津島の窓から 第12回

tsushima

探偵社の美少女(前半)

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 時折、小説や映画には
「とんでもない美少女で、最初はみんな容姿に騙されるが実は病的に性格が悪く周囲を破滅に追い込む」
 という設定の登場人物が出てくる。村上春樹作品「ノルウェイの森」なんかにも出てきた。そんな人間、あまりに現実離れしており、存在するわけない、小説だけの話だ。そう思っていたことが、ええ、私にもありました。

 私が出会ったその人は、間違いなく、天使のような美少女だった。そして、病的な性格で、周囲を破滅に追い込んでいった。というか、実際、一社つぶしやがった。

 季刊レポ本誌18号に登場した探偵社の社員であり、社長の愛人、高橋(仮名)である。これから二週に渡りお話しする。

 結果的に探偵社の全員が男女問わず被害者となった。私は、彼女が見習いで入ってきて、まだめっちゃくちゃ猫をかぶっている時代に退社したため、実際の被害はないといえる。しかし、そのかわいすぎる顔には騙されていたので、まあ、被害者のような気分である。

 その後、正社員になった彼女が社内で行った蛮行は、社長の愛人というポジションに力ずくで就任を始めとして、日常的に、自分の失敗を他人になすりつける、しょっちゅう嘘をつく、意味もなく他人を陥れる、自分が責められるたびに泣き相手を黙らせる、など数知れない。

 破滅的な性格の人は、この世界に普通にいるのかもしれないが、あそこまでの顔面がセットになると、思いのままに他人を操れるんだね。と、一人の人間が顔面で世界を動かす様の一部始終を見させていただいた。まるで映画や小説のようでございました。ほんっとに、顔がいいと、同じ次元でストーリーは進まねえな。


 
 まず、高橋の風貌について説明したい。私が出会ったときの高橋は二十二歳。ほんっとうに天使か!と思った。少したれ目気味の童顔で、「美人」というより「美少女」といったほうがしっくりくる。本誌でも、某アイドルにそっくりだと書いたが、本当に似ている。

 そして、スタイルも抜群である。「日本人離れした」という形容がふさわしい。すらっとした長い手足を持っているが、背が高すぎることもなく、とにかく均整がとれている。例えるならロシアの十代のフィギュアスケート選手の少女みたいな体型をしている。

 書いていて、その後あいつがやりやがった蛮行を思うと悲しくなってきた。ほんっとうに、かわいかったんですよあのときの高橋は。

 よくブスに限って「性格って顔に出るからね!」と偉そうに言っているが、そんなことはない。高橋ほどの美少女になると、一切、顔になんか出ないと私は断言する。あの顔を見て性格が悪いんだろうなどと疑う人は、いない。かわいくて素直で性格が良い子だと誰もが勝手に思い込むのだ。そして、高橋もそれをよくわかっているし、猫をかぶることだってできる。ほんの数か月は。

 ところが、謎なことが一つあるのだ。高橋は異常に写真写りが悪い。おそらく、今私がここで高橋の写真を見せても、みなさん
「え? そんなかわいいか?」
 とか、下手したら、「別にかわいくないじゃん」と言うと思う。なぜかは知らん。彼女のFacebookやプリクラや会社で撮った写真、全部全然かわいくない。もちろん、別に変顔をして写っているわけではなく、普通に笑顔でカメラ目線で写っているのに、なぜか全然かわいくなく、実物と同一人物とは思えないほどである。ここまで写真写りが悪い人など見たことない。というか別人だ。普通は良くも悪くも実物相応になるはずだ。

 履歴書の写真も実物と随分違ったため、私たちより先に実物に会った女の社員が、普段冷静で低い声でぼそぼそしゃべる人なのに、必死になって
「実物はこの写真よりずっとかわいいですよ!! こんなんじゃなかった!(某アイドルの)○○に似てます!っていうか、◯◯よりもかわいいかも…」
 と言っていたほどである。

 とにかくかわいかった高橋。最初は何を教わってもあのかわいい顔で、「はいっ」と答えるという真面目な演技をしていた。そんなかわいい高橋を普通の男性社員が放っておくはずがあるかっていうと、もちろんないですよね。

