昭和歌謡宅急便 第11回

「紅白歌合戦」考

 

田中稲(第10号で「ラジオいきなり出演騒動記」執筆)

 

さて、いきなりですがみなさん、毎年紅白歌合戦を見てますか?
私は見ています。遊びに来た甥っ子姪っ子が引くほど真剣に……!

まず、私の紅白は「部屋のセッティング」から始まる。
コタツの布団にフンワリと空気を入れ整え、長丁場、同じ姿勢を耐え抜けるよう、クッションとドーナツ型座布団を配置(私は大痔主である)。
コタツの上には山盛りミカンとビール数缶を真ん中に、それをぐるりと取り囲むようにさきイカやビーフジャーキーなどのつまみ、お茶を配置。長時間の歌の祭典を寸分でも見逃さぬよう、飲食料の確保を徹底する。

そして、メモとペンを握り、放送の時間をひたすら待つ。
さあ来い、日本の歌謡界を彩った新旧のツワモノ達よ。その偉業、私がこの目で確認し、しっかりと後世に記し残してやるわーーーッ!! この時点でサキイカが飛んでいきそうな鼻息フンフン状態の私である。

私はその後、トイレ以外は席を立たず紅白を見続け、全歌手の歌いっぷりはもちろん、衣装やバックダンサー、装置に至るまでチェック。そしてそれを文章にまとめて友人知人に年賀状代わりに送っている。
問題なのは仕事並みにデザイン、文章に凝るので、発送までに時間がかかり過ぎるという点だ。
ヒドイ時など2月末に「年賀」と書かれた分厚い封書を送りつけるハメになり、友人から

「アンタの紅白レポ、面白いけど年賀の意味あらへんがな。もう節分も終わったで」

と戸惑いのメールをいただく年もあった。でも、それでもいいのだ。紅白の愛が伝われば!

「なぜ紅白をそこまで愛するのか」
頻繁に投げかけられるこの問いに、私は常にこう答えている。
紅白歌合戦は「今年活躍した歌手を讃える」以外に、もう一つ「後世に語り継ぐべき昭和の超名曲を、年に一度ダメ出しの如く紹介し、人々の記憶にインプットする」という、国をあげての偉大かつ重要なミッションだからだ!

ただ、最近の紅白を見て残念な傾向がある。

1・紅白の前半に歌いその後すぐに己のカウントダウンコンサートに移動する若手歌手の増加
2・不況や自然体志向による衣装の地味化
3・見た事もないボーヤ達がなぜか出演歌手としてエントリー

この3点だ。

1に関しては、特に浜崎あゆみ嬢。個人名を出して責めるのはいささか胸が痛むのだが、一番手で登場し
「とりあえず出演したんで」
とばかりにサッサと姿を消してしまう彼女のここ数年の姿勢は憂うべきものがある。あれはいかがなものか! 出番以外でも衣装をチェンジし、隙さえあればフレームインを狙い続け、ラスト、晴れ晴れと平尾昌晃指揮のもと蛍の光を歌って帰る。これが紅白歌手の在るべき姿だと私は思う。

さらにいえば、紅白の演出の醍醐味の一つに「若手とベテランによる応援共演」がある。浜崎あゆみ嬢もできれば伍代夏子あたりのバックで日本舞踊を踊り盛り上げるくらいのサービス精神を見せてほしい。これを率先して行うAKB48やTOKIOは本当に偉い。

2に関しては、「紅白は派手衣装」という定番を崩したのは、私の記憶が正しければ白シャツジーンズで登場した、GAO(歌唱曲:「サヨナラ」(1992年)だったのではなかっただろうか(間違ってたら申し訳ない!)。紅白は夢の世界。思いっきりキンキラキンにしてもらわないと!

ここ数年で一番衝撃だったのは、アンジェラ・アキがナンバーTシャツで出場した時だ。私は眩暈を覚えた。
紅白にTシャツだとぅ??? 普段着の最たるものではないか! ヘタすりゃそのままコンビニへ行きそうな。
同じナンバーTシャツでも電球を仕込むとか、ピアノごと中吊りになってピーターパンの如く空を飛びながら歌うとかだったら許せるが、歌い方も普通!
「私はあくまでも歌手。歌を聞かせるの」
という意気込みは分からなくもないが……。私は涙目でテレビ画面に向かってアンジェラに紅白という舞台についての心得を説教したが彼女には届かなかった(当然だが)。

3に関しては、たまーに「えーと、誰?」と首をひねってしまうような、明らかに活躍以前なお子ちゃま達が登場する点である。「将来有望枠」として温かく見守ればいいのかもしれないが、事務所大プッシュの期待の新人とはいえ、小学生にブラックカードを持たせるようなもの。やはりここは成果を出してから出場、という正規のパターンを踏む方が歌手にとっても幸せなのだ。

こういった若手のJPOP歌手にぜひ今後参考にしていただきたいのが、ベテランたちの紅白の力の入れようだ。

水森かおりを見よ。ご当地ソングの女王と言われている彼女だが、ここ数年、なぜかアレグリア的なアクロバット・チームをバックに従えるという不思議な演出を続けている。しっとりとした演歌の後ろでクルクルと輪っかにぶら下がり回る軟体動物のような女性。2つの世界観は正直全然マッチしていないが、このカオスこそ紅白。

森進一を見よ。彼の場合、バックダンサーもきらびやかな衣装も無いが、その代りとばかりに毎回何かが取り憑いたような表情を見せてくれる。私の甥っ子が泣いたことがあるくらいの破壊力だ。この「森進一紅白イタコ状態」は小林幸子の舞台装置衣装と同じくらい名物となっている。

都はるみを見よ。何年の紅白だったかは覚えがないが、「好きになった人」(1968年)をバンドを従えてロック調に歌うという大冒険をしてくれたことがある。しかもなぜか「後ろ小走り」で舞台狭しと右往左往し、マイケルジャクソン顔負けのグルーブを見せてくれた。
「演歌歌手は昔ヒットした曲で何度も出場するのっておかしくない?」と指摘する人がいるが、こういった仰天演出が繰り出される事が多々あるので見逃せない。

いろんな意味で今年は小林幸子が落選したのが非常に惜しまれる。えーやん、ヒット曲が無くても! 事務所問題で揉めても! 今まで彼女が紅白に費やした衣装(舞台装置)代を考えると、涙が止まらない。
しかも改めて出場歌手を見てみると、「日本の幸せ」川中美幸様の名前も無いではないか。

私はその昔、某演歌雑誌に短い期間ではあったが、編集として勤めていた時期がある。
有名・無名にかかわらず結構な数の歌手の方を取材させていただいた。
その中で「実るほど頭が垂れる稲穂かな」をまさに体現されているような低姿勢と笑顔を貫いていたのが、まさにこのお二人。小林幸子さんと川中美幸さんだったのだ。

この2人の姿が紅白にないなんて―(泣)。来年は復活を願う!!

せめて今年も紅白が終わった後、そっと一人、「おもいで酒」(1979年)「ちょうちんの花」(1990年)を聞こう。今年の年末は、きっと今まで以上に酒が沁みるぜ……。

-ヒビレポ 2012年12月12日号-

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