いきもの事件史 第3回

矢ガモ、おぼえていますか

 

日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)

 

一).2月4日木曜日 最初はカコミ記事でした

「背中の矢 痛々しく  石神井川 手負いガモ

東京都板橋区の石神井川で、今年になって、カモが弓矢で次々と殺されている。一羽だけ、奇跡的に生き残っており、板橋区役所は投網をかけて捕獲を試みるなど、救出作戦を展開。警視庁板橋署は鳥獣保護法違反の疑いで捜査している。
生き残っているのは、オナガガモのメスで、背中に赤い矢が突き刺さっている。足を少しけがしているらしく、動きがぎこちない。仲間から離れて、エサをついばんでいる。捕まえようとすると、飛んで逃げている。
三日は、山階鳥類研究所の専門家が来て、区職員と捕獲方法を話し合った。矢は直径八ミリ、長さ七センチのプラスチック製で、三本の羽根があり、先端に鉄製の矢じりがついている。同署や同区役所は、スポーツ用品として売られている洋弓の一種で射られたとみている」(1993年2月4日 朝日新聞朝刊社会面)

二)2月8日月曜日 報道陣って誰だよ

「『矢ガモ』に人垣 不忍池へ再び飛来

テレビなどで連日報道されている、矢が突き刺さったオナガガモ。七日は、再び東京・上野動物園の不忍池に姿を現した。日曜日とあって報道陣のほか家族連れも殺到、常時二百人前後が取り巻いた。
このフィーバーぶりに、カモが警戒して池の中に身を潜め近寄らず、台東区や同動物園による捕獲・救出作戦はこの日も空振り。おびき寄せるためのえづけもできなかった。
騒ぎから逃れるように、カモは数キロ離れた古巣の石神井川から不忍池の間を行き来、そのつど報道陣などが追いかける。日曜返上で出動した台東区環境保全課職員は『静かにしないと救出も困難。このままでは長期戦だ』と話していた」(1993年2月8日 朝日新聞朝刊14面)

三)2月13日土曜日その1 付くんだ残業手当

「非情の矢羽 愛護へ一矢  板橋区への『助けて』電話2265本・手紙など175通/板橋・北区 徹夜の職員も

連日、百人以上の見物人と報道陣が詰めかけ、八四年のカルガモの引っ越し以来の大フィーバーとなった『矢ガモ騒動』。上野動物園が十二日、けがをしたオナガガモを保護して、ようやく一段落した。喜んだのは全国の愛鳥家だけではない。土・日曜返上で大がかりな捕獲作戦を実施し、時に徹夜までした板橋・北区の職員らは『これでやっと休めます』。区などが矢ガモ捕獲に費やした人とお金は…。

捕獲作戦の中心となった板橋区環境保全課では、矢ガモ騒動が本格化し始めた今月初めから、日常の業務ができない状態。一日から十一日までに、矢ガモ関係でかかってきた電話は、計二千二百六十五本、手紙やファクスは百七十五通にのぼった。
『何とか助けてあげて』『こうすれば捕獲できるんじゃないか』『現場周辺で騒いでいるマスコミを何とかしろ』。電話の応対だけで、てんてこまいだった。課長以下三十七人の多くは連日、夜九時から十一時ごろまで残業した。八に日と九日には、翌朝の捕獲作戦に備えて、十人づつが休憩室に泊まったり、徹夜した。広報課員一人もつき合った。午前三時に起きて、猟友会員とともに石神井川にカモ網を設けた。
朝になると他の課からも多くの職員が応援にかけつけ、猟友会員、北区職員と合わせて約五十人がかりで捕獲しようとしたが、両日ともに作戦は失敗。職員は疲れ果てて、十一日には大半が休んでしまった。
同区予算課によると、捕獲作戦に費やした費用は約三百万円。うち職員の超過勤務手当が約百万円、捕獲用の網の購入費、携帯電話、貸しふとん代が約二百万円だという。
北区でも、環境保全課と河川公園課の職員は残業の連続。八、九日には職員四人づつが、ほぼ徹夜したという。同区財政課は、人件費と諸費用合わせて、百万円近くかかったとみている」(1993年2月13日 朝日新聞朝刊東京都心版)

四)2月13日土曜日その2 都知事は感心する

「『カモ界の英雄』 都知事が感心

板橋区とともに捕獲作戦をしていた東京都の鈴木知事は十二日の定例会見で『本当に強いカモですね』『あの矢を背負って飛んだり泳いだり、活躍していたわけですから、カモ界の英雄ですね』と感心していた」(1993年2月13日 朝日新聞朝刊社会面)

五)2月13日土曜日その3 英通信社は笑う

「『最新メロドラマ ハッピーエンド』 英通信社”皮肉”報道

英ロイター通信は十二日、東京発で『日本の最新のメロドラマがハッピーエンドを迎えた』と矢ガモについての過熱報道を皮肉る調子で、一連の経過を伝えた」(1993年2月13日 朝日新聞朝刊社会面)

以上、最初は心ない何者かの仕打ちに義憤を覚えた体の記事だったのが、「ひまな公務員の皆さんと自分を棚に上げる新聞社」という思いもよらぬ着地点になった騒動のおはなしでした。
むろん犯人の行方など二番目の記事ですでに完全に忘れ去られています。

そもそも矢の刺さったカモを「矢ガモ」って呼んじゃった時点で、動物愛護な気分とか一気に吹っ飛んでますからね。

-ヒビレポ 2012年10月20日号-

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