半澤と12人の優しい既婚者 第4回

hanzawa-s

あの試合から13年

 
半澤則吉(18号で「病人」を執筆)

 
 
 
優しい既婚者3人目
S夫妻
夫31歳 妻31歳
結婚4年目 子供2人 (2歳男児、0歳男児)

 
【まさかのサンプドリア】

 小さい頃から僕は算数が嫌いだった。今も嫌いだ。できれば計算ごとをなるべくやりたくない。だから確定申告が迫る年明けくらいから胃を痛くするのが常で今年も案の定の結果となった。3月に入っても仕事がなかなか終わらず、13日(金)の早朝にやっと手が空く。確定申告の最終日、16日(月)までは心もとない時間しか残されていない。月ごとの領収書をまとめた以外はほぼほぼ経理作業をやっていない状況で、今年も年に一度の算数の時間に四苦八苦だった。来年もまたこの苦労をするのかと思うと早くもブルーな気持になる。と、いうわけで会計士の友人に会いアドバイスをもらうことにした。

 S君は高校のときの同級生で、一緒にサッカーのワールドッカップを観に行った仲。@さいたまスタジアム、カメルーン対サウジアラビアという渋い試合を観戦したのは、ついこないだのように思えるがもう13年も前のことだ。サウジ戦(前の試合でドイツに歴史的大敗を喫したサウジは意外と健闘、1-0でカメルーンが辛勝するという試合でした)で唯一のゴールを決めたサミュエル・エトオはその後、各国の名門を渡り歩く名ストライカーになり現在はセリエAでキャリアの晩年を送っている。今調べたら、サンプドリアにいるのか、少し驚いた。そして、あの日大学1年生だった彼はなんと公認会計士の資格を取り、立派な大人に。
 赤羽の大衆居酒屋でもつ煮込みを喰らいながら、青色申告の65万円控除について話す。とにかく数学が嫌いな僕からすれば、専門家に話を聞くだけでも参考になる。やっぱり来年こそ65万円控除を目指すッス・・・・・・。


 と、ここまで書いてきたが本企画は結婚について僕が真面目に考えるというもの。確定申告に向けての心がまえやサミュエル・エトオの近況報告で終わるわけにはいかない。一流の資格を持ち、来年には独立を考えているという、かなり全うな彼は私生活もかなり全う。これは「結婚」について聞かないわけにはいかないだろ。
 
【例えばフジロックに】

 出会ったのは職場。それから結婚を前提にお付き合い。1年ほどの交際期間を経て結婚。話を聞くと、思わずメモを取る手が止まる。あれよあれよ感が半端ないのだ。結婚のお手本のようなワードが並び、感嘆するばかり。同学年、んで職も同じと、結婚までのサクサク感はなるほどだけど、それで結婚できるなら世話はない。交際する前からやはり結婚という文字はチラついていたそうで、今回もまた一人の男の決意の格好よさに思わずため息。と、話しているうちに職場が同じというのは段々すごく羨ましく思えてきた。
「1年に1回、例えばフジロックとかに行きたいじゃん」
 S君は言う。そのぐらいの余裕が欲しいのだという。2人で仕事をできるといろいろ融通も利くだろうし、仕事もシェアできる。「独立」という言葉はなるほど納得だ。僕は勝手に独立した気になっていたが、フジロックに行くような時間的、精神的余裕を持たずここ数年仕事をしている。彼の言葉からは「本当に独立するぞ感」が伝わってきて、そこにもまた決意のようなものが感じられた。
 
【人が多い方が楽しい】

 独立するというのはメールでのやり取りで知っていた。嫁さんの実家に行くのだと聞いて驚いた。親が公務員なのでもう地元に家はないのだという。東京で何年も務めた彼が今後の人生を歩む場所として選んだのは、東北人から見ればはるか遠い土地だった。
「まあちょうど良い感じに田舎だよ」
 そう言いながら、久しぶりに会った僕にも、気軽に遊びに来てよと優しく言ってくれる。そしてその後に接がれたのは2人の子どもを思う親としての言葉だ。やはり小さな子どもがいることを考えれば、周りに人が多い環境の方が良い、と彼は言う。当たり前といえば当たり前なのかもしれないが「人が多い方が楽しいし」などとサラッと言えるのは大人だなあ。「1人の方が楽だし」とか「家にいた方が良いし」などと言いながら生きている典型的内向きインドア人間の僕には、そして東京にしがみつくように生きている僕には、とても言えない言葉だ。結婚すると気持ちの中心が自分から妻、子どもへとシフトするようだ。自分にもそんなことが起こりうるのか、ちょっと不安にもなるが、彼の話を聞いていると、その「心の移動」は素敵なものに思えてくる。子ども好きという印象が、ごめん正直なかったS君がうれしそうに見せてくれたのはかわいいお子様の写真。「やっぱり子どもはかわいいよ」。かわいいわー。俺、こんなオシャレな2歳児知らんわ。あの試合から13年、もう完全にお父さんとなったS君の言葉はどれもキラキラしていた。
 飲んだ次の日、Facebookでメールが届く。なんでも手伝うから65万控除めざそうぜ、とS君。うーん、格好よいなあ。目指すっス、俺がんばるっス。
 
【次回の優しい既婚者も決定】

 話の流れで彼の嫁さんと僕の中学校の友達が仲良しということを知る。世間は狭いなあ、驚くわ。つうわけで次回はS君の嫁さんの友達(つうと非常にややこしいな)に話を聞くよ。え、彼女はシンガポールにいるって? なにー。よっしゃ、ついにきた海外取材、とはならず。半澤の財力ではならず。取り急ぎFacebookで連絡。このコラムでFacebook大活躍です。サンキュー、ザッカーバーグ。なんて言いながらマーク・ザッカーバーグ、ではなくまたサミュエル・エトオで検索を続ける。一応試合出てるしゴールも決めてるな、なんだかちょっとうれしかった。
 

【今回のまとめ】
65万控除よりもまず「人が多い方が楽しい」とか言えるような人間に私はなりたい

 
 
 
-ヒビレポ 2015年4月22日号-

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