いきもの事件史 第8回

たべたらしぬで

 

日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)

 

「毒キノコ『カエンタケ』に注意 見附の旅館で2人中毒/新潟

県福祉本部に五日入った連絡によると、見附市の旅館で三日、ロビーに置いてあった毒キノコ『カエンタケ』を食べた中之島町の男性二人(ともに五十八歳)がおう吐や手足のしびれなどを訴え、見附市の成人病センター病院で治療を受けた。一人は快方に向かっているが、もう一人は状態が悪化して四日に同病院に入院、一時は心肺機能が停止する重症に陥った。長岡中央総合病院に転院し、引き続き治療を受けている。

県によると、二人は食事をするために旅館に行き、午後二時半ごろロビーに置いてあった『カエンタケ』三本のうち一本づつを酒に浸して食べたらしい。約三十分後に手足のしびれなどの症状を訴えた。『カエンタケ』は旅館の従業員が九月下旬に裏山から取ってきたもので、従業員は捨てた、と話しているという。だれがロビーに置いたかはわかっていない。また、残りの一本の行方がわからないため、県は「持ち帰った人がいたら食べないように」と呼びかけている。

『カエンタケ』は所収に全国の山林などに見られるが、数は少なく珍しい種類という。火炎のような形状で赤色から橙色にみえる。食べると下痢、おう吐、手足のしびれなどの症状が出て、運動障害や言語障害につながる。心肺機能に影響が出て重症になる場合もあり、後遺症が残るという」(1999年10月6日 朝日新聞朝刊新潟版)

地方版の記事だが、これがテレビの全国ネットで報じられるや、日本中のきのこクラスタは色めき立った。
毒キノコによる中毒というのは決して珍しくはない。この事件もそうだが、多くはローカルニュースとして片づけられてしまうから気づかないだけで、まじめに調べると毎年相当数の患者が出ている。ほとんどは秋だ。
みんな毒キノコの存在はもちろん知っている。が、あらゆるアクシデント同様、自分がそれに当たるとは夢にも思わないらしい。食べられそうなキノコを見ると、種類がわからなくてもけっこう平気でぽいぽい摘んでカゴに放り込んでしまう。

やめてください。キノコ中毒、本当に怖いです。
上記の事件では結局重症の男性が亡くなり、遺族が旅館側の管理責任を訴えて裁判沙汰になっている。

きのこクラスタが色めき立ったのは、本件がツキヨタケだのクサウラベニタケだのの「よくある」毒キノコ中毒ではなかったからだ。
カエンタケ自体は古くから知られているキノコではあったが、具体的な中毒例があまり知られていなかった。1800年代初頭の『本草図譜』には「大毒ありといへり」の記述があるからどうもダメらしいとかそんな程度で、図鑑によっては「不食」とか「食毒不明」で済ましていたものもある。それが突然脚光を浴びてしまったのだから皆おたおたしちゃったのだ。
本件をきっかけに研究が進み、現在では手に取っただけでも皮膚炎を起こす可能性があり、成人致死量はわずか3gという強烈な猛毒菌であることが明らかになっている。翌2000年にも群馬で同菌による中毒事件が発生、55歳の男性ひとりが亡くなった。
昨秋2011年には愛知〜岐阜方面でまれにみる大規模な発生が報告され、改めてその危険性がさかんに喧伝されたのは記憶に新しい。

しかしこの事件について私たちがいちばんビックリしたのは、実にカエンタケのヴィジュアルであった。
Wikipediaの図版を借用。

ねえ、なんでこれ食べようと思うん?
あきらかに食べものとちがいますよね、これ。

人間の食欲っていうか好奇心はつくづくすごいな、と思いますよ。
おかげでナマコとかホヤとか食材になってるわけですけどね。いやはや。

 

-ヒビレポ 2012年11月24日号-

Share on Facebook