月に吠える的日記@新宿ゴールデン街 第9回

エイリアン

 

コエヌマカズユキ(第4号で「デスマッチ・ブルース」執筆)

 俺は虚言壁の持ち主ではないっすから。20代半ばに見える青年はそう前置きした後、唐突に言った。
「俺、エイリアンと交信できるんですよ」
「えっ?」
 僕は思わず聞き返した。初めて来店したお客さんだった。妻夫木聡のような風貌の青年は、注文したビールに手を付けず、マジメな顔で同じセリフを繰り返した。
「昨日も明け方まで交信して、世界が助かる方法を教えてもらっていたんです。マヤ族の予言って知ってます? 2012年で人類は滅亡するっていう予言なんですけど、あれ、本当なんですよ。2012年でこれまでの人類の歴史は終わって、新たな世界がスタートする。それに向けて、俺たちは準備をしないといけないんです」
 店内にはほかに2人の女性客がおり、習い事の会話で盛り上がっていたが、ピタリと止んで、僕と青年の話に耳を傾けている。
「何ですか、エイリアンって。宇宙人のこと?」
 そう質問した女性の方を青年が向く。
「はい。宇宙人は人間とは次元が違う高等な生き物で、世界を操っているのも彼らです。知ってます? 今、世界の首脳のほとんどは、エイリアンの指示を受けて政策を決定しているんです」
「交信って、どうやってするんですか?」
「交信ポイント、っていうのがあちこちにあるんです。そこに立って念じれば、自然と彼らの声が伝わってきます」
 冗談のつもりで僕が口を挟む。
「携帯のモバイルポイントみたいなのがあるんですね」
「あははは!」
 女性たちは笑い声を上げたが、青年は笑み一つ浮かべない。ブチ切れられるかと一瞬不安になった。女性二人は、異様な空気を察したのか、再び習い事の話を始めた。
「バカじゃないのこいつ、って思いますか?」
 青年は僕に向き直った。返答に詰まって、僕は一瞬固まる。
「いいんですよ、人は自分の身に起こったことしか信じない生き物ですから。でも、それじゃダメなんです。マヤ族の予言に備えて、人類は準備をしないといけないんです。本当に大変なことになりますから。信じる者は救われる、ってあるじゃないですか。俺、宗教のことは分かりませんが、エイリアンの言うことを信じて行動に移さないと、人類の未来はマジでないんですよ!」
 その口調が熱を帯び、顔つきも険しくなっていく。
「……そのマヤ族の予言では、人類はどうなるんですか?」
「それはごめんなさい。人類を怖がらせて、不安にさせてしまいますから。そのときが来たら自然と分かります。とにかく、私たちは『争うこと』『信じること』『所有すること』の3つを辞めることで、滅亡から身を守れるんです。だからマスター、出版社紹介してください」
 突然の申し出に、僕は戸惑う。
「はい?」
「エイリアンに言われたんです。私たちの予言を本にして、世界中の人に伝えてほしいって。インターネットじゃダメなんです。エイリアンは、ネットは信用していないと言っていました。お金が目的なんかじゃない。俺は人類のために、予言を本にして世に出したいんです」
 一瞬、レポ本誌に投稿することを勧めようとしたが、さすがに止めた。
「ゴールデン街には出版社や新聞社の人がたくさんいるので、出会うチャンスもあると思いますよ」
「どこにいますか? どこのお店に行けば会えますか?」
 うまくかわしたつもりだったが、青年は追及の手を緩めない。
「さぁ。僕もまだここにお店を出したばっかりなので、あまり知らないです……」
「分かりました、自分で探してみます。幾らですか?」
 青年は飲み代を置いて立ち上がると、急ぎ足で外に出て行った。呆気に取られたようにその後ろ姿を眺めていた女性が、僕の方を向いて苦笑しながら言った。
「マスター止めてよ、モバイルポイントとか言うの! 笑っちゃったじゃない!」

※マスターは本当に数字計算が嫌いなため、先週の売り上げは終了しました

-ヒビレポ 2012年11月30日号-

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