月に吠える的日記@新宿ゴールデン街 第7回

大事な集まりの場所

コエヌマカズユキ(第4号で「デスマッチ・ブルース」執筆)

 バーをやっていて一番嬉しい瞬間は、月並みだが、お客さんが心から楽しそうにしている姿を見たときだ。いまだに忘れられないのは、とある週末に、6人組の男女を迎えた夜のこと。男女3人ずつで、年齢は全員が40代。学生時代に、東京のホテルで一緒にバイトをしていた仲間だという。学校を卒業して一人、また一人とバイトを辞め、それぞれの道を進むことになってからは疎遠になっていたが、一部のメンバーがフェイスブックで再会したのをきっかけに、何と20年ぶりに集まったそうだ。この集まりのために、わざわざ北海道から出てきたメンバーもいた。
「なぁなぁ。俺たち、キスしたことあったよな。厨房でさ、フランスパンを渡すとき、チュって」
「ああ、そんなことあったね~~。その後何か言ってくるかと思ったら、全然言ってこないから、仕方なく知らんぷりしてたのよね」
 思いがけない2人の告白に、ほかの4人がどっと沸く。すると、ほかのメンバーもおずおずと口を開く。
「俺も今だからいうけどさ、お前のこと好きだったんだ。でもお前、○○先輩と付き合ってて、卒業したら結婚するとか噂だったんだよ。だから、どうしても言えなかったんだよな」
「えー、そうだったの? 私、○○君と結婚するなんて話、一度もしたことないよー!」
 当時は言いづらかったような思いやエピソードが、20年という時間の経過とお酒のせいか、次々と言葉になって飛び出した。6人はその度に歓声を上げ、なつかしみ、声を出して笑った。心から楽しそうな彼らの表情を見ながら、僕は涙が出そうになった。自分が作り上げた空間で、20年という時を超えて再会した人たちが、こんなにも楽しんでくれている。マスター冥利に尽きるとは、このことだった。

 それから数日経った夜、またしても6人組の団体客が「月に吠える」に訪れた。お店の外で呼び込みをしていた女性アルバイトが連れてきてくれたのだ。年齢層は、10代に見える女性から50過ぎの男性までと幅広かった。
「おぉ、キレイなお店じゃないですか」
「ゴールデン街って言ったら、もっと古いお店が多いイメージがありますよね」
「喉乾きましたね。あぁ、早くビール飲みたい」 
 男女は口々にそう言って席に着いた。お店が一瞬にして賑やかになる。商売繁盛の予感に、自然と上機嫌な笑顔が浮かんだ。
「マスターはあなた?」
 一人の男性が言い、僕はうなずく。
「僕たち、今日はね、大事な集まりなんですよ。あまり人に聞かせられないような話がたくさん出ると思うけど、いいですか?」
「はい、もちろんです。思う存分盛り上がってください」
 すると、10代の女性の肩を、隣にいる50代の男性が抱き寄せ、唐突にこう口にした。
「今日ここに来る前に二人でホテル行ってきたんですけど、いきなりこいつにウ○コ食わせてみたんですよ。その後縛り上げて、2回ヤってきました」
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 いきなり場の空気を一変させる会話だが、他のメンバーは驚いた様子もなく、笑顔で相槌を打っている。その後も彼らの会話には、「SM」「スカ○ロ」「ア○ル」「お○っこ」「ハ○撮り」などという単語が、ごくごく当たり前のように登場した。
「2人はそういうプレイ好き? よければ、話に入ってきていいですよ?」
 呆然とする僕とアルバイトに向かって、お客さんの1人が言う。聞いてみると、彼らはツイッターで知り合ったスカ○ロ同好会のメンバーで、この日は初のオフ会なのだという。「月に吠える」は、そんな記念すべき会場に選ばれたのだ。途中、常連客のおじさんが入ってきたが、店内の異様な空気を察してか、5分と経たずに帰ってしまった。
「今の人に悪いことしちゃいましたかね」
「俺、こんな話ばっかりしてたら、新宿2丁目の中華料理屋でも出入り禁止になったことがあるんですよ」
「そうそう。今度AVの撮影があるんですけど、出たい人います? 特にドMの人を探してるんですよね。プレイ内容は、おし○こからう○こまで……」
 その後も、文章にするだけで臭ってきそうな会話が延々と続いた。文壇バーは、すっかり便壇バーと化していた。貸切状態の店内で、6人組は誰にも気兼ねせず、実に楽しそうな笑顔で会話を続ける。途中で帰ってしまった常連客は、また来てくれるだろうか。よぎるのはそんな心配ばかりだ。この間の夜とは、違う意味での涙がこみ上げてきそうだった。
 

<先週の売り上げ>
10月29日(月)5,200円
10月30日(火)6,800円
10月31日(水)2,600円
11月1日(木)12,800円
11月2日(金)20,600円
11月3日(土)31,400円

合計79,400円

-ヒビレポ2012年11月16日-

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