レッツゴー!町中華探検隊 第4回

kitao
「丸幸」と幻の西荻駅西口

 
北尾トロ
(北尾トロ→下関マグロ→増山かおりの輪番連載)

 
 
 
 
 事務所の近くに「丸幸」という町中華があり、東京と松本を行き来する単身赴任生活を始めた2012年の秋から食べに行くようになった。それまで入ることがなかったのは、「丸幸」のすぐ先が西友の裏出口で、通路を抜けたら駅という立地のせいだ。東京在住時は、西友の裏出口が自宅へ直結する改札口みたいな感じだった。
 単身赴任になると意識が変わり、事務所(編集部)に向かう最短ルートになる。ぼくは東京にいるとき事務所で寝泊まりしている。帰っても誰もいないしなあ、飯どうすっかなあ。そこで「丸幸」の赤い看板とのれんが存在感を伴って目に入るようになってきた。勝手なもので、人は見たいものしか見ないんだよ。
01

 この店は昼前から営業開始。休憩時間を挟み、夕方から夜の部となる。ぼくが行くのは夜の8時ごろが多い。町中華にしては味付けが薄くて胃袋に優しいのが特徴だ。あと量が多い。丼がでかくてずっしりしている。
 ぼくはだいたいタンメンか味噌ラーメン、空腹時には肉野菜炒め定食を頼む。厨房は広くて丸見えだ。気づくのは清潔さで、厨房のみならずいつでも店内がきれいだ。多少古びているなかに清潔感があるのは、町中華として理想的であります。
 

 
02

 とにかく手軽に行けるので、一時は週に3回くらい通った。レポTVを放送する火曜日なんか晩飯はだいたいここで、副編ヒラカツやえのきどいちろうもちょくちょく利用するようになった。技術のヨシオカは通りがかりにのぞいていくようになったもんなあ。「やっぱりいましたか」とかさ。
 そういうふうにして、常連とまではいかないまでも、馴染み客になっていくと、店との距離がぐっと縮まる瞬間が訪れ、店主との会話が始まる。あれはなんだろうなあ。店主にしてみれば、ぼくはちょくちょくやってくる客にすぎず、どこの誰とも知れない存在。世間話でもしてりゃいいわけだけど、そこを一歩踏み越えて”語り”モードになる瞬間がやってくるのだ。店名が、亡くなった息子さんの名前に由来するものであるとか、ラーメン食べた後、しんみりと語られてもなぁ、どう反応したらいいかわからなかったよ。
 だけども、そういう会話ができるのが大衆店の良さだろう。町中華であれ蕎麦屋であれ喫茶店であれ、店を支えているのは味だけじゃない。店主の人柄が大きいけれど、客も含めた「店の人格」みたいなものがきっとある。店の歴史みたいなものも、いい出汁になって、味に付加価値をつけている。うまい・まずいだけでは割り切れない何か。

「ここ、本当は駅前の一等地のはずだったんだよね」
 店主が語りだす。口調に余裕があるのは、これまでに幾度となく語ってきた鉄板ネタだからだろう。「丸幸」は西友裏口前という、西荻全体から見たら目立たない場所にあるのだけれど、中央線が高架になるときには、西荻駅の西口ができる話があったのだそうだ。それを当て込んで開店してみたら、待てど暮らせど改札はできず、そのうち計画が変わったとかで話が立ち消えてしまった。
 ふ〜ん。その頃の西荻ってどんな感じだったんだろう。質問すると、今度は高架化される前の話が始まる。いまの改札の横あたりに踏切りがあってね、改札出たら並ぶわけだ。と、線路の向こう(南口)には飲み屋の女将やお姉さんが立ち並んで「うちで飲んでってよ」と声をかける。夜の11時くらいはそんなふうで、活気があったね。新宿あたりで飲んだ人が西荻で終電までもう一杯ってなったもの。
 ラーメンすすりながら、なんでこんな話になっちゃった、なんて笑いがこみあげる。居酒屋でそうなっても驚かないけど、厨房丸見えの町中華でなっちゃうところがおもしろい。

 なお、増山かおり隊員の調査によれば、丸幸の店主は元流しの歌手とのこと。中野〜西荻あたりで22年間、ギター片手に流しをやった後、「俺はラーメン屋になる」と一念発起したらしい。修行先は神保町の老舗で、いまでも健在な「伊峡」。その間、奥さんは新聞配達で家計を支えたそうだ。西荻窪駅の高架化は1969年だから、67〜68年の話だろう。
「伊峡」か…。神保町のラーメン屋「さぶちゃん」もここで修業しているし、東京における町中華修行地のひとつといえるかもしれん。ぼくはまだ、食べたことなかったなあ。行かねば。

 ここ1、2年、丸幸を訪れる頻度は減っているけれど、それでもぼくにとって西荻で町中華と言えば丸幸。いつか思い出すんだ。レポを作っているとき、松本と往復生活をしているとき、濃厚すぎない味で胃袋を支えてくれたこの店のことを。
 でも、おやっさん、やっぱ量多すぎるわ。
 
03

ニラ一束入りのオリジナルメニュー。けっこうヘルシー方面にも気配りしているのだ。

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2015年4月25日号-

Share on Facebook