今朝はボニー・バック 第59回

bonnie

ボニー、大いに煩悶する

 
ボニー・アイドル
(第19号で「地下アイドル」執筆)

 
 
 
小一時間余、煩悶している。
3月17日、つまり今日の正午過ぎ。前日に乃木坂46握手会本の印税がやっとこさ入金になり、ぼくは家賃や任意整理した借金、ケータイ料金なんかを払いに吉祥寺の銀行回りをしていた。
ゆうちょ、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行と回り、あとは三井住友銀行のみである。
入金前の預金残高がゼロなのは百も承知なので、一旦、振り込み金額2万円を預けたのち、振り込み手続きにすることに。ついでに通帳記入も済ませる。
なんの気なしに記入を終えたばかりの通帳を開いてみた。
残高はいま預けた2万円ポッキリ。なハズが、そこに記入されていたのは、
84,200円。
Why? なぜに。
永ちゃんの巻き舌を真似ながら通帳の記入履歴をもう一度確認してみる。
覚えのない64,200円は、3月10日に某出版社から振り込まれていたものだった。

某出版社——以後、A社としておく、から3月10日に振り込まれた64,200円。これは去年の年末にA社から発行されたムック本の原稿料だ。この数字に間違いはない。
問題なのは、それから遡ることひと月前の2月10日にも同額の原稿料が振り込まれているということである。
ひと月前、金欠で身動きの取れなくなったぼくはA社の担当編集であるBさんに内情を打ち明け、原稿料の前払いをしてもらった。
「本来は3月10日の振り込みですけど、イイですよ。今月10日に振り込むよう経理に言っておきます」
電話でBさんが言っていたのを思い出した。
つまり、この64,200円は前月に前払いをしたことを経理担当者がうっかり見落とし、正規の支払日である3月10日にもう一度振り込んでしまった分と考えて間違いないだろう。


 
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通帳を見て一瞬のうちにすべてを理解したぼくは、とりあえず支払うべき料金を先ほど入金した2万円の中から振り込み、ついでに残高全てを引き出した。A社が間違って入金した分含めて。
銀行の外で一服つけながら考える。
さて。どうしよう。
64,200円。
来月の家賃そっくり浮く上に、欲しかったニューバランスも買える。すっかりご無沙汰している西荻のキャバクラGにも行けるだろう。そういえば、ぼくのお気に入りの杏ちゃんから先日「今月でお店卒業するからそれまで遊びに来てね♡」というメールが来てたっけ。
ガメるか。
いや、A社のBさんはフリー1年目のぼくに商業誌デビューの場を作ってくれた恩人だ。それからも年1回とはいえ、毎年発行されるムック本に声をかけてくれるではないか。
やはり、連絡した上で返した方が…。
とは言っても、こちとら去年の11月以来、定期のバイトも決まっていない糞ビンボー人。今は乃木坂本の印税で何とか糊口をしのいでいるが、それが底をついたら最悪の場合、段ボール生活も覚悟しなければならない。
やはり、背に腹は代えられないのでは…。
いやいや、そもそも今回、A社がギャラを二度振り込んでしまったのは、ぼくが無理言って前払いを頼んだのが原因だ。それをそっくりガメてしまおうなんて、A社とBさんの恩を仇で返す行為である。
いや、待てよ。そもそもA社が発注してくるムック本は「カネ」と「女」という男の二大欲望がテーマだ。これもひょっとしたら「年中金欠のライターにギャラを二重に振り込んでみたら」というお笑いウルトラクイズの人間性クイズのような実態調査企画なんじゃ…。それなら、ここはガメて豪遊した方が原稿を書く上でオイシイのでは。
つーか、6万円をエサ代にしてまでやる企画か、それ。

ひとり煩悶していてもラチが明かないので、業種は違えどフリーで活動している友人に相談して見ると、
「しばらく放っておいてはどうか」
という意見が返ってきた。
ぼくもその手は考えた。だが、先方は遅かれ早かれ二重に振り込んでいたことに気づくだろう。その時、
「あれぇ〜? ホントだ、たしかに二回入金になってますネ。すぐに指定の口座に64,200円振り込みます!」
と演技する自信がぼくにはない。
自首するなら早ければ早い方がいい。当たり前だけど。

というワケで、(近い将来、64,200円分の仕事振ってくださいよ)という淡い期待を抱きつつ、正直にBさんに電話で報告することにした。
ところが。
Bさんは本日お休みを取っているというのだ。明日は出社するらしい。
ぼくの煩悶はもう少し続きそうだ。
 
 
 
-ヒビレポ 2015年3月24日号-

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