津島の窓から 最終回

tsushima

探偵社の美少女(後半)

 
津島千紗
(第18号で「“本物の”探偵物語」を執筆)
 
 
 
 先日、エリート探偵として探偵社で活躍していた尚子から、飲み仲間に連絡が入った。すでに退社している私とN村に、現役の尚子といういつもの三人組だ。

「クビになった。せいせいするけど、クビってのがムカつくわ」

 そして、居酒屋にて緊急集会が行われた。

 会って早々、尚子は激昂しており、一部始終を話す気満々と見てとれた。
「混み合っておりますので、お時間二時間制となりますがよろしいでしょうか?」
 と言われている安居酒屋から二時間で追い出されるまでに、おそらくまるまるかかる。一次会はそれだけで終わる。めんどくせえ。

 尚子は、探偵社で起こった何かを説明する際、何があったか端的に説明せずに、一から十まで時系列に話す癖がある。しかも、本線と関係のない膨大なサブストーリーを織り交ぜてくる。ほぼ社員全員を登場人物として登場させながら、誰がそれでどう言ったら誰がどうしただの、そもそもその背景にあるのは誰がこのときこうしたから誰々が誰を嫌いでどうのこうの、誰々はそのことについてこう考えているからどうのこうの。(ちなみに、私がすでに退社している探偵社の内部事情についていまだにやたら詳しいのは、尚子と飲み仲間だからである)

 絶対このパターンであることが、開始早々予測されたので、今回は先制して、
「とりあえず一言でまとめてよ」
 と言えたので、話を聞くのが随分楽だった。

 私の予想では、まあ、尚子がクビになるほどの仕事での失敗をするということはないだろうから、社内の人間関係で揉めて、その結果どうせ社長と言い合いのケンカになったのだろうと思っていた。

 ところが、
「え? そこォ!?」
 と叫んでしまったのだが、尚子が探偵社をクビになったいきさつには、そう、あの、探偵社社長の愛人であり、天使のような美少女、高橋が大きく関係していたのである。


 
 それでも尚子の話は長かったが、非常にざっくりとまとめると、
「社長が愛人を清算した結果、それに巻き込まれた」
 である。

 愛人様という非常に微妙な存在を社内で知られていたり、知らない人もいたりの中、とても嫌な雰囲気ながらも会社は続いていたのだが、その内部バランスが崩れる出来事があった。

 高橋が、新たに他の社員と不倫する事件である。探偵社にルーキーとして入ってきた妻子持ちの社員の男と、肉体関係を持ったとのことだ。もちろん、高橋から仕向けた結果だ。その男の妻は妊娠中で里帰りしていたそうだが、そのシチュエーションに浮気など、ベタというか、よく聞くようで意外とそんなやついねえだろ、と思っていたので、ほんとにいるんだな、と思った。世の中は、都市伝説と思っていたようなことがけっこう本当に起きている。

 高橋は狙った獲物は逃さない。というか、高橋のあの顔で迫ってこられたら、男は誰も拒めないに決まっている。蛇に睨まれた蛙。高橋に迫られた男根。何もできないと諦めなければならないと言えるだろう。

 まあそれが社長の耳に入ることとなり、あの、プライドの高い社長ですよ。社員の男と浮気した愛人を許せるはずもなく、もう高橋との関係を続けるわけにはいかない。高橋をクビにしたいと考えた。

 もちろん、高橋一人をクビにすれば話は簡単だが、あの高橋のこと。またあのかわいい顔に大粒の涙をボロボロとこぼし、大騒ぎは間違いない。あることないこと吹聴して周囲を味方につけようと画策することは目に見えている。それどころか、妻に不倫をバラされないとも限らない。
 高橋が浮気をしたからそれが気に入らなくて高橋一人を切った、と思われないためには、他に何か適当な理由をつけて他の社員もクビにするしかない。
 というのが、多少の憶測も入っているが、今回の真相である。

 今回、尚子の他にクビになった社員もいたが、それは全員、高橋と社長との関係を知っている人間だったそうだ。ついでに、二人の関係を知っているやつを一掃してしまおうという狙いもあったのではないかと尚子は言っていた。

 尚子が社長に呼び出されたとき、社長は異常に緊張しており、自分が呼び出したくせに何度もトイレに行ったり飲み物を持って来たり、部屋を出たり入ったりして、
「なんなんですか!! 早くしてくださいよ!!」
 と一旦尚子を怒らせたそうだ。一応、大義名分として
「新人も何人か入れたし、これから新体制でやっていきたいと思ってる。そのとき、おまえの存在が正直ちょっと難しくなるんじゃないかと思って・・・」
 と、組んだ指をがたがたがたがた震わせながら言ったそうだ。普段偉そうにしているが、さすがに言いにくかったらしい。
「クビってことですか」
「まあ・・・おまえにできる限りのことはしてやりたいと考えているから・・・」
「けっこうです!」

 不倫発覚の当初の影響によりベテラン勢が退社したのに、会社の営業も調査でも今では一番の結果を出している尚子まで失って、どうする気だ。一掃した結果、新人の素人しか会社に残らないじゃないか。

 とにかく人が消えていく会社だが、会社設立当初から経営に携わっている生き残りのおっさんが一人だけいる(一緒に調査のとき、おやつとかいつも買ってくれていい人だった)
 尚子が退社手続きをしていると
「昔はみんなでがんばろうって会社だったんだけど、変わっちゃったね」
 とさみしそうに言っていたそうだ。

 N村は
「だから言ったじゃん! そういう不倫みたいなことはダメなんだって! 会社まで一社潰してどうすんだよ! こうなるんだって。ほんっとに。こんなことになるんだから!」
 と頭を抱えて絶叫していた。
 一人の女が会社を崩壊させるストーリーを体験してしまった私たちであった。

 首になったその日、キレまくった尚子が荷物を片付けていると、高橋が現れて、当の本人はどういう事情だと思っているんだか、例によってあの顔に涙を浮かべながら、
「尚子さん、私に至らないところがあって申し訳ございませんでした」
 と頭を下げてきたそうだ。それには尚子もしんみりしてしまって涙が出そうになったので
「いいから! やめて! やめて!」
 と言ったそうである。その涙を見て、尚子は、この子は本当に人としていけない部分もたくさんあるけれど、狙ってやったことではなく、結果的にそうなってしまったことなのではないかと思ったそうだ。おそらく、そのときの高橋の涙と謝罪には嘘はなかったはずだ、と。

 まだ騙されてんのか?という気もしないでもないが。男女問わず、いくら騙されても、あのかわいい顔を見ると、どうしても許してしまう部分もあるのだ。

 しかし、別に悪気があってやったことではないのに、そうなってしまったというのもわかる。そういうことは、人には多かれ少なかれもちろんある。それが、たまたま美少女で、かつ、たまたま病的な性質の持ち主だと、ここまでの事態になるというだけの話かもしれない。
 
 この世界に起きることの中には、小説みたいな話もあるし、都市伝説みたいな話もある。自分の世界で起こりうると想定する範囲や自分の常識を遥かに超えたことも時々起こる。
 そして、ないところにはないと思うが、あるところには肉体関係がやたら縦横無尽に張り巡らされており、時々、世界を崩壊させる。
 そんなことを思ったし、それが今回の私の連載の最終回を持って皆様にお伝えしたいことかもしれない。
 
 今期も、十三回の連載を読んでいただいて、ありがとうございました。
 
 
 
 
-ヒビレポ 2015年3月26日号-

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