半澤と12人の優しい既婚者 第11回

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スカイツリーが伸びるのを、眺めていた頃

 
半澤則吉(18号で「病人」を執筆)

 
 
 
優しい既婚者10人目
持田夫妻
夫35歳 妻32歳
結婚5年目 子供2人 女児(4歳)男児(0歳)

 
【社内結婚に舞い上がる半澤】

フリーライターになり3年になる。うまくいかないことも少なくないが楽しいと思える時間も多い。僕がなんとかこの職をやっていけているのは、一重に社会人経験のおかげだと思っている。ライターになる前、約5年間僕は印刷会社の営業として働いていた。スカイツリーが見える墨田川沿いの会社で、社会人としての酸いも甘いも教わった。おかげでアドビの各ソフトも自己流ながら触れるようになったし、都内は地図なしでもなんとなく運転できる。メール、電話応対をはじめ営業の仕方など社会人としての基本的な姿勢を学ぶことができたのも大きかった。大学を出たのち一年ふらふらして調子に乗っていた僕を社会人として育ててくれた会社には心より感謝しているが、何より年齢の近い先輩が何人もいて楽しかった。
 小さな会社の割に当時20代後半から30代前半の先輩がいて、5年間の会社員生活のうちになんと3度も結婚式に参加させていただいた。今回はその中の一組で社内結婚をされた持田夫妻にフィーチャーしたい。

 雅也さんは僕が入社するずっと前からDTPとして活躍していた。仕事の話はもちろん、プライベートの話もイヤな顔ひとつせず相談に乗ってくれる優しい先輩だった。体が大きくその風貌も相まってか、本当に頼り甲斐のある男に思えた。彼のもとに突如、将来の花嫁が現れたのは2009年。別の先輩の友人だった真音さんが空席となっていたDTP職に就いたのだ。既知の関係だったとはいえ、机を並べて働きだしたことで二人の距離は一気に縮まる。
「まだ社内の人にはちゃんと言ってないんだけど」
 と、二人が交際している旨を雅也さんから打ち明けられた時は、会社の中で何やらスゴいことが起こっているという事実に僕が舞い上がってしまい、一人夜の街をジョギングし頭を冷やしたことを覚えている。それからの流れは至って順調。結婚、妊娠、というワードが雅也さんの口から飛び出すのにそう時間はかからなかった。

 
【まあ、幸せかな】

 雅也さんは実家を継ぐ関係で僕より一足先に会社を辞めたが以降も仲良くしてくれていて、持田家には何度もお邪魔している。最近はなかなか足を向ける機会がなく、今回は久々の訪問になってしまった。不躾にも昨年生まれた雅楽君の出産祝いもまだだったので、このコラムの取材という名目はあるものの訪問するにはよい機会となった。すっかりお姉さんになった琴音ちゃんにはもう泣かれない。「もう」というのは彼女が生まれたばかりの頃、僕の顔を見る度にさんざん泣かれたから。兄弟、いとこが皆年下のため、小さな子どもを相手するのは得意なつもりでいたが、人生で初めて黒星をつけられた相手が琴音ちゃんだ。生理的にイヤ、と言わんばかりに、本当によく泣かれたものだ。けれど今回は終始笑顔でもてなしてくれた。年中さんに、もてなされているのもどうかと思うが、いやあ、本当よかったっすよ。また、やっと対面できた雅楽君は人見知りすることもなく、僕の服はよだれで濡れたけど、それはマイナスイオン配合のモイスチャー的なものなのだろう、とてもとても癒された。
 さてさて、取材だ。とはいえ、かつて同僚だったお二人に話を聞くわけだからとても和やか。堅苦しい話は一切なく、結婚についてフリートークを交わす。
「結婚てなんだろうね」
 雅也さんの真面目な問いに対し真音さんが
「フフッ」
 と鼻で笑ってみせたのが面白かった。それは持田夫妻の「結婚」が濃縮された回答のように思えた。お二人は似た者同士というよりも、性格の違いがむしろはっきりしているカップルに思える。真面目だが大らかな性格の持ち主の雅也さんとクールで飄々としている真音さん。この性格のコントラストは、結婚する前から感じていたことだけど、5年近く夫婦として暮らしてきた歴史もあり、二人の掛け合いは胴に入ったものに見えた。
「こんな風になるとは思わなかった」
 と真音さんは振り返る。結婚当時は二十代後半に差し掛かったばかり、結婚に対し焦りを持っていたわけではないというが、流れに身を任せているうちに結婚することになったのだという。対して雅也さんは
「アクションしたことが大きかった」
 と真剣な口調で語ってくれた。彼が真音さんに好意を持ち、アプローチをかけたことからすべてが始まったわけだが、なるほどそれがなかったのならば今の生活はない。その後、二人はあーじゃないこーじゃないと楽しいやり取りを続けたが、僕はそれを微笑ましく眺めるほかなかった。
「まあ、幸せかな」
 と、あっさりと、けれども幸せであることが滲み出る言葉で真音さんは話を締めくくってくれた。

