今朝はボニー・バック 第5回

ランチジャーの逆襲③

 

ボニー・アイドル(第9号で「人生とはトイレからの距離である、のか?」執筆)

 

ランチジャーの連載も今回で最後。なので、まずはランチジャーの蔵出しエピソードをどうぞ。

まずはその起源。ランチジャーの、汁容器、飯容器、おかず容器が行儀よく内部に収納されている構造を見て、ある玩具を連想した人は多いと思う。そう、「マトリョーシカ」だ。そして6時間後も60〜70度を保つ保温能力。さぞかし寒い地方で活躍しそうである。この2つの点から、ランチジャーの起源を「ロシア」にあると思った人は多いのではないだろうか。

ところがぎっちょん、ランチジャー発祥の地は「ドイツ」。
1930年前後、ドイツのサーモス社は、スープや料理を保存するフードジャーを開発。このフードジャーを第二次世界大戦時になぜか敵方のイギリス空軍が採用し、長距離爆撃機に搭載される。これがランチジャーの起源といわれている。
かつて、遠方にいる味方に連絡を取るための手段だった「狼煙」が現在のケータイ電話に進化したように、ぼくたちが普通に使っている生活用品が戦争の道具の進化形であることは少なくない。
それにしても、戦時中、イギリスの敵国民は熱々のスープを上空からぶちまけられて災難だったろう。

また、タイガー、象印、グロリア、ピーコックなど、ランチジャーを販売する魔法瓶主要メーカーが大阪に集中していることに疑問をもった人も多いのではないだろうか。その答えは、かつてランチジャーの保温能力を担っていた材料に関係している。
大阪は昔から「ガラス」の生産高全国1位を誇る日本屈指のガラス地帯。魔法瓶、ランチジャーの内部に使われていたガラス(現在はステンレス)が手に入りやすい土地だったのだ。もし、地理の試験で「ランチジャー生産高一位の都道府県はどこでしょう」という問題が出されてもこれで安心である。

蔵の底もついたので、
〜前回までのあらすじ〜
「レポ」に原稿を載せてもらおうと、北尾トロさんの事務所にランチジャーを持ち込んだボニー。場の空気が温まってきた頃合いを見計らい、トロさんの前で、赤ウィンナー、卵焼き、ししゃも等のオカズ
「うわぁ、作ってきてるよ」
ぼくが弁当の容器を開けた時のトロさんの第一声だ。
この言葉をぼくは好意的に解釈した。
(そうですぜ、トロさん。中身の入ってないランチジャーなんて、いわば「クリープ」を演らないレディオヘッド。トロさんのために早起きして作ったこの弁当、さぁ召し上がってください)

しかし、いっこうに弁当に手をつけようとしないトロさん。それどころか先ほどまでの和やかな態度から一転、何か思い詰めたような表情である。
(マズい、ここは食べ物の持ち込み禁止だったか。それとも、やはりハンバーグを入れるべきだったか・・・)
トロさんの豹変ぶりに動揺しながらも、なんとか「レポ」にランチジャーの企画を採用してもらおうと、その魅力を説明することに。

数分後、トロさんはぼくの説明が終わると見るや、仕事用の机に移動し、メモに何やら書き始めた。そのメモ書きをぼくに手渡し、
「コレ、○○○○(料理雑誌)編集部の電話番号だから、ここに居る××さんなら興味を持つかもしれないよ」
と、他の雑誌を紹介してくれたのである。

後日、本人から聞いたのだが、なんとトロさんは大の「弁当嫌い」だというのだ。
弁当嫌い。そんな人、初めて会った。
シイタケ嫌いやグリーンピース嫌いなど、特定の食材が嫌いなのはわかるが、弁当そのものが嫌いだとは。しかも、トロさんは普段お酒もあまり飲まないらしい。肝臓を労ったしじみのみそ汁など、まったくお呼びでなかったのである。

その後、ぼくのランチジャー普及活動は、トロさんに紹介してもらった雑誌の編集部に企画を持ち込みに行ったり、えのきどいちろうさんがパーソナリティを務めるTBSラジオ「水曜Wanted!!」でランチジャーについて喋らせてもらったり、徐々にだがそのエリアを広げている。雑誌にランチジャーの原稿が採用される日も近いような気がする。

所有するランチジャーも、1基から3基に増えた。
1つは、日本で最初に弁当型ランチジャーを開発したグロリア社製の「スープランチャー」。1970年代製の未使用品である。この商品名は「スープランチジャー」の誤植ではないかと思うのだが、もしかしたら、「ロケットランチャー」を彷彿とさせる形にかけて、ワザとなのかもしれない。
一見、どこにでもある普通のランチジャーのように見えるが、おかず容器のフタについている先割れスプーンの形がなんとも味があって、イイ。

もう1つは、象印製の「ジョイパック」。これも1970年製のデッドストック品だ。このランチジャーは2層構造、つまり中には飯容器とおかず容器しか入ってない。汁容器がないのである。「ってことは、ランチジャーの魅力の1つである保温能力がないの?」という声が聞こえてきそうだが、ご安心なされ。「ジョイパック」は汁容器がない代わりに、水筒が内蔵されているのだ。

 

さて、そろそろランチジャーともお別れの時間がやってきた。3回の連載を通じて、どれほどみなさんにその魅力をお伝えすることができただろうか。
たしかにランチジャーが、現代の「軽・小・短・薄」がイイとされる時代にそぐわないことはぼくも百も承知だ。さらに、最近では、これに「容量」が加える。
「それって、何ギガバイト?」こんな会話が学校の教室、会社、電車の中、飲み屋・・・・・・、ありとあらゆる場所で交わされている。モノの価値を容量でしか判断できないつまらない時代だ。
しかし、そんな奴らにはこう言ってやれ。
「飯容器の容量なら、1.8合分です!」と。

エンドロール代わりに、恒例のレシピ紹介をどうぞ。今回は、トロさんに紹介いただいた出版社に持ち込んだ「カレー弁当」。オカズは福神漬け、らっきょはもちろん、イカリング、ほうれん草、唐揚げ、ゆで卵、赤ウィンナーなどすべてカレーに合うものばかりをチョイスした。

「カレー弁当」
◎レシピ
・ カレー
ポイント/はじめに、ちょっと多いと思うぐらいの玉ねぎのみじん切りにし、よく炒めること。肉はひき肉がオススメ。市販のルーを使う場合は2種類以上を混ぜること。隠し味にバナナ、チョコ、擦りおろしたリンゴ、ニンニクなどを入れると味に深みが出る。一晩寝かすこと。

・イカリング
・ほうれん草
・唐揚げ
・ゆで卵
・赤ウィンナー
・マカロニサラダ
・ゆで卵
・福神漬け、らっきょ
・オロナミンC

「ランチジャーのあの大きさは、弁当を作ってくれた人の愛情の大きさである。
そして、そのぬくもりは永遠に冷めることはないのだ」
Size of Lunch-jah is chef’s love,and never cold.

—ボニー・アイドル
Bonnie Idol

 -ヒビレポ 2012年10月30日号-

Share on Facebook