いきもの事件史 第4回

ジンメンな連中

 

日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)

 

「推定550万円の人面魚 模様が人の顔そっくりに

英国で、コイに人の顔そっくりの模様が現れ、珍しい人面魚だとして注目を集めていると、英デイリー・メール紙が報じた(Daily Mail 2010年7月3日)。

人の顔そっくりの模様が現れたのは、ロンドン近郊のダゲナムに住むブレンダン・オサリバンさん(44)の飼育するコイ。このコイは横から見るとごく普通のコイだが、上から見ると頭部に目、鼻、口に似た模様があり、人間の顔のように見える。
オサリバンさんがコイを購入したのは今年初めごろだが、問題の模様に気付いたのは最近になってからとのこと。コイの成長とともに斑点が変化し、顔のような模様が出現したとみられている。
このコイは人面魚として注目を集めており、価値は4万ポンド(約550万円)に上ると推定されているという」(国際時事新聞 2010年07月06日)

雲や壁のしみが人の顔や動物に見えたりするように、対象が実際とは違って知覚される現象を、精神医学の方でパレイドリア(pareidolia)という。幻覚ではなく錯覚の一種であり、それが本当は雲や壁のしみであることは理解しているが、一度感じてしまったその呪縛からはなかなか逃れられない。
日本における人面魚ブームは1990年、山形県鶴岡市の善宝寺の池にいたものを雑誌フライデーが特写、記事にしたことで広まったとされている。
お池のコイの模様に人の顔が浮かぶ呪いはわが国だけかと思ったら、冒頭の記事のようにそんなことはない。2005年や2009年には韓国や中国でもニュースになっており、万国共通のパレイドリアであるらしい。

相手は魚だけではない。

「人面カメムシ本土に北上?

鮮やかなだいだい色に人の顔のような模様が入った南方系の昆虫「アカギカメムシ」(キンカメムシ科)が、福岡市の油山で見つかった。南西諸島では普通に見られるが、九州本土では観察例はほとんどないという」(2012/10/17付 西日本新聞夕刊)

「ついに火星探査機MROが『火星の人面岩』の正体を暴いた! 驚きの事実とは

ついに『火星の人面岩』の正体が明らかになった。火星人の遺跡説や異性人の基地など、さまざまな憶測が飛び交っていた『火星の人面岩』だが、ついに驚愕の正体が判明したのだ!!
イギリスのニュースサイト『デイリーメール』電子版が伝えたところによると、あの岩はただの大きな岩山だったという。NASA(アメリカ航空宇宙局)は30日、火星探査機『マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)』に搭載している高解像度カメラ(HiRISE)で撮影した写真を公開。火星の表面より300キロメートル上空から撮影された写真は、『火星の人面岩』の姿を克明に写し出している」(ロケットニュース24 2010年8月1日)

ただの大きな岩山だったそうです。いやほとんどの人はそう思ってたはずですが。っていうか人面岩いきものじゃねえ。
人面のいきものと言えばこれを外しては語れまい。

「人面犬

人面犬(じんめんけん)は、人間の顔を持ち言葉を喋る犬に関する都市伝説」(Wikipedia)

いきものかこれ。さすがに都市伝説、ざっと探した程度ではそれらしいニュース記事は見つからなかった。ウィキペディアに拠れば、だいたい以下のような特徴を持つクリーチャーであるらしい。

・深夜の高速道路で、車に時速100キロメートルのスピードで追いすがり、追い抜かれた車は事故を起こす。
・繁華街でゴミ箱を漁っており、店員や通行人が声を掛けると、「ほっといてくれ」と言い返して立ち去る。
・人面犬に噛まれた人間は人面犬になってしまう。
・顔は中年男性だともいわれ、妖怪研究家・山口敏太郎は、リストラされて自殺した中年男性の怨念が犬に憑依したものか、としている。

本稿はとくにこれらの証言や妄言の検証を行うものではない。ただ、1980年代末期に日高が直接聞いた、漫研の後輩が部室で語った話をここに記しておく。読者諸賢にはそれぞれに判断なさるがよかろう。

「僕が兼部してるサークルの1年女子に人面犬がいるんですよ」
「なんだよそれ。どういうことだよ」
「いやー、なんていうかこう…。人面犬なんですよ」

そしてM君は深い溜息をついた。
いたらしいですよ人面犬。早稲田のテニスサークル。

*

永井豪『デビルマン』に、ジンメンという名の妖獣の登場するエピソードがある。捕食した無数の犠牲者たちの顔=人面を背中の甲羅に纏う亀の化物だ。
個々の顔はなお意識が残っており、悲しみと苦痛を泣き叫び訴える。それらはすでに生命のないものなのに、「顔」であるがゆえに表情をもち、言葉を投げかけて来る。デビルマンは旧知の少女の「顔」との対話ののち、その俤ごと拳をえぐり込んで妖獣を倒す。

本来そこにあらざる人面を見てしまうのは、やはり何らかの心象風景の投影なんだろう、と思う。

-ヒビレポ 2012年10月27日号-

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