昭和歌謡宅急便 第6回

睡眠パラダイス

 

田中稲(第8号で「K文学館の散歩者」執筆)

 

さて、いきなりですがみなさん、寝過ぎて脱水症状を起こしたことはありますか
私はあります(泣)。

そもそも私は寝る時間が長い。平均10時間、最低でも7時間は寝ないとスッキリしない。
会社勤めの時は本当にツラかった……。

特に健康食品会社のデザイン部にいた時は、週一回7時から早朝企画会議があったので、当時兵庫の山奥に住んでいた私は、会社があった梅田まで、通勤時間を考慮し5時15分頃には起きねばならず、もう地獄(泣)。

が、この5時15分起床により、私は阪神大震災で命拾いをしている。
地震が起きた1月17日5時45分、早朝会議のため、起きて着替えをしている時にドカドカ揺れたのだが、なんとベッドに(しかも枕の上!)に絵の額やらステレオやらが落ちて山積みに。

ね、寝てたら死んでたよ……! 早起きって本当に三文の得なのね。

……とはいえ、体に組み込まれた睡眠時間設定は変えられない。それからも長時間睡眠は続いている。
あえて言い訳をさせていただくと、私の睡眠タイプは「ロングスリーパー」というらしく、かの偉人アインシュタインもそうであったらしいっ(力説!)。
私はジワジワと出勤時間が遅い会社へ転職を繰り返し、30代になってやっと夢の「朝何時に起きても自由」なフリー生活に突入した。

ところが、そもそも「ライター」という職業自体、ロングスリーパーには不向きじゃないか、という事に遅まきながら気が付いた。

クライアントの中には24時間体制で締め切りを指定する人も多数いらっしゃる。夕方の午後6時に依頼が来て
「深夜2時ごろまでなら会社にいますんで、それまでに(原稿)お願いします」
という、いやいや何の冗談ですねん的な仕事も一度や二度ではない。

むーん、どうしたものか。断っている場合でもないし。そこで私が編み出したのは
「とにかく早く仕上げて、できるだけ早い時間に出す」。
これである。
午前2時締切なら、ダッシュで午後9時くらいに仕上げて提出して寝ちゃえばいいのだ。
私はとにかく「早書き」のワザを磨いた。
全ては睡眠時間をキープするため。No Sleep,No Life!

おかげで、私は30代の頃、
「イナズマの田中」
と呼ばれるほど書くのが早くなった(内容や誤字脱字の多さはともかくとして)。
で、この「早さ」が重宝され、ムチャな締め切りの発注が殺到した(泣)。
年齢と共に速度は衰え今は人並みであるが、ある意味生活環境は人の才能を無理やり伸ばすものである。
ムチャな仕事を速攻で終わらせ
「早いですね! 助かりました〜」
と感謝された日の夜の布団の心地良さたるや! 嗚呼、パラダイス。私は布団の国の女王……。

私の睡眠導入ソングは、なぜか昔から「神田川」(かぐや姫/1973年)である。
せつなーいギターの音色のイントロに一瞬胸がキュウンとなり、
「♪あなたは〜もぅお〜忘れたかしら」
南こうせつさんのユルい優しい歌声にまどろみ一緒に口づさみつつ。

 

「♪若か〜ぁった……あの頃」
スカーッ……。

若かったあの頃を思い出すヒマもなく、おいでませ夢の中状態となるのであった。

これを友人に話したところ、ものすごい勢いで
「はー? 神田川ぁ? 昔の貧乏時代がフラッシュバックして逆に目が覚めるっちゅうねん!! 寝る前は『聖母たちのララバイ』(岩崎宏美/1982年)やろ、絶対!」
と言い返されてしまった。

げげげ。確かに超名曲だが睡眠導入ソングとしては重すぎる!  私はのけぞった。
確かに「さあ、眠りなさい」と囁いてはくれているが、あの宏美嬢の深刻な声、そしてダークなメロディー。
「さあ、眠りなさい。けれどその前に今日一日の反省をしなさいッ。アンタの生き方、それでいいの??」
というものすごい切羽詰まった隠し歌詞を感じるのはわたしだけか?

まあ、心休まるツボは人それぞれである……。

余談だが、最後に1つ思い出話を。
私は一度寝たらどんな音楽が鳴ろうが滅多に目が覚めないが、学生の頃、一度だけ文字通り「飛び」起きた事がある。
当時「テープで聞く昭和文豪」みたいなものにハマっており、私は特に夏目漱石の「坊ちゃん」がお気に入りだった。それが、なにをどう設定を間違えたか、夜中の2時に目覚まし機能により再生されたのだった。

 

 

想像してみてほしい。静まり返った深夜も深夜。急に

「そりゃ、イナゴぞなもし!!」

若いツヤツヤした男子学生の声が部屋に響いた時のビックラ仰天。

「!?!!!」
さすがの私も飛び起きた。な、何? 泥棒っ!? 殺されるっ。
しばらく怖すぎて固まった。その後もイナゴやらバッタといった単語と伊予弁が続き、やっと「……坊ちゃん」と気づいたのは約3分後くらいだったか。ヘタヘタとベッドの上に崩れ落ちました。

ふっ。懐かしい思い出である。
が、それ以来坊ちゃんは聞いていないし本も読んでいない。
軽いトラウマとなっている。

-ヒビレポ 2012年11月7日号-

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