半澤と12人の優しい既婚者 第10回

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ライクアローリングストーン

 
半澤則吉(18号で「病人」を執筆)

 
 
 
優しい既婚者9人目
井上夫妻
夫35歳 妻28歳
結婚1年目 
 
 
【ライブハウスでの偶然の出会い】

 月並みな言い方だが、本当によい式だった。新郎の人となりがよく出ているというか、一友人としてずっと笑顔でいられた。井上さんの結婚式があったのは今年の4月。本連載中唯一のリアルタイム結婚式だった。いろいろな結婚式を見てきたが、式にはその人らしさが反映されるものだとつくづく思う。普段の性格というよりは、もっと本質的な部分がにじみ出るのだ。井上さんの式は和やかさでいうならば、過去に参加させていただいた式の中でもトップクラスだった。本来感動するべきシリアスな場面にも自然な笑いが起こり、会場全体が新郎新婦を穏やかな気持ちで見つめていた。
 それにしても彼がこんな風にいきなり結婚する何て思わなかった。井上さんの人生はここ一年で激変したのだ。
「落石のごとくあれよあれよ」
 と本人も言っている。結婚式で司会の方が述べた馴れ初めによると、新郎と新婦の交際が始まったのは昨年6月。ライブハウスでの偶然の出会いがきっかけだったという。その後、妊娠、結婚、車購入、転居、そしてこれを書いている今現在は新居購入も間近に迫っている。それにしても「ライブハウスでの偶然の出会い」。そんなもの本当にあるんですね、世の中には。野球ゲーム、パワフルプロ野球の「サクセスモード」という選手育成モードをつい思い出す。偶然の出会いで恋人ができたり結婚したりしてステータスが上がったり下がったりするのだ。偶然どこかで出会って付き合うとか、現実世界にはちゃんと、そういうイベントが用意されているようだ。パワプロですら失恋を繰り返し「チャンス×」などステータスに異常をきたしてきた半澤からは信じがたいこと。
 ちなみに井上さんと僕との出会いも偶然だった。仕事でたまたま知り合ったお兄さんが開いた飲み会に遊びに行って、そのとき横の席に座っていたのが彼。当時独立したばかりで、せっかく自営業になったのだから楽器を弾ける環境を模索していた僕だったが、彼は彼でベーシストを探しており、奇跡的に需要と供給が一致。すぐに彼のバンドでベースを弾かせてもらうようになった。今でもたまにベースを背負って街を歩くことがあるのは彼のおかげと言ってよいだろう。
 

【同じような服を着ている】

 盆と正月が…… とはよく言うが、そんなレベルではない、人生に関わる一大事を連発している井上夫妻。出会ってから一年以内の電撃婚の大きな要因のひとつは子どもを授かったことというが、それだけじゃないだろう。聞いてみたところ、井上さんから素敵な言葉が返って来た。
「合う時は同じような服を着ていることがけっこうあったかな」
 わかるような気もするし、わからない気もする。でもなんか素敵でうらやましいわ。よほど相性がよかったのでしょう。本取材でよくあがるワード「タイミング」もまたお二人の年齢を考えるとベストだったように思える。
 また井上さんは「金銭感覚も近い感じだった」と共通点を述べてくれた。結婚するとなったらこれも大事なことなんだろうと思う。感覚、ってこれも多くの既婚者の方があげてくれる言葉であるが具体的にどうこうよりも、もっと瞬発的に感じる何かが結婚においては絶対であることを思い知る。これだけ既婚者の方と話をさせてもらっても尚、結婚て大人がするもの、なんだかスゴいもの、と思い続ける僕にとってそんな一大事の軸となっているのがタイミングや感覚というのは、ちょっとまだ理解できないところ。まだまだ子どもなんすよ。
 

【今ではなく今後】

 先週の話。ライブからの帰り僕と井上さんは自転車をこいでいた。僕はヘルプという形だが「唯一ムニーズ」というウソみたいな名前でバンド活動が続いている。中央線沿いのライブハウスにお世話になることも多く、自転車移動は珍しいことじゃない。楽器を背負い自転車をこぐなど大学生みたいだ。井上さんは自転車をこぎながらこんなことを言っていた。
「ひとつひとつをうまくこなして行くしかない」
 結婚して車も家も手に入ってあとどうするんですか、とちょっと茶化すような僕の問いに答えてくれたときの言葉だ。彼はサラリーマンで勤続年数も長い。奥様も出産後は仕事に復帰できる環境。たまたま見つけたという新居は実家からも近いし、話に聞く限り非常によい立地だ。屋上でバーベキューができる一軒家という。1Kの狭苦しい部屋で日々悶々と暮らしている僕からすれば、井上さんの現状はもの凄く羨ましいものだが、彼が見据えているのは今ではなく「今後」だった。当たり前かもしれないが幸せイベント連発でも彼は舞い上がらず、先を見ている。ひと言でいえば天然系マイペース、年下の僕から見ても可愛らしく思える部分が多い井上さんだが、背負うものが多くなったからか、彼の言葉の端々には男らしさを感じるのだった。
「自分は欲張りなだけかもしれないけどやっぱり音楽は外せなくて、音楽だけはやりたいっていうのがあって」
 と彼は続ける。彼の音楽について少し話したい。はじめて井上さんの楽曲を聴いたときに僕は「泥臭いな」と思った。あらゆる洋楽から影響を受けた音楽はギターロックの形をとりながら時にブルージーに、時にファンクに響く。楽曲は短いがギターソロは長い。ライブごとにやることも違う。なるほど、これは長くギターを弾いてきた人間の音だなと思った。もう2年ばかりになるか、彼のバンドを手伝わせていただいて「泥臭さ」は音楽へ向き合う「真摯さ」が源となっていることがわかってきた。彼は結婚を理由に音楽をやめるという選択はとらなかった。冷静に考えるとそれはなかなかできない決断だよなあ。音楽同様に私生活も泥臭くそして真摯な手つきなのだろうと僕は思っている。そんなことを考えるとひとつの確信が生まれる。彼の幸せは間違いなく「今」ではなく「今後」だ。
 
 
【今回のまとめ】
あやかりてーなー
 
ph1s唯一ムニーズのアーティスト写真がこれ。ドットの服が井上氏。左がドラマーの山名氏。半澤の顔が帽子で暗かったため加工したが銀河鉄道999感が高くなり、「苦情来ないかな、大丈夫かな」と井上さんはまた天然コメントを残すのだった。大丈夫、松本零士はさすがにここまでチェックしません!

 
 
 
-ヒビレポ 2015年6月3日号-

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