今朝はボニー・バック 第11回

実録・交代劇〜ポロリ篇〜

 

ボニー・アイドル(第9号で「人生とはトイレからの距離である、のか?」執筆)

 

1993年7月からフジテレビ系列で放送されたドラマ「悪魔のKISS」。常盤貴子のオッパイぽろりシーンであまりにも有名なこのドラマ。常盤サイドの申し立てのためか、今では再放送もソフト化も不可能な封印された作品になってしまっている。
問題のシーンに関していえば、今ではウィルスに冒される覚悟さえあればネットで比較的簡単に視聴できるようになったが、ぼくはこのドラマをリアルタイム放送時に全12話ビデオに録画していたのだ!しかし、中学2年の時、野球部の先パイに求められるがまま貸してしまってからそのビデオの行方はようとして知れない。

母さん、ぼくのあのビデオ、どうしたでしょうね。あれは好きなビデオでしたよ。
♪Mama,Do you remember the old video tape you gave to me…

さて。この「悪魔のKISS」で常盤貴子が演じたカードローン地獄に陥ってしまう「茉莉子」という役だが、当初キャスティングされていたのは、松雪泰子だったのである。松雪が出演を拒否したために常盤に白羽の矢が立ったという。

映画・ドラマ制作では出演者の降板・交代劇というのは割と頻繁に起きている。松雪のように、企画段階で第一候補に挙がっていた役者が何らかの事情で出演できなかった場合も一種の交代劇と考えてもいいだろう。「役柄が嫌だ」、「スケジュールの都合がつかない」、「ギャラが合わない」、「このオレが無名の監督の作品なんかに出れっか」など、その理由はさまざまだ。今回は伝説の交代劇をいくつか紹介したい。

日本映画史の中で最も有名な交代劇といえば、「影武者」の勝新太郎降板事件だろう。勝新が撮影スタジオに自分の演技チェック用のビデオカメラを持ち込んだことがそもそもの原因と言われている。この行為が「完全主義者」であり、撮影現場で「天皇」として振る舞っていた黒澤の癇に障ったのだ。言い争いの後、勝新は無断でスタジオを飛び出し、二度と現場に戻ってくることはなかった。

「影武者」は、勝新の代役に仲代達矢を起用することで撮影を続行、完成に到るが、もともと勝新ありきで進められていた企画なだけに、その出来はイマイチ。今なお「もしも影武者を勝新が演じていたら」とドラえもんの「もしもボックス」の開発を夢見る映画ファンは多い。

ちなみに、「影武者」は、当初は勝新のお兄ちゃん、若山富三郎が信玄の弟・武信廉役(つまり兄弟出演)を演じるという案もあったという。しかしお兄ちゃんは――。
「勝は自分のことを天才だと思っている。黒澤は自分のことを天皇だと思ってる。天才と天皇が出会ったら、火花が散るに決まってる。その時に、兄としてオレがいたら、まあまあ、まあまあって、よけいな神経遣わなきゃいけないだろ。オレ、胃が痛くなっちゃうから、話はうれしいけど、この作品には出たくないな」(山城新伍「おこりんぼ さびしんぼ」より抜粋)

たしかに、カメラが入らない薬棚の中にも江戸時代当時の薬のビンを入れていたほど(「赤ひげ」より)の完璧主義者・黒澤明。方や、入れた覚えのないコカインがパンツの中に入っていた男・勝新太郎。その決裂は当然というべきか。さすがはお兄ちゃん、よくわかっている。

勝新は降板後、中村玉緒に「なぜ黒澤監督に謝らないの」と訊かれ、「俺は別に謝ってもいいンだが、武田信玄なら謝らねエだろ」と返答したといわれている。役者馬鹿の勝新らしいエピソードだ。

「影武者」完成後、黒澤は次回作「乱」の製作を進める。もともとは「乱」の企画の方が先だったが、資金等の問題で「影武者」の方を先に撮らざるを得なかったと伝えられている。ビートルズの「アビー・ロード」と「レット・イット・ビー」みたいなもんだ。

この「乱」にも、役者の交代劇があった。井川比佐志が演じた、物語の鍵を握る人物、鉄修理役には当初、高倉健がオファーされていたのだ。しかし、健さんは同時期に製作が進められていた降旗康男監督作「居酒屋兆治」を優先する。
「黒澤監督は僕の家に4回来て、『降旗君のところへ謝りに行く(から出演してほしい)』とまで言ってくれた。『二つをてんびんに掛けたら、誰が考えても世界の黒澤作品を選ぶのが当然でしょうが、僕にはできません』と謝った」(高倉健インタビューより)
健さんらしい不器用なエピソードである。

「影武者」「乱」の役者交代劇は黒澤監督側、役者側の痛み分けに終わってしまった印象が強い。しかし、本来交代劇とは無名の役者にとっては一躍スターダムにのし上がれるチャンスでもあるのだ。
その成功例としてもっとも有名なのが「拓ボン」こと川谷拓三だろう。
「仁義なき戦い 代理戦争」で、菅原文太率いる広能組のチンピラ・西条役に当初予定されていたのは荒木一郎。しかし、荒木は「広島ロケは怖い」と出演を辞退してしまう。そこで抜擢されたのが、文太をはじめとする役者陣から評価の高かった拓ボンというわけだ。無断で組のスクラップを売って女にテレビを買ってやり、そのケジメとして左手を詰め、渡瀬恒彦に女を寝取られる。最後は敵対する組にチンコロして逃亡。シリーズの核ともいえる役柄を熱演し、拓ボンは初めて映画のポスターに自分の名前を載せることに成功する。

ちなみに、この拓ボンと荒木一郎には不思議な因縁がある。「代理戦争」の公開から3年後、ドラマ「必殺からくり人」の主題歌として拓ボンが歌った「負犬の唄(ブルース)」。この作詞を手がけたのが荒木一郎なのである。

他にも、映画「鬼龍院花子の生涯」で夏目雅子が演じた役(オッパイぼろりあり〼)は、最初は大竹しのぶがキャスティングされていたとか、映画・ドラマじゃないけど、「KING OF RADIO」こと伊集院光が世に出たきっかけが三宅裕司の病欠代役だったとか、「ビートたけしのオールナイトニッポン」で爆笑問題がたけしの代役を務めてその後3年干されたとか、交代劇に関する伝説は枚挙に暇がない。

今回は映画通、わりとメジャーどころの降板・交代劇を紹介させていただいたが、もしできることなら将来、一冊の本としてまとめたいところだ。別にぼくじゃなくても、誰かが書いたものでも読みたい。映画・ドラマとは妄想の産物。「もしあの役者が演じていたら」という妄想は、裏返しても着れるMA-1のようなものだ(裏を着てる人見たことないけど)。それだけで一本の作品として脳内再生できるのである。

最後に、7月20日にぼくのTwitterにある人から来たリプライを掲載して締めさせていただく。

@ ANNEinfity:RT そう!それを断ったアタリが私の重大な岐路だったかも? @bonnieidol: @ANNEinfity 「万華鏡の女 女優ひし美ゆり子」読みました!新藤監督の「讃歌」の春琴役に最初キャスティングされてたの、ひし美さんだったんですね。

-ヒビレポ 2012年12月11日号-

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