レッツゴー!町中華探検隊 第12回

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未来の老舗がここに!

 
増山かおり
(北尾トロ→下関マグロ→増山かおりの輪番連載)

 
 
 
町中華店主の高齢化・跡継ぎ不在により、町中華がまた一つこの街から消えていく。
私が街中華探検隊に加入してからのわずか半年の間にも、トロ隊長、マグロ隊員のお二人が訪ねた店が閉店したそうです。私自身も、いつか入ろうと思っていた近所の町中華がいつのまにかのれんを出さなくなっていたことに気づきました。
今、東京の町中華を担っている世代が60代だとすると、あと20年、遅くとも30年後には、店主は引退の時期を迎えます。70代を超える店主も少なくありませんから、その日が訪れるのはもっと早い時期のことかもしれません。
 
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しかし、悪い話ばかりではありません! 存亡の危機にさらされる町中華に、一筋の光明が差しています。その光を放つのが、荻窪「啓ちゃん」。マグロ隊員も注目の、町中華界にすい星のごとく現れたホープです!


 
以前、荻窪のタウン誌「ogibon」の取材で訪れたのですが、その際は店主の幸田さんがお一人で店を切り盛りしていました。若さあふれる店主は、町中華店主の孫世代といっても過言ではありません。
 
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「啓ちゃん」は食券式。口頭オーダー式の店以上に素早い決断を迫られます。啓ちゃんは、地元の社長さんたちもこぞって通う人気店なのですが、その大きな魅力が、リーズナブルな価格と盛りのよさ。町中華に書かせない条件です! 町中華は、店舗の雰囲気や味はよくても、価格はさほど安いわけではない(チャーハン800円など)ことも少なくありませんが、啓ちゃんは早い・ウマイ・安いと3拍子揃った、期待を裏切らない店なのです!

そんなわけで、本日はラーメン450円と、半チャーハン350円を注文。しめて800円也。
注文するやいなや、手早くチャーハンを炒める音が響きます。シャシャシャシャ、シャシャシャ、カンカン! この音がいいですよね。啓ちゃんのコの字型のカウンターからは、厨房のすべてが見渡せるようになっていて、啓ちゃんの鍋を振る手つきも丸見えなのであります! あのチャーハンが、今からここにやってくるんだな……!
 
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「半」といっても、このボリュームですよ! ああ、いい香りだ。しょうゆの香りがふわっと広がって、夢中になっているとすぐにラーメンもやってきました。
 
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たまらず、いただきます!
町中華探検隊の活動ではごはんものを注文することが多いのですが、このラーメンとても好きな味でした。粉がつおでしょうか、魚粉系の香りがぷんと広がります。

今回は、もぐもぐ食べながらのインタビューを事前にお願いしておりました。あれ、店主のお隣には、うら若き女性の姿が……もしかして!
 
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増 あの、もしかして、奥様ですか?
啓 はい、ちょうど一年くらいになります!

なんと! 若き町中華店主には、奥様がいらしたのです!  30年後のお二人の想像図が、荻窪町中華の店主達の姿と重なります。

啓 「散歩の達人」に啓ちゃんの名前が出てるよ! ってお客さんが教えてくれたんですよ。あー、うちには取材来てないなって残念に思ってたところだったので、嬉しかったです!
増 啓ちゃんは30年後、まさにああいう町中華の老舗になる期待のお店だと思っているんです! それにしてもおいしいなあ。奥様も、お店で料理されるんですか?
奥様 いえいえ!もう力がいりますし。

もう、この日本は大丈夫です。幸せそうなお二人の姿を見ていたら、そんな気さえしてきました。

増 啓ちゃんは、中野の「尚ちゃん」というお店で修行されてたんですよね。ラーメンは、その時代と同じレシピなんですか?
啓 基本は同じで、ちょっと変えてるくらいです。
 
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この日啓ちゃんに行くと人に吹聴していたところ、荻窪の情報サイト「オギジン」を作っているデザイナー・松崎さんも付き合ってくれました!
 
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そして彼の注文した冷やし担々麺を(大きな)一口いただいたのですが、これは普段訪れているような町中華では絶対出てこない、本当に旨い逸品でした! 明らかに、何かのDNAが違います。町中華はどのお店に行って何を頼んでも町中華味がするんですが、生まれてきたその血筋が違うというのか、丁寧に育てられた味がしました。きけばこのメニューの誕生は一昨年。冷やし中華とは違う夏限定メニューを作ろうと思って生まれたというこの冷やし担々麺は、単に担々麺を冷やしたのではなく、冷やし中華のように甘酸っぱさも加わっています。他のメニューはベーシックなだけに、このオリジナリティが際立ちます!

