MAKE A NOISE! 第59回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

スポーツとLGBT

 

山口ゆかり
(第16号で「どんなに幸せでも罪悪感と孤独感はぬぐえない」を執筆)
 
 
 
 
 今回はマルコム・イングラム監督の『Out to Win』という映画です。イングラム監督と言えば『Continental』も書いたっけ。探したら、第30回で2014年4月19日とほぼ1年前。両作とも3月開催のロンドンLGBT映画祭からで、4月からのヒビレポではLGBT映画について書くことが多かった自分を発見。私にとって、春はあけぼのじゃなくLGBTなのでした。
 
 さて、『Continental』では、べット・ミドラーがデビューを飾り、ウォーホールやヒッチコックが客として訪れたというコンチネンタル・バスの歴史を掘り起こしたイングラム監督が、今回、掘り起こしたのはスポーツ界。
 スポーツに疎い私でも知っていた選手はマルチナ・ナブラチロワとキング夫人だけでしたが、もう1人、知っている名前が出てきました。バリバリの差別野郎として。あちゃー。

 そのお方はひとまず置いて、カミング・アウトした勇気ある選手の中でも力強かったのがナブラチロワ。チェコスロバキアに生まれ、アメリカに渡り、長らく女子テニス界の王者として君臨、その座を譲った後もダブルスで現役続行、グランドスラム連続優勝の全盛期にレズビアンであることを公にし、LGBTの権利のために活動しつつ、自らも同性婚と、公私に渡り、ずっと戦い続け、勝ち取ってきた人ならではの威勢のいいお言葉が、
「コミュニストの国に生まれて、ゲイだったら、活動家になるしかないじゃない」
 

 
 
 ナブラチロワに限らず、このドキュメンタリーでインタビューに答える選手たちは、苦難の時代を語っていてさえ、みなさん、どこか明るい。それは、語っているのが今だからこそでしょう。
 その今を表す好例が、イングラム監督がこの映画を撮るきっかけになったというアメフトのマイケル・サム選手。大学選手時代にゲイであることを公表し、NFL入りを果たした際にはオバマ大統領から祝辞が寄せられるという応援ムードになりました。ドラフトを控えてカミング・アウトしたサム選手はもちろん勇敢ですが、良い時代になったなあとしみじみしてしまいます。

 ひるがえって、今の時代を迎えられずに逝った選手が可哀想。イギリスのサッカー界で最初にゲイであることを公表したジャスティン・ファシャヌ選手なんて、最後は自殺でした。イギリスで100万ポンド以上の契約金を獲得した初の黒人サッカー選手で、レコード・デビューまでした華やかなスターだったそう。
 そのファシャヌの選手時代に「ゲイなら、こんなとこいないで、ゲイバー行け」みたいな暴言を吐いた監督がブライアン・クラフ。私が知っていたもう1人というのはこの方ですが、監督時代も、ましてや選手時代も知らず、知ったのは亡くなった後で映画から。『くたばれ!ユナイテッド』という『英国王のスピーチ』でお馴染みトム・フーパー監督の映画です。マイケル・シーンがクラフ役だった映画の後、クラフのドキュメンタリーも観たのですが、オモロイおっさんとして好感を持ちました。歯に衣着せぬ物言いがかぶるモハメッド・アリから「アリは俺1人で十分」とか言われたりしてます。 
 暴言が、イメージを裏切ることではなく、いかにも言いそうなことでもあるのが困ったところ。言ってる本人には、ハラスメントしてる意識なんてないんだろうなあ。思ったことを言ったまでとか、ひょっとしたら、面白いこと言ったつもりだったりするのかも。 

 クラフはアル中治療を受けたり、肝移植を受けたりしながら、最後は胃がんで2004年に69歳で亡くなっています。
 ファシャヌが亡くなったのは1998年で37歳。イギリスから渡ったアメリカで、17歳の少年に性的暴行で訴えられ、イギリスに戻り、自殺しました。容疑を否認していたファシャヌが、ゲイであることで正当な審判を受けられないのではと危惧していたと報じられています。亡くなったのは、クラフの暴言とは全然関係ないですが、そんな暴言が放置されたり、競技場の観客からの暴言もあたりまえにあった時代の中で起こったことではあります。

 差別発言が見過ごされない今は良い時代かと思いきや、イギリスでカミング・アウトしたサッカー選手はファシャヌを含めてたった2人でした。それも、1990年にカミング・アウトしたファシャヌの23年も後の2013年にロビー・ロジャースが続いたきり。ロジャースはアメリカ人で、リーズ・ユナイテッド放出後にカミング・アウトして、ロサンゼルス・ギャラクシーに行ったので、今のイギリス・サッカー界ではゼロ。
 ファシャヌの悲劇の後では怖くて言い出せないのか、今だにそれほどホモフォビアな世界なのかわかりませんが、同性婚が認められたご時世になんとも遅れたイギリス・サッカー界です。

 

 サム選手のおかげもあって、流れが変わったらしいのが2014年と、かなり保守的なスポーツ界ですが、次回は、その楽屋を撮ったらゲイ・ポルノみたいなものになってしまったという変わったスポーツ・ドキュメンタリーです。

 
 
*開設しました映画情報サイトものぞいていただけると、励みになります!

映画UK
http://eigauk.com/
 

 
 
-ヒビレポ 2015年4月30日号-

Share on Facebook