昭和歌謡宅急便 第7回

難解なエロス

 

田中稲(第8号で「K文学館の散歩者」執筆)

 

さて、いきなりですがみなさん、エロ小説を書いたことがありますか。
私はあります……。

仕事が無い時というのは、いろいろ考え、妙な動きをする。無駄な努力や空回りもしてしまう。
でも。でも!
それがもしかしたら「自分すら知らなかった才能の開花」へつながるかも!?とか思ってしまうのだ(号泣)。

私がフリーライターになりたての頃、ビギナーズラックで仕事をドバッと頂いた。
が、ビギナーズラックというのは、当然ながらビギナーのラックなのであって、約2年ほど経ち、私がビギナーでなくなった頃、ラックは去り、仕事はガクッと減った。

さて、どうしましょう。わが家にはバブルで時が止まったままのオカンがいる。稼がねば明日は無い……。頭を抱える私に、事務所のH先輩が驚くべき提案をしてくれたのである。

「いっぺん、官能小説でも書いてみる? 女性の官能小説家は売れるっていうし。内容がよければ編集さんに見せてあげるから」

官能小説……!! 私は思わず顔をあげた。
実はH先輩はベテランライターながら、某エロ小説大賞で受賞し、現在でも官能雑誌でちょこちょこと短編を書いているれっきとした「官能小説家」なのである。

で、事務所には出版社からしょっちゅう、先輩に向けて短編の指示がFAXでぶりぶり流れてくるのだが、これが面白い!

「パンティ好きの老人という方向でよろしくお願いします」
「変態の人妻がそれ以上に変態のオッサンにナンパされるという方向でお願いします」

こういった文章が、とっても真面目で丁寧な文体で送信されるカオス。
毎回爆笑しつつも
「うーん、こんな展開共感を呼ぶんですかねぇ」
などとモノ申すこともしょっちゅうの私。

もしかしたら、第二の室井佑月、いやさ、小池真理子になれちゃうか!?

エロに抵抗が全く無いと言えばウソにはなる。
が、今さらこの齢でエロ話を恥じらったとて誰もカワイイと思っちゃくれないし(泣)。

じゃあ、いっそ開き追ってスゴイの書こうじゃねえか。官能小説!!
少ない経験を風呂敷どころかブルーシート級に広げてやるっての!!
でも、どうせ書くなら美しいのがいい。耽美よ、耽美。

私は谷崎潤一郎の小説を参考にしながら(今思えばこの時点で何か間違っている)、とにかく書いた。必死で書いた。男女がくんずほぐれず、のた打ち回る濃い恋愛模様を。松坂慶子「愛の水中花」(1979年/松坂慶子)で気分を高めて、オトナの恋愛を書いた!!
いざいざ、1週間後で原稿用紙20枚くらいの短編を仕上げた。確か、お互い死を意識した男女が出会い、求め合う事で生きる意欲を持ち返すみたいな、エセ失楽園ぽい話だったような覚えが。

もし雑誌に載りそうなら、官能小説家らしいムーディーなペンネームを付けようと思ってるんで、早めに行ってくださいねッ。鼻息ふんふんで、感想を待ち構える。

すると、あろうことか
「ぜんっぜんエロが足りない」
と鼻で笑われ突き返された。で、次の条件で書き直しを命じられてしまった。

●前置きや出会いのシーンを縮めてエッチシーンをもっと複雑に、そして長く
●オトマノペをもっと効果的に使って

ウソ。これのどこがエロくないっての? 愕然とする私。でも、書き直さなくては使ってもらえない。文壇デビューの夢も消える。。。
ということで、んもう濡れ場の体勢を前やら後ろやら変更しまくり、ムチやら蝋燭やらも登場させ、いろんな効果音を取り入れ、私の知りうる全エロ知識大放出状態の出来となった。

さあ、読んで御覧なさい! と、参考に読んだ女王様系ノベルスの影響を受けつつ、先輩に原稿を差し出す私。これでエロいと言わずに何をエロいと言うのか!

すると。先輩が絶望的な声でこう絶叫した。
「道具とか体勢とかいろいろ取り入れすぎて、エッチというよりもチャレンジ大会になっとるがな!!」
先輩によると、私の文章がカサカサ(カサカサって、一体どういうことなのか!?いまだに分からない!)な上に、ドッタンバッタンとカップルがそれぞれ体勢を変えすぎて、体操選手権みたいな話になっているのだそうだ。

だって、エッチシーンを複雑にって言ったじゃないすか! と反論するも、
「なんでも動かせばいいってもんじゃないの。まったりとした“間”を文章で演出するのも必要なの!! 田中に官能小説は向いてない。無理」
と根本的に却下されてしまった。

官能小説が目の前でボツられるほど気まずい事は無い……。
私はもうそのデータを保存しておくのも我慢ならず、速攻でゴミ箱に捨てた(泣)。
で、私の官能小説家デビューはあえなく夢と消えた……。

さて。私のエロ小説家の思い出が全くエロくなかったおわびに、
最後に昭和歌謡で最高にエロい一曲をご紹介。

 

「春うらら」(1976年/田山雅充)。

 

ジワジワとお互い「その気」になっていくくだりが本当に色っぽくて愛しくて最高です。
冬、恋人の素足と自分の足がコタツの中でごっつんこ。それで「体がほてる」主人公。彼女を見ると、彼女も期待して目が真っ赤。

うーん。いいなあ。風流! そうよ。エロと風流って絶対セットであってほしい!
まあ、私がエロを語る資格はありませんが。ふー……。

-ヒビレポ 2012年11月14日号-

Share on Facebook

タグ: Written by