昭和歌謡宅急便 第8回

喜怒哀楽と酒

 

田中稲(第8号で「K文学館の散歩者」執筆)

 

さて、いきなりですがみなさん、酒に酔うとどうなりますか。
私は壊れたオモチャのように喋ります……。

「強い」とは言えないが、私はとりあえず「お酒が好き」の部類に入る。特に仕事の後の生ビール。グビグビと喉を通るあのジュワッとした感触。ぷっはー、たまんないですよね。
とはいえ、小さい頃は、まさかこんなに酒飲みになるなど予想もしていなかった。いや、「絶対酒飲みにはなるまい」と心に決めていたのに!

それはなぜかというと、父がトホホなほど「酒に飲まれる」タイプだったからだ。
オシャレでダンディー、カラオケの十八番が石原裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」(1967年)だったことから「北新地の裕次郎」と異名を取りモテモテだったらしい(あくまで本人談)。


が、その素行は裕次郎というよりも勝新。田中家は彼の酒乱に日々ヒヤヒヤし通しであった。
飲まなきゃ仕事はバリバリこなすし、家庭では姉にも私にもベタベタに優しい「満点パパ」なのだが、いったんアルコールが入ると豹変。家では泣き上戸に、外ではケンカ上戸になるという超面倒臭い酒グセが全開になるのだった。

まず、帰りが深夜になると流血注意報である。居酒屋やバーでチンピラっぽい人をわざわざ吟味してケンカを売り、殴り合いへと持ち込むのが、彼にとってなによりの「酒の肴」なのだ。
「ただいまー」
と上機嫌に帰ってきたので家族全員ホッとして出迎えたら、穏やかな笑顔とは裏腹に、背広が相手の返り血で真っ赤、という事も2度ほどあった。ところが、警察沙汰になったことは一度もない不思議。本人いわく

「警察に届けるのがヤバそうないかにも悪そうなヤツを狙ってケンカを売るねん」

のだそうだ。げげげ。よく命が無事だったものである。

家で晩酌する時はさすがにこんなドS人格は出現しないが、もう一つの「かまってちゃんモード」が発動する。

「俺はさびしいんや。お前らもっと俺の相手してくれー。よよよよ!」

などと号泣し始めるのである。

ひー。面倒臭いっ!
急いで「はいはいはい、オトンの話、ちゃんと聞きまっせ」と見ていたテレビを消し、父の目を見てジックリ話を聞くポーズを取る母&娘。それでやっとご機嫌を直す父の笑顔は、甘えん坊のコドモのそれであった。

父は糖尿病を患っても酒を一滴たりともやめず、大好きなステーキとレディーボーデンを食べ続け、出張帰りの新幹線の中で倒れ、慌てて病院に駆け付けた私にこれまた少年の微笑みを浮かべ
「仕事、バッチリやったでー」
と弱々しく親指を立ててポーズを決め、その後意識が無くなり10日後に死んだ。

うーむ。なんと豪快な生き様。好きなだけ食って飲んで、働いて暴れて。きっと後悔はなかったはず。私はこんな父が大好きであった。

が。父は好きでも、酒乱にはコリゴリである。
私もあの血を受け継いでいるのだから、酒を飲むとどうなるのか。恐ろしや……。
成人になり、様々な飲み会やイベントでジョッキを煽る生活になった私だが、バイオレンスな血は受け継がなかったようで、いまのところケンカ事件は無い。ほっ。

さてさて、昭和歌謡でも、酒は常連。重要なキーワードだ。

昭和歌謡や演歌の主人公が酒を飲むのは主に「悲しい時・どうにもならない気持ちの時」である。罪悪感を背負いつつつ、喜怒哀楽の「怒哀」を忘れるため酒瓶を傾ける男女……。昭和歌謡の設定の定番中の定番といえよう。

しかし、だ。こういった気持ちを誤魔化すために飲むとロクな酔い方をしない! 次の日最悪の二日酔いが襲い「気分悪い頭イタイ」などとカスレ声で助けを求める結果になるのは目に見えている。

実際父もそうだった。暴れ方がひどかった翌日ほど、顔を蒼白に歪め
「ミ、ミルクちょうだい……」
とクララの家でホームシックにかかった後のアルプスのハイジかアンタは! というくらいの情けなさで母や私に懇願したものである。

どうせ飲むなら「喜」もしくは「楽」で飲みたい。それでこそアルコールはハッピーに回るというものだ。

「喜」をあらわす酒の昭和歌謡といえば、ふと思いつくのが長渕剛の「乾杯」(1980年)である。

私はこの「乾杯」に強烈な思い出がある。友人の結婚式、彼女の勤め先である旅行会社の上司というインド人の方が、非常につたない日本語で
「カノジョ、ノ、シアワセヲゥ、イノッテ、ウタイマース」
とエッチラオッチラと祝辞を済ませ、「乾杯」の前奏が流れた。

すると、彼はそれまでのトホホな日本語が嘘のように

「♪かたっい絆にぃ〜思い〜を寄せて〜えぇ〜」

ビックリするほど流暢に、しかもところどころ長渕のモノマネも挟んで朗々と歌いこなしたのである。どひー! 呆気にとられる会場。会話と歌は別なのね……。私は感動すら覚えた。

さて、ラストに「楽」。楽しい酒といえば、ビール好きの私が一番テンションが上がるのが「すごい男の唄」(三好鉄生/1987年)!


「ビールを回せ、底まで飲もう! (中略)ハァ〜♪ あ、ドンドン!!」

いいね。ノリがいいよね!! サントリービールのCMだけあって、思わずジョッキを高く掲げたくなるような臨場感が最高っ。

誰だってゴキゲンで飲む酒が美味しいのは分かっている。暗い酒は悪酔いの元。
でも、分かっちゃいても、どうしても酒の力を借りて憂さを晴らしたいときもあるものだ。
最近になって私もやっとそれが分かってきた。

もうちょっと早く分かっていれば、父の酒乱を笑って許す事ができたのかな?
「わかった。今日は一緒に飲もう! 愚痴もトコトン聞くで〜」くらいは言えたかも。

あれあれ、書いているうちに父を思い出した。寂しくなってきた。
この気分を紛らわすには……、やっぱりビールかな。とほほ。

 

-ヒビレポ 2012年11月21日号-

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