MAKE A NOISE! 第2回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!

 

ベイカーさんに気をつけて

 

山口ゆかり

 

『Beware of Mr. Baker』
元クリームのドラマー、ジンジャー・ベイカーのドキュメンタリー。

間に合って良かった!
この映画、ご本人が存命中に作れて、ほんとに良かった。
おかげで躊躇なく言えます。ベイカーさんは非道い人です。故人を悪し様に言うことになっては、寝覚めが悪いもの。

ってことより、この映画で一番面白いのは、腐っても鯛、老いてもベイカーな今現在のご本人。
生身の、どうしようもないご当人がいてこそのドキュメンタリーになってます。

ロックドラムのスタイルを作ったとも言われるベイカーは、ジャンキーロッカーのはしりでもある。映画は、バンドも家庭も次々壊したベイカーの人生行路を追います。
現在73歳。ミック・ジャガーの4つ上ですね。ちなみに、若き日いっしょに演奏したジャガーを、ベイカーは「ナヨナヨした小僧が来やがった。大嫌いだった」そうです。

ジェイ・バルガー監督は、これが初監督作。と言うのも、ベイカーを知り、映画を撮りたいと思ったことで監督になった人だから。
70年代のベイカーのドキュメンタリーを見て、ローリング・ストーン誌の記者と身分を偽り、アメリカから、はるばる南アフリカのベイカーに会いに。えっ?だました?
でも、そこで聞けたベイカーのライフストーリーは、無事ローリング・ストーン誌掲載の運びとなって結果オーライ。
それだけでは飽き足らず、映画を撮るにいたる。ベイカー面白い!がこの人を監督にしちゃったわけです。卵が先か、鶏が先かみたいな話になりますが、それほどインパクトがあったベイカーを撮った映画、面白くないわけがない。
 

ジェイ・バルガー監督 2012年ロンドン映画祭(撮影:著者)

 

ローリング・ストーン誌の記事も、文章で伝わる範囲においては十分面白い。そこからわかるジェットコースターのような人生の骨格だけでもたまげる。けど、今でも十指に数えられるドラマーなのは、音と映像があれば一発でわかる。映画にしたことで、血肉を与えられた最大の部分はそこ。

26人の妻がいