二代目『薔薇族』編集長の作り方 第6回

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「誠実」というのは……

 
竜 超
(第19号で「ヤマジュン・コード」を執筆)
 
 
 
重度の中二病患者だった少年が、本邦初の同性愛マガジン『薔薇族』の二代目編集長になるまでを描く大河ロマン(自称)……今回は、ぼく自身が体験した「80年代ゲイ界のナンパ事情」について語ります。

ぼくがハタチ前後だった当時は、後のバブルにつながる景気上昇期だったから、若いコをナンパする年長者側はみんなソコソコお金を使ってましたネ。
王道だったのは「ゲイバーでナンパする→自分の行きつけの呑み屋へ連れてってタラフク呑ます→タクシーでお持ち帰りする」というパターンです。
多い人だと一晩で4軒くらいも連れてってくれたんだけど、当時は昨今のようなデフレ状態じゃないので、2人分の呑み代ともなればかなりの額になっていただろうと思われる。
けれども若い時分というのは自己評価が不当に高いモンだから、「自分にはそれだけのお金をかけられる価値があるのだ」みたいに思い上がってて、おごられることに感謝する気持ちなんかはゼロ。
景気のイイ時代にはこういったクソガキが多数わいてきますンで、みなさま気ィつけなはれや!


 
…と、過去の悪行は素直に反省するとして、「相手のオゴリでマニアックなバーに色々と連れてってもらえた」ということは、後年のモノカキ仕事に大きく役立っている。
「変なトコをあちこち覗きまわってはネタ探しする」という現在の執筆スタイルの礎は、この頃に築かれたのだと思いますネ。
エグイ店もあったのでここでは細かな描写は避けますけど、物心ついた頃から夜の店に出入りしていた(←母の母がホステスさんのいる呑み屋を経営してたので)ぼくであっても「へー、こんな呑み屋があるのか…」と感心するーなトコが多かったなァ。
たぶん、みんな「自分はツウの遊び人である」という威厳をぼくに示そうと、手駒の中でも特に面白い店を厳選していたのでありましょう。

けれども「自腹を切って行くゲイバー」というのは、マニア性なんてない「地味な店」が多かった。
それはつまり、ぼく自身が「地味な男」だから、そっちのほうがでシックリくるのである。
中でも最も居心地良かったのは、一般に「ゲイバーのゲイバーたるゆえん」とされている「アクの強さ」がゼロの、地下の店(名前は忘れた)であった。
そこは、いつ行ってもぼく以外の客がほとんどいない「セミ貸切状態」の店だった。
空いてるから眠くなったらボックス席のソファに横たわって仮眠できるし、うるさい客は来ないので店員と落ち着いておしゃべりも楽しめる。
嘘みたいな話だが、会話に飽きると店員たちと夜通し「アッチ向いてホイ」をして過ごしたりもした。

……が、たいして金を落としもしない地味な客とそんなマッタリ過ごしてる地味な店に未来なんてあるはずもなく、あるとき久しぶりに行ってみたら地味に閉店してたのであった。
いかに好景気な時代とはいえ、やはり「極端に商売っ気のなさすぎる店」では経営を維持していけないのである(←当たり前だけどネ)。

再びナンパの話に戻ろう。
当時は世間でやたらめったら「愛」というフレーズが使われてる時期だったせいか、ナンパの仕方は総じてロマンティックでしたねェ〜。
なんちゅーか、まるで「少女マンガのラブシーンの再現」みたいな……。

いまでも忘れられないのは、誘われて行った相手の部屋でレコード鑑賞した時のこと。
間接照明の薄ぼんやりとした灯りのもと、ビリー・ジョエルの『オネスティ』をかけながら、その人はぼくの耳元で、歌詞の意味を語って聞かせてくれた。
——「誠実」っていうのは、どうしてこんな寂しいコトバなんだろう……。

彼の和訳が合ってるのか間違ってるのかはサッパリ判らなかったが、そのムーディーな雰囲気に、まだ19歳のぼくはコロッとやられてしまったわけですナ。
おかげでぼくは、30年以上を経た現在でも『オネスティ』を聴くと、あの夜のあの部屋のあの雰囲気を鮮明に思い出すのであります。
…まァ、不誠実きわまりないガキが「誠実」の歌を聴いてジンワリしちゃう、ってのも悪いジョーダンみたいな話なんですが。

ただし、である。
いかにロマンティックなシチュエーションに弱いぼくであっても、あまりにも演出の度が過ぎると引いてしまうのですワ。
とあるバーで一度、「あちらのお客様から…」とカクテルをまわされてきたことがあったのだが、昭和末期の当時ですら「あまりに古臭すぎる」という感じだったので、「いや、結構です」と断ってしまった。

それだけだったらまだいいのだが、「……こんなマンガみたいなことする人、ホントにいるんだなァ」と思ったら、なんかちょっと笑えてきちゃったのである。
あの夜のカクテルのヒト、その節はせっかくの御好意を断ってしまったばかりか、礼儀知らずの極地みたいな振る舞いをしてしまってスンマセンでした!
若気の至りとはいえ、心より反省しております。

そして読者のミナサマ、景気が良くなってくると昔のぼくみたいなクソガキが多数わいてきますンで気ィつけなはれや!
 
 
 
-ヒビレポ 2015年5月8日号-

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