は比較的ラクで、タウンページに載ってる正体不明の「○○協会」に電話して、「何をやってる会なんですか?」と聞けばいい。

 電話帳ということでは、『マスコミ電話帳』(通称「マス電」)も必携だった。普通に市販されていて誰でも買えるものだが、各種企業・団体はもとより、小説家や漫画家、イラストレーター、映画監督、俳優、タレント、音楽家、評論家、学者など個人の連絡先も載っている。ただし、小説家や漫画家はかなりの大御所しか載ってない(しかも編集部気付だったりする)ので、その分野ではあまり役に立たないが、あるテーマについて評論家や学者のコメントが欲しいというときなどには、それなりに便利ではある。
 ちなみに以前、「芸能人の電話番号がわかる!」という謳い文句の情報商材を高額で買ったらマス電が送られてきたという話(ネタ?)を聞いたことがあるが、もちろん事務所の電話しか載ってないのでご注意を。

 NTTの資料によれば、日本で最初に電話帳が作られたのは1890年(明治23年)。電話開通と同時に「電話加入者人名表」というのが発行された。東京・横浜で197件(官公庁、法人等含む)の加入者が電話番号順に掲載されていたという。個人では渋沢栄一、岩崎弥太郎といった歴史上の人物が名を連ね、今は天気予報の番号である177は大隈重信の番号だったらしい。
「職業別電話番号簿」が登場したのは1951年。名称を「タウンページ」としたのが83年で、東京23区で「インターネットタウンページ」のサービスが開始されたのは96年のこと。その後、98年にインターネットタウンページのサービスが全国に広がり、2000年からは「iタウンページ」という名称でのサービスとなっている。
 その頃から紙のほうのタウンページを使うことはほぼなくなった。いや、実はiタウンページも個人的にはほとんど使ったことがない。単純に連絡先が知りたい場合もネタ探し的な意味でも、普通にネット検索したほうがはるかに有効な情報が出てくるわけで、わざわざiタウンページを使う理由がないのである。

 とはいえ、出版社とか映画会社とかレコード会社とか芸能事務所とかで、公式サイトに電話番号が載ってない会社が意外とあるから油断は禁物だ。「会社概要」のページを見ても住所だけで電話が載ってなかったり、「お問い合わせ」もメールフォームだけだったり、カスタマーセンターの番号しかなかったり。私の探し方が悪いだけでどこかに載ってるのかもしれないが、あれはいったい何なのか。一般のファンからやたら電話がかかってきても困るというのはわからなくはないけれど、問い合わせや取材の申し込みをしたいときには大変不便。
 そういう場合はおもむろに『マスコミ電話帳』のページをめくることになる。手元にある2012年版の表紙のキャッチコピーは〈ネットには意外と載っていない! 約2万件の最新連絡先を収録〉。なるほど、いいとこ突いてるのだ。
 そんなわけで、いまだにマス電は手放せず、数年に一度買い替えている。……つーか、いま気がついたが、そういうときこそiタウンページを使えばいいのか!? と、試しに某大手出版社を調べてみたら……うわー各雑誌の編集部の直通番号まで全部載ってるじゃん! iタウンページ超便利! いやはや、灯台下暗しとはこのことか。

 

【参考サイト】
電話帳の主な歴史

「開港のひろば」114号

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2015年2月27日号-

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