 
【まさかのタイミングでサプライズイベント】

 今でも語りぐさになっているお二人の結婚式について話そう。2010年の秋、盛大な結婚式を挙げられた持田夫妻はあろうことか結婚式二次会の司会に私、半澤を指名した。気軽なパーティというよりむしろ、披露宴の延長線上にあったしっかりした会の司会を完全な素人の僕に任せるとは何たるチャレンジャーか。カチカチに緊張しながらもビール片手に台本を読み、なんとかその場をしのいでいた僕だったが、ひとつ大きな失態を犯してしまった。
 レクリエーション的なイベントもほぼほぼ終了。あとは長いご歓談を挟んで、感動的な新郎から新婦への「サプライズお手紙」だけ、という場面で僕はとにかくテンパっていた。司会業はただ話せばよいだけでなく、優秀なタイムキーパーでなければならない、とは当日になって痛感したこと。場所を借りて行っているパーティならばなおさらだ。僕は完全に時間にとらわれてしまい、あろうことかサプライズイベントを数十分前倒してしまった。式次第を知っていた幹事連中と、会場のスタッフは背筋を冷たくしたのではないか。あれは二人に申しわけなかったといまだに思っているが、持田夫妻は僕のつたない司会にも喜んでくれた。本連載第八回にご登場いただいた星夫妻の結婚式が、持田家の式の前日で、しかも二つの式とも@青山。楽し過ぎる2デイズとなり、2010年秋は僕にとってはちょっと忘れられない、幸せな季節であったなあ。

 
【アクションと言われても】

「半澤さん、アクション起こさないとダメだよ、ダメ」
 とは雅也さんの言葉。僕の過去の恋愛を知る彼からの箴言は重たいものだった。なるほどそうっすね、と口では言いながらも僕はどうアクションをとればよいか今のところわからない。ただ持田夫妻の、まるで夫婦漫才のような軽妙なやり取りを見ていると結婚はいいなあ、と改めて思った。とっても失礼だけど、結婚当初は後輩ながら、ちょっと心配すらしていた。というのも二人とも折り目正しいご家庭かつ都会のお坊ちゃん&お嬢様。タフな、というと聞こえは良いが純粋な貧乏一人暮らしを続けていた僕からすれば、二人の新生活は正直危なっかしくすら思えた。それがどうだろう。あれから5年、二人は完全な、そして素敵な家族となった。持田家にはかわいいお子さんが二人も生まれ、幸せな家族を築いている。「築いている」と、さらっと書いてしまったがそれはそれで大変だろうし、苦労もあるだろうが、その過程すらも颯爽と楽しんでいるような軽やかさを持田夫妻からは感じる。結婚とは、家族をゼロから構築していく作業なのだなあ。当然のことだけど、交際する前から知っているカップルだからこそ、今回はそんなことを思った。改めて雅也さんの言ってくれた「アクションを起こせ」という言葉が胸に響く。
 真音さんのFacebookをよく拝見する。小さい時から知っていることもあるし、僕が初黒星をきっした相手というのもある。長女琴音ちゃんが成長していく姿を親戚のおじさん感覚で眺めるのが、僕の毎日の楽しみだ。けれど、時にスカイツリーが伸びるのを眺めながら会社員として過ごしていたあの頃のことを、センチメンタルな気持ちで思い出したりもするのだ。

 
 
【今回のまとめ】

赤ちゃんからは確実にマイナスイオンが出ております

 
ph1

やっと僕に慣れてくれた感のある琴音嬢

 
ph2
何をやってもキュート過ぎる雅楽さん

 
 
 
-ヒビレポ 2015年6月10日号-

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