昭和歌謡宅急便 第5回

トンデモタイトルの興奮

 

田中稲(第8号で「K文学館の散歩者」執筆)

 


さて、いきなりですがみなさん、商品名って気になりますか。
面白いネーミング、たくさんありますよね。

ちなみに、私が「この商品名、やるなぁ!!」と妙に感動したのが

「トイレその後に」。

「トイレの後に」じゃなくて、あえて「トイレ“その”後に」。
「その」が付くだけでこんなに風流になるなんて凄くないですかっ。

小林製薬は他にも「トイレ洗浄中」やら「なめらかかと」やら、標語かオヤジギャグのようなネーミングゆえ、商品の役目が速攻で理解できるのが素敵だわ。

と、小林製薬をいきなり例に出したのには理由がありまして。
私が生まれて初めて勤めた会社は、健康食品会社のデザイン部。
コピーライターとして商品名を毎日のように頭からヒネリだしては不採用になる日々が続いた…。

忘れもしない。私が最初に提案したのは便秘薬の名前。分かりやすく、そして女性も買いやすくオシャレに。
ということで考えて考えて提出したのが

「カイベンデール」。

快便と出るを掛けて、しかもカタカナにしてドイツの首都っぽくしてみましたッ。
超自信満々でプレゼンをした私。
しかし、残念ながら通らなかった…。

理由は

「すでにどこかにありそう」
「何気にネーミングの中心に入っている『ベン』が下品」

などなど。うーむ、商品名って難しい、と思い知った20代前半であった。

次に提案したのはダイエット・パンツの商品名だった。
遠赤効果としめつけ効果で履くだけで痩せるというふれ込みのパンツで、
私はウキウキと

「シェイプとスリムを合わせて『シェイム』はどうでしょうか」

と提案した。
すると、入ったばかりの新人ちゃんに

「田中さん、シェイムとは日本語で『恥』を意味するものになってしまいます!英語弱いんですかッ?」

薄笑いでビシリと反撃されてしまったのであった。
ああ、あの企画会議のひんやりした空気、思い出すだけでいまだに肩身が狭くなる(泣)。
うーむ、英語って幅広い、と思い知った20代後半であった。

とまあ、商品名は「コレ!」と決まるまであーだこーだと大変なのである。

昭和歌謡の歌詞&タイトルも、きっと作詞家さんが考えて考えてキャッチーに受け手に届くように練りまくっていることは明らかだ。
しかし、
「これ絶対練り過ぎて想像力が迷子になった挙句ついたんではなかろうか」
というトンデモ楽曲も多々存在する。

昭和歌謡マニアの中ではもう伝説にもなっているのが、

「お前にマラリア」(沖田浩之/1983年)。

 

 

作詞は売野雅勇大先生。チェッカーズの「涙のリクエスト」などを手掛けた超売れっ子である。
これ、聞いてみるとロカビリー調のイカしたリズムで超カッコいいのだ。
ヒロ君の歌唱もナイス。鼻にかかった鋭い声質がギンギンに心に刺さってくる。

しかしなぜ、こんな高熱や吐き気を伴う伝染病がタイトルになってしまったのだろうか。
結局、「お前への気持ちは赤道直下の熱帯地区で病気にかかっちまったくらい熱いぜ!」
というのを端的に表現したら「マラリア」なってしまったようなのだが。

うーむ、ここはフツーに「お前に赤道直下」の方が曲の良さは伝わったのではないか。

売野氏は郷ひろみの「2億4千万の瞳〜エキゾチック・ジャパン〜」も手掛けている。
きっと、伝えたい世界観を歌詞にする際、100倍くらい表現の風呂敷をおっぴろげるクセがあるのだろう。

もう一つ。ジャニーズでトンデモタイトルを一気に引き受けたと言っても過言ではないシブガキ隊から

「飛んで火にいる夏の令嬢」(1986年)。

お嬢様を思いのままに誘惑するぜ、といった内容で、分かりやすさは小林製薬の商品名といい勝負である。
しかし、「飛んで火にいる夏の虫」の「虫」と「令嬢」を掛けるってちょいと失礼じゃございませんか!
作詞家は大御所の森雪之丞。森先生はこれともう一つ「べらんめぇ!伊達男」(1984年)という無茶もされている。「あたぼうよ」「ちゃきちゃき」という江戸弁が散りばめられたアイドル歌謡を私は他に知らない……。

もう一つ。これの上を行くトンデモ楽曲があった。やはりシブガキ隊、

「ラストコールは押忍(おす)!」(1985年)

歌詞は「マラリア」の売野先生である。先生、飛ばしてますね!
彼女が大好きゆえにキスの次の段階は必死で我慢するというジェントルマンな姿勢を貫いている間に、彼女が他の男に抱かれかけてうわああああ、という思春期の青い欲望大爆発な歌である。

いや、それはいいのだが。そんな哀しい男から彼女へのラストコール、
格好よく「あばよ」(いやこれも古いか)とでも言えばいいではないか。

なぜ「押忍(おす)!」……。

いきなり電話口からこの一言を叫ばれたとしても、彼女の反応は「はっ?」「えーと、何?」くらいだろう。
残念過ぎる、言葉のチョイスミス! 彼女に全く気持ちは伝わらないと思う。

でも、ヘンだからこそ愛しいのよね、きっと。昭和歌謡のタイトルって。
ツッコみどころ満載のトンデモタイトルまだまだあります。また、いつか続編を!

 

-ヒビレポ 2012年10月31日-

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