津島の窓から 第11回

tsushima

突然の人生劇場

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 今回は、先週とは打って変わり、日常に潜む地味で些末な問題についてお話したい。会社で使うティッシュ問題である。もうはっきりいって、どうでもいいと思われること百も承知だ。が、ピンと来ない方には、なにげに重要な問題であり、場合によっては職場で喧嘩になってもおかしくないとわかっていただきたい。当事者にとっては真剣な問題である。

 つまり、会社のデスクに置いてある箱のティッシュ(個人的な使用)は、個人が用意するべきか、それとも会社が買うべきかという問題である。平たく言うと、自腹VS経費の闘いである。

 まず、私は長年、そんなものは当然会社で買う備品の一つだとずっと思っており、疑ったこともなかったので、今勤めている会社ではティッシュは会社で買わないという方針だと聞いて、本当に驚いた。それはもう耳を疑ったほどだ。そして速やかに
「え? ありえなくないですか?」
 といった立場を明らかにし、文句を言った。私はこれまで勤めていた会社数社で、自分で箱のティッシュなんか用意したことなど一度もなかった。本当に信じられない、という気持ちだった。私の感覚では、それは、トイレで使うトイレットペーパーを自分で用意しろとか、もっといえば、トイレで流す水を自分で用意しろ、ぐらいの横暴に思えた。

 私なんか、会社で使うティッシュ代すらケチられるような価値のない人間だ、と言われているような気がしてとても悲しかった。もう、他社の友達にこんな恥ずかしいこと言えない! ティッシュも買ってもらえないだなんて! ぐらいに思って、新入りの私は本当に傷ついたのである。


 
 と言っていても、デスクにティッシュはやってこない。私は泣く泣く自分でティッシュを用意した。いや、実際に何円かとかいうと、箱のティッシュ一箱なんて、別に自腹が痛いようなたいした金額ではない。だが、会社に持っていくとなると、会社の付近に店は無いので、自分の最寄駅のドラッグストアか何かで、5箱入りティッシュを購入するじゃないですか、そして、ビニルを取って、一個だけ、また朝、家から満員電車でギュウギュウに潰されながら会社に持っていく労力。重くはないがもちろんかさばる。それを、カバンから取り出し自分のデスクに置く瞬間の屈辱感。自分は何をやってんだと思うじゃないですか。思うんですよ。あああ、本当に嫌だ。
 そんな思いをして持って行ったティッシュ一箱が減るペースというのは、意外とそんなに頻繁ではなく、まあ忘れたころに無くなるのだ。用途というと、主に、鼻をかむ、目薬のあと目の周りを拭く、なんかこぼれたらちょっと拭く、個包装されていないお菓子をもらったときの置き場、ぐらいだろう。鼻の風邪でも引かなければそんなにしょっちゅう減るもんでもない。だが、とにかく自分で買いたいと思えないのだ。私はことあるごとに、隣に座っている上司に文句を言い続けた。

 しかし、仕事に慣れた今では自分の仕事内容も認められ、非常に職場の皆さんに大切にしていただいていることはよくわかっているしとても感謝している。ティッシュ以外のワガママや要望は全て通ってきた。そう、ティッシュ以外は! 例えば休みの希望や加湿器購入の要望などだ。

「ティッシュも買ってもらえない私なんて」とは思わなくなっていたが、「ティッシュも買ってくれないケチ会社が!」という考え方になっていた。

 隣の上司は、
「津島さんがあまりに言うからさ、僕も調べたんだよ。そしたらさ、本当に真っ二つに分かれるみたいだね。ティッシュを会社で買うべきかどうかって」
 などと言う。
「え? 真っ二つ? 普通買ってくれますよ!!」
 と私もしつこく言い返していたが、実際インターネットで調べてみると、まさに真っ二つのようなのである。意外と買ってくれない会社というのもあるのだ。買ってくれて当然だと思っていたが別にそれが常識というわけでもないようだ。自分の常識を世間での常識と思ってはいけない、と改めて教わった。

 ティッシュの使用なんて個人的なことなのに、会社が買う必要はないと考える人も多くいることを知った。なるほど、確かに、上にも書いた私のティッシュの使用目的は、業務とは関係ないことが99パーセントを占める。そう言われてしまったら、確かにぐうの音も出ませんわなあ。でも私の感覚では、だったらトイレットペーパーはなぜ買ってもらえるんだとやっぱり思う。経費の人で買うものではなく、ビルのテナント代とか清掃代の一部?になってる?だからアリなのか?人によっては別物なのか?

 あと、特に備品係からの意見としては「花粉症や鼻炎の人が、会社の経費で買ったティッシュを大量に使うのは腹が立つ」といった意見もネットでは目立った。確かに、そういう物品購入係りの人からしてみたら自分が注文しているから数量や金額が目に入る分、腹が立つかもしれない。なるほどね・・・。

 他には、自腹のティッシュを机などに置いておくと他人が使うことが問題になっているケースも見られ、「自分のティッシュを使われて腹立つ」という意見に対し、それぞれ各自が引出しにしまうべきだのアドバイス云々。そうでしょうそうでしょう、会社で買ってくれなかったらそういうトラブルもあることでしょう。どうだみたことか。会社で買ってくれていればそんな同僚を泥棒扱いしたりしなくていいのである。

 って、会社のティッシュ問題で、十分揉め事に発展しとるやないか!!! しょうもなっ!!! しかし、非常にどうでもいいことと見せかけ、このようにけっこう根深い問題なのである。

 ほんっとにどうでもいいねと思われる人もいるのはわかるが、日本中で、論争が起こっており、実際職場での諍いもちょいちょい起こっているのだ。わかる私はよーくわかる。当事者は真剣なのだ。

 ちなみに我が社というか我が部署ですね。課長や主任クラスの人たちが、「会社の方針だから」とひたすら拒んでいたティッシュだが、部長的な人の耳に入ったのは実は初めてだったらしく
「え? なに? 買えばいいじゃん」
 の一言で、最近あっさりと部署で購入になった、という非常によくわからん結末を迎えた。なに、会社の方針とか言ったのだれ? 本社とかそういうの? 知らんがな。

 この数年の攻防はなんだったんだよ。
 
 
 
-ヒビレポ 2015年3月12日号-

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