 かなりの初期段階で、社員のN村は高橋を好きになって勝手に告白の手紙を出していた。いまどき、手紙でコクるって。彼もかなりの変わり者である。

その団体における最高権力者やリーダーの女にならなければ気が済まないという高橋の性癖、そして、妻子がいる人しか興味がなく、他人の物を奪い取る形でないと付き合わないという高橋の不倫癖など誰も知るはずがなかった。高橋は、自分の容姿で勝手に好きになってくるようないくらでもいるフリーの男になど一切興味がなかったのだ。N村は、あっさりと断られ、その話はいったん終了したかのように見えた。

 しかしその一カ月後。新人の女子Y美ちゃん(同じく当時22歳)の入社により、事態は一転する。Y美ちゃんはなにが良かったのか知らんが、入社早々、N村を好きになったのだ。新人なのに、調査でN村と一緒だと緊張しておなかが痛くなるという理由で調査の途中で早退するという前代未聞の恋する乙女ちゃんが入ってきてしまった。N村も彼女の好意にはうすうす気づいていたが、それはそれと割り切り、貴重な新人の育成に力を入れ熱心に教えることにしたという。

 まあ、それが気に入らないのが高橋である。レポではすでに何度も登場しているエリート探偵、尚子に相談があると持ちかけ呼び出した。

 高橋は、あのかわいい顔で大きな瞳から涙をぽろぽろとこぼしながら、まるでN村がY美ちゃんを狙っているかのように尚子に話した。
「N村さんはひどいです。私のことを好きだといっていながら、私がダメだったからといってすぐに次。N村さんは誰だっていいんです! それなのに私にあんな手紙なんか出して・・・N村さんはひどいです! 私は悔しくて仕方がないです」
 どさくさに紛れて、秘密裏に手紙を出していたことまでおしゃべりの尚子にバラされてN村かわいそうだ。というかそれも計算か?

 尚子は簡単にその話を全て鵜呑みにした。いや、尚子は悪くない。あんなにかわいい顔で目の前で泣きながらそんなことを言われたら、誰だってそうなる。

 高橋は、男女問わず、人を騙して自分の思い通りに操るプロだった。でも、結局は病的な性格の持ち主なので、本人は別に嘘をついたり人を騙しているつもりはなく、意外と全部、素のままなのかなとかも思ったりもするのだ。もう、高橋のことはよくわかりません。

 その場で、高橋は
「N村さんはロリコンなんです! だから若ければ誰だっていいんですよ」
 と言って泣いたそうだが、いくら自分が美少女だからって、二十歳を超えているのに自分でロリとか言っちゃうのはどうかと思う。N村みたいな三十を過ぎたおっさんが、十も離れた女の子にコクってるのはそりゃ確かにずうずうしいし、キモい。だからって、成人女性が対象なのに、ロリコン扱いはひどいじゃないか。が、その場では、そうだよそうだよってなるんです。高橋パワーです。

 酒の力もあって、尚子は激怒し
「N村、あのロリコン野郎、許せない!!!」
 と、さっそく、調査終わりのN村を、駅前に呼び出した。そして、公衆の面前、東京屈指の繁華街の駅前の交差点で、なぜか全力でN村をビンタしたという。

 ビンタ・・・!

 なかなか自分の周りで、ビンタってほんとにやってる人って見ないんですけど・・・熱すぎる。

 交差点でビンタするだけして、そのまま尚子は高橋と駅の改札に消えて行き、残されたN村はとにかく茫然としたと本人が言っていた。ちなみにN村はボクシングジムに何年も通っており熱心にトレーニングを続けているのだが、突然の意味のわからん交差点でのビンタには、一切何もできず、ただ受けるしかなかったという。

 のちには、語り草となる笑い話だが、解せないのは、N村に
「ほんっと面食いだよね」
 と言うと、いまだに
「自分が好きになったのは見た目は関係ないし、むしろ高橋さんは好みじゃない。新人なのに前向きで真面目になんにでも取り組む姿がいいなとあのときは思った」
 と、必ず、容姿じゃないというアピールをすっごくしてくるところだ。いやもう、あのレベルの容姿の人間相手に何言ってんだ信じられるはずねえだろ! しかも何見た目に騙されてんだ性格最悪じゃねえかってことで、まあ、N村は一発殴られてもいいと心から思っているので、ビンタ事件も、ある意味では同情していない。

 高橋物語は次回へ続く。

 
 
 
-ヒビレポ 2015年3月19日号-

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