半澤と12人の優しい既婚者 第6回

hanzawa-s

問題の解決を心より願っております

 
半澤則吉(18号で「病人」を執筆)

 
 
 
優しい既婚者5人目
T夫妻
夫32歳 妻31歳
結婚4年目 

 
【急な階段】

 あそこが現場だよ、と彼は駅の階段を指差した。エスカレーターは上りのみ、エレベーターもない。バリアフリーの欠片もない、旧世代的なきつい角度の階段は、昼だというのに仄暗い。笑いながら事故現場を紹介してくれた彼の口調はいつも通り飄々としていたが、状況が状況なだけに僕は笑えなかった。
 今回の既婚者T君は僕のひとつ年上で仲良くさせてもらっている友人のひとり。先日も一緒にお花見をした。が、そのお花見から数日でとんでもない事態が起こってしまった。T君は出勤途中、駅の階段より転落し、膝の皿を割ってしまったのだという。全治一か月以上の怪我はまだ痛々しく、松葉杖がなくては外出できない模様。他の用事で伺ったのだが、まず彼の部屋の掃除を手伝う。
 大量のペットボトルを捨て、ベッドメイクを。僕も足の怪我は何度もやっている(多くが自身の不注意が原因ですが)のでその不便さは本当によくわかる。一通り掃除が終わってから僕は洗濯物の整理に取りかかった。
 

 
【別れようと思ってる】

 高校時代からの交際の末、結婚。長い遠距離恋愛が実ったということで、僕もうれしく思っていた。が、状況が変わったとの情報を人づてで聞く。その後も詳しく彼の「結婚」を知らないまま今日まできたが、今回はよい機会と思い、思いきって話を聞かせてもらった。
 結婚3年目を迎えた頃だったという。奥さんが「別れようと考えている」と切り出してきたそう。T君としては別れる理由がないため考え直すよう説得を試み続けたが昨年の5月、ついに彼女は家を出た。その後3ヶ月おきに話し合いをするも、奥さんから明確な回答がないまま現在に至り、今彼は一人暮らしだ。
 T君はなぜかしら股引(というよりはスポーティでかっこうよいジョギングギア)をたくさん持っていて、洗濯物は絡まりまくっていた。その中にはテラテラとした生地の女性が着る様な服も散見される。僕は奥さんのものとT君のものを分けて袋に詰めていく。
「嫁は帰ってくるんだよね」
「帰ってくるだろ、全部ものを置いていったんだから」
 長く関係の改善をはかってきたT君だったが今回の怪我はひとつ、心を動かす契機となったようだ。骨折で生活が大変になり、奥さんに助けを求めたが“金を振り込む”“玄関前に食料を置く”だけという塩対応。これには業を煮やしたT君、さっさと別れてくれ、というメールをついに送ってみたそうだ。これで話が完結、スッキリできればまあよかったのだろうが、現在も返信がないというからもう心中お察しします。
 
【反省と述懐と反省】

「仕事を辞めたいというのであれば、もう辞めても構わない。『もう十分だ。』と言ってあげたい」
 夫婦関係悪化の理由のひとつとして、激務で有名な会社で仕事に追われる奥さんへのフォローが足りなかったのではないか、とT君は分析している。家庭を築くことがいかに難しいかを痛感させられる。普通に仕事しているだけでもストレスはたまるし面倒なのに、その上で家庭についても考えないとならないのは大変だ。共働きなら尚更だろう。くわえて、子どもを欲しいと当時思わなかったことも奥さんとの距離ができた理由でないかと彼は述懐する。結婚すると当然ながら「仕事」をどうするか、「子ども」をどうするかという問題は自分だけで解決できなくなる。パートナーとの関係を維持しながら、いろいろな問題にぶつかっていかないとならない…、って面倒くさいよね! 1人で気楽にやっている僕には、改めて結婚という事実が何とも重たく大ごとに思えてきた。
「それでも、最終的には自分の問題」 
 T君はそのようにも言っていた。別れ話が出る前後は仕事でも日々の生活でも怠惰だった、それが夫としての魅力を失わせることになったのではないか。彼は頻りに反省を繰り返すが、そこはお互いさまじゃないかなあ。どっちが悪いうんぬんではないだろう、などと言うのはきれいごとでしょうか。そこは二人しかわからないし、いや、二人にもよくわからないんだろうなと思った。
 
【怪我とリハビリと】

 骨がくっついてもリハビリは3週間もかかるという。リハビリって大変なんすよね。泣きっ面にハチ状態のT君に対してこのような物言いをするのは申し訳ないけれど、僕は彼の怪我を夫婦のメタファーのように感じてしまった。今が怪我期間なのかリハビリ期間なのかはわからないが、怪我で痛いときもリハビリで頑張らないとならない時も辛いものは辛いのだ。
 二十代当時入るにはかなり勇気がいっただろう、広いマンションの家賃は僕の家の約2倍。はやく問題が解決して欲しいと切に願う。

「反省点が多い一方、友人や家族の大事さを改めて知った一年だったと思う。周りからの支えがなくてはやっていくことが出来なかった。もし、今後嫁と復縁する機会があったら、上記の反省点を改善するとともに、嫁も含めて友人たちとの和をより深めたいと思います」
 今回、実施させていただいたアンケートにT君はそのように答えてくれた。句読点の打ち方もこちらが原文ママ。彼の優しさと真面目さがにじみ出た切実な文章は、この話を締めるのに的確と思い、失礼を承知で掲載させていただいた。ありがとうございました。
 

【今回のまとめ】
結婚って面倒くせーじゃん。あと駅の出口には全部エレベーター付けようぜ!

 
 
 
-ヒビレポ 2015年5月6日号-

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