二代目『薔薇族』編集長の作り方 第5回

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それはワタシです

 
竜 超
(第19号で「ヤマジュン・コード」を執筆)
 
 
 
重度の中二病患者だった少年が、本邦初の同性愛マガジン『薔薇族』の二代目編集長になるまでを描く大河ロマン(自称)……今回は、80年代の新宿における「オタク文化とゲイ文化の接するスポット」について語ります。

いま現在、「オタクの最も集まる東京の街は?」と訊けば、ほとんどの人が「アキバ(秋葉原)」と答えるだろう。
けれども80年代のそれは、間違いなく「新宿」だった。
たとえば1981年には新宿駅東口・スタジオアルタ前で、劇場版『機動戦士ガンダム』の公開記念イヴェント「アニメ新世紀宣言」が開かれ、2万人ものファンが路上を埋め尽くしたという。
地方在住のぼくは、そこに加われない悔しさを噛みしめながら、ひとり「チックショ〜ッ! 早く東京に行きてェ〜〜ッッッ」と身悶えしたのであった。

そんな新宿で、上京後のぼくが出入りしていたオタク系ショップは、地下鉄丸の内線「新宿御苑前駅」そばの「アニメック」と、新宿駅南口の高架下にあったペンシルビルのコミック専門店「まんがの森」であった。
当時は今のようにオタクが市民権を得る前の時代だったから、そーゆー店に入り浸っていることを「非オタク」に対して話すと、けっこう差別的なことを云われたりした。

一度、新宿二丁目で知り合ったゲイと一緒に新宿駅まで行く途中、「……あ、ホラ! あそこって『まんがの森』っていうコミック専門書店なんだよネ〜」と指さしたところ、その相手は吐き捨てるようにこう云った。
「……変態の森」
オイオイ世間から見たらアンタも変態のうちだゼ、と喉元まで出かかったが、当時はまだオタクである自分にいささか引け目を感じていた時期だったので、その言葉は飲み込んだ。
それにしても、世間から変態扱いされてる人間から変態呼ばわりされてしまったワタシってば一体……。


 
「入り浸っていた」といえば、新宿には「ハッテン場」と呼ばれる「ゲイたちが性を物々交換する場所」が数軒あって、そこにも入り浸っていた。
ハッテン場は、大きな意味では「フーゾク店の範疇内」と云えなくもないが、フーゾク店と決定的に違うのは「店側が特にサービスを提供しない」という部分である。
店側はあくまでも「場所貸しをする」のみで、あとは客同士が勝手に交渉してアレコレするのだ。
「女子が男子に××する店」だとかなりの額をふんだくられるが、こっちは店側のサービスがないから当然のごとく料金は安く、学生の身でも気軽に利用することができた。
元気みなぎるハタチそこそこの男がそこにハマるのは、ある意味「必然」とも云えるだろう。

ぼくがホームグラウンドとしていたのは「スカイジム」というハッテン場で、そこは「ラシントンパレス」という大型雑居ビルの中にあった。
ラシントンパレスは、ビルのてっぺんに「空飛ぶ円盤」が乗っかっているような奇抜なデザインの建物で、元々は時代の先端をゆくような「結婚式も行えるホテル」だったらしい。
ひときわ目を引く最上階の「空飛ぶ円盤」の部分は「回転展望レストラン」だったそうだが、ぼくが上京した頃には、そこが「スカイジム」となっていた。
オープン当初は「ハイクラスなスポット」だったのかも知れないが、ぼくが出入りしだした頃にはもはやその面影はなく、「新宿の九龍城」と呼ぶのがピッタリの魔窟状態であった。

余談だが、東京・中野区にある老舗オタクビル「中野ブロードウェイ」も似たような変遷を遂げており、こちらも完成当初は「アノ沢田研二も住んでいる庶民憧れの最先端マンション!」だったそうだ。
巨大商業施設と高級集合住宅とが融合した「六本木ヒルズのプロトタイプ」みたいなところだったらしいが、時代を経る中で、入居するテナントが徐々にマニアショップになっていき、やがて「オタクの要塞」みたいな感じに変貌した。
もっとも、変貌しなければ単なる「老朽ショッピングセンター」になっていただろうから、結果オーライなのかも知れない。

話を本筋に戻そう。
じつはラシントンパレスの中には、スカイジムに優るとも劣らない濃厚な店がもう一軒あった。
「店」と呼ぶのが正しいかどうかすら判らないのだが、そこは「フリースペース」という同人誌即売所なのであった。
経営元は『ふゅーじょんぷろだくと』というマンガ評論誌だったのだが、当時の僕から見れば「ステージが違う」といった感じの高濃度マニアたちがたむろして、作品論をたたかわせたりしていたのだ。

そんなフリースペースは、ラシントンパレスの、確か2階にあった。
そちらで同人誌をあさった後、エレベータに乗って最上階のスカイジムへ行く……という日が結構あった。
それは今にして思えば「ものすっごく狭い空間内で二大欲求を充足させる」という、ある意味「効率的」で、ある意味「どっかオカシイ」状況であった。

フリースペースでオタク濃度を高めた状態でスカイジムに行くと、脳内がエッチモードになかなか切り替わらなかったりした。
一度、スカイジムの休憩室でテレビを占領し、『太陽戦隊サンバルカン』の再放送をデカい音量で観てしまったことがあったのだが、あの時は周囲の皆さんのエッチな気分をダダ下げしてしまってスイマセンでした。

それはサテオキ、ぼくはよく、マンガ好きの友人(ゲイではない方面の)をフリースペースに連れて行くことがあった。
ある時、2階へ続く薄暗い階段を昇っている最中に、こんなことを云いだしたヤツがいた。
「こーゆーアヤシイ雰囲気のトコってさァ……ホモの人とかも出入りしてそーだよネ」
……ミョーに勘の鋭い奴である。
ぼくは素知らぬふりをしながら、「……そ、そーかなァ? よくわかんないけど……」とお茶を濁しといたけれども、「はい、それはワタシです」とか答えていたら果たしてどうなっていただろう?

当時のぼくはまだウブだったのであまり大胆なマネはできなかったが、ふてぶてしいオッサンと成り果てた現在ならば、相手がどう反応するのか見て楽しむべく「黒いカミングアウト」とかするかも知れないね。ヒッヒッヒ。
 
ヒビレポ用イラスト(5)

 
 
 
-ヒビレポ 2015年5月1日号-

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