増 ……おいしすぎます! 夏限定というのは、いつまでなんですか?
啓 だいたい6〜8月いっぱいくらい。お客さんから言われたらちょっと早めに始めてます。
増 麺を冷やすのって大変ですもんね。具を並べるのも大変だし。
啓 玉子は、中華鍋で一枚ずつ焼くんですよ。それを重ねて、包丁で切るんです。そのくらい出るかわからないから、トマトの準備も大変ですしね。
増 玉子、そうやって焼いてるんですか! 「冷やし中華始めました」って、そんな宣言するほどのことなのかな? ってずっと思ってたんですけど、あれは店主の「頑張るぞ!」っていう気合いの言葉だったんですね。今後、こういうメニューは増えていくんですか?
啓 基本のラインナップはこんな感じで、限定メニューはたまに変えようかなと。

もう本当に、なんの不安もありません。町中華の味を守りつつ、オリジナルメニューも打ち出していく啓ちゃん。新しくオープンした店なので、さすがに50年やっているような老舗の建物の風情はなくピカピカですが、30年後には素敵なご夫婦で、イイ具合に味の出たお店を担っていくのだろうな。

増 駅からけっこう遠いのに、オープンして3年経つ今でも大繁盛しているのって、すごいことだと思うんですよ。
啓 そうなんです、最初は不安だったんですけどね。そもそも、新規開店するラーメン屋はあっても、新しくできる中華屋さんってほとんどないですよね。
増 幸田さんは、修行されてた「尚ちゃん」の常連のお客さんから店員になって、独立したんですよね。
啓 尚ちゃんにあこがれて、自分も、自分の好きな料理を出す店ができればいいなと思いました。
増 啓ちゃんに憧れて鍋を振りたくなる子供も、そろそろ出てくる頃なのでは?
啓 あ! そうだったら嬉しいですね〜!
増 将来お子さんができたら、店を継いでほしいと思いますか?
奥様 本人がやりたいって言ったら!
啓 無理にやらせようとは思わないけど、やりたいって思ってくれたら嬉しいです!
増 そしたら、「何ちゃん」がいいですかねえ(笑)? 町中華では、二代目のお店って少なくて、店主に話を聞くと「子供にはやらせようと思わかなった」っておっしゃる方が多いんですよ。そんな中、啓ちゃんのように、修行していた町中華のソウルを受け継ぐお店が増えるのはとても嬉しいです。
啓 中野の「尚ちゃん」は、次の代は先輩が継ぐんですよ。尚ちゃんは今年還暦で。
増 還暦っていったら、中華のオヤジ盛りじゃないですか。
啓 でも自分でやりたがる人なんでなかなか。ものすごい頑固オヤジなんですよ。でも仕事はすごく教えてくれて。「やってもらうためにアルバイトとってるんだから」って、そういう人です。
増 今60代くらいの店主だと、その時代は師匠は何も教えてくれなかった、なんて話も聞きますよね。荻窪の「徳大」さんも、タレをこっそりなめて味を覚えたんだっておっしゃってました!
啓 尚ちゃんから独立した店がけっこうあるんですよ。神奈川には「ぞのちゃん」っていう店があって、福島にも尚ちゃん出身の店があります。

これはもう、尚ちゃんから始まる「ちゃん系」町中華巡りをしてみるほかありません!
全然話したことない人とかご近所のおじさんおばさん、お子さんにも「啓ちゃん」と呼ばれ、街のおまつりの神輿の列が啓ちゃんの前に来るといつも挨拶をしていく、なんて話も聞きました。中華に限らず、いろんなおいしいものがあふれている東京で、何十年も愛され続けるために大切なものをいっぱいいっぱい持っている啓ちゃん。街中華探検隊の一員として、全力で応援し続けます!

私は町中華探検隊の道を歩み始めたばかりですが、このヒビレポ連載が町中華の未来を少しでも明るいものにする一助となれば幸いです。また、町中華でお会いしましょう!

 
 
 
-ヒビレポ 2015年6月20日号-

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