半澤と12人の優しい既婚者 第3回

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僕はこれから何度ディズニーランドに行くのだろう?

 
半澤則吉(18号で「病人」を執筆)

 
 
 
優しい既婚者2人目
M夫妻
夫54歳 妻54歳
結婚28年目 子供2人(20代)女
 
 

【フードコートを遠く離れて】

 「フードコートってあるだろ、ああいう所行くと、昔を思い出すよ」
 しんみりと発せられた言葉はズシリと重たくて、目の前に置かれたコーヒーの味をより濃いものにした。代々木と新宿の間にある巨大なマンションの一室。桜の花を散らす春のやわらかな雨がしとしと降っていて、窓から見える景色は灰色だった。結婚というものについて正面から向き合う本企画、2人目の優しい既婚者は母方のおじ様と、また近場へのアプローチだ。
 銀婚式もすでに越えた、人生の大先輩は昨年長く勤めた会社を辞め独立、新宿駅から徒歩10分の好立地に事務所をかまえている。たまたま会う機会があったので話が聞けたが、早いうちに結婚歴が長い人の話を聞いておきたかったのもまた事実。前回は2人目を授かったばかりの幸せ一杯の一家に話を聞いたが、今回はテイストが違う。「違う」ということに気付いたのは、おじさんが結婚について語り始めてすぐだった。「幸せでない」訳ではない。「幸せ」の形が変容しているのだ。曇天と苦いコーヒー、そしてひとつひとつ確かな説得力を持つおじさんの言葉。今回はしんみりとお送りいたします。


 母の弟にあたる彼には小さい頃からだいぶお世話になってきた。横浜に住まうおじさん一家が実家に帰省した折にはいろいろな場所に連れて行ってもらった。僕が子どもの頃には、それこそ冒頭にあげたフードコートがあるような場所によく出かけたものだ。だが当然ながら、彼の子ども(僕のいとこ)が大きくなるに連れ、また僕ら兄弟(私には3つ下の弟と6つ年下の妹がいます)が歳をとるに連れ、「どれみんなで観光地へ」という機会も減り、フードコートでの団らんは過去の出来事となり久しい。孫と遊ぶことを視野に入れサンルーフ付きの大きなワゴン車を買った祖父も亡くなってけっこうな時間が経過してしまったが、まだ20代前半のいとこも、結婚適齢期を越えた僕や僕の兄弟もみな未婚で、子どもはいない。それゆえ我々親戚一同には現在「子ども」というものが存在しない。(母方の他のいとこにも、父方のいとこも、僕より年下で誰も結婚していない)子どもが大きくなることで、家族の関係も変わるということをおじさんの話を聞き実感させられた。どこの家でもそうだろうけれど、と前置きをしながらも、「向こうも思ってるはずだが、こんなはずじゃなかった……」、「亭主元気で留守がいい、は事実」、「結婚はメルヘンではない」とスラスラ出てくる箴言の数々は、なるほど目下子育て真っ最中の家族や、新婚カップルからはとても聞けないものだ。
 
【小石につまずいて】

 結婚には2つのパターンがあるのではと、おじさんは分析している。ひとつ目は「小石につまずいて」タイプ。気付いたら結婚していた、タイミングが合って結婚したというのがこれに当たる。ふたつ目は「階段1歩1歩登る」タイプ。これは計画的に交際、経済面なども含め準備し結婚に至るというもの。おじさんは前者だったようで、ここで結婚しなくてはいつするんだ? という気持ちがあったそうだ。彼が結婚したのは26歳。まだまだ焦る年齢ではなかったろうが、年齢うんぬんよりも直感は大事なよう。結婚というのは惚れた腫れたの外にあるものとも彼は言う。論理だけで話せることではないのだ。世の人が口々に語る「結婚はタイミング」というのは正にこのことだろう。それにしても長考せずにサラッとこのような例えを出してきたおじの、話のうまさにちょっと驚いた。
 
【ディズニーランドに最後に行ったのは】

 おじさんの見事な語りは続く。
「これから何人かの人に話を聞くならばディズニーランドに最後に行ったのはいつか聞くといいよ」
 彼が最後に舞浜に行ったのは長女が中学生の頃、今から10年近く前だという。家族が一番キラキラするのは、なるほど子どもとディズニーランドに行くくらいまでだろうなあ、と納得してしまった。家族と最後にディズニーランドに行ったのはいつだったろう。家族旅行というものはいつの間にかなくなった。兄弟3人が実家にそろうこともなかなかない。みな社会人なのだから当たり前だけど、一抹の寂しさを覚えてしまう。
 悪気があるわけではない、仲が悪いわけでもない。けれどあの頃とはなんだか違う。家族のあり方は少しずつ変わっていく。それでもやはり家族であり続ける、夫婦であり続けるというのはそれなりにパワーも使うし、それはそれで大変なことだ。
 
【ジェットコースターさえなければなあ】

 知り合いからいつももらうけれど、使い道がないんだ、おじさんはそう言って帰り際にたくさんの文房具をくれた。山ほどのボールペン、蛍光ペン、割としっかりしたノートを2冊。ちゃんと働けということなのだろう。地下鉄に乗りながら僕はこれから何度ディズニーランドに行くのだろう、と考えた。僕は遊園地が嫌いだ。ジェットコースターがまず苦手だし(大学生の時友人とディズニーランドに行った時には、友人連中がビッグサンダーマウンテンとスペースマウンテンに乗る間、都合2時間半も1人でトゥモローランド散策をしていた)、人ごみをワイワイと歩き回るようなデートも家族サービスもあまりしたくない。同じ金を使うなら俄然競馬場に行くべきだと、人に豪語してまわっている。こんな僕でも結婚できるだろうか。今日たまたま、実家に電話する用事がある。「最後にディズニーランドに行ったのはいつだっけ」。そんな風に聞いたら親はなんて思うだろうか。
 

【今回のまとめ】
遊園地は嫌いだけど、お土産売り場が楽しいからディズニーランドにはたまに思いを馳せます。
 
 

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買う気にはならないけど、あると便利なフリクションの赤もゲット!
ありがとうございました。

 
 
 
-ヒビレポ 2015年4月15日号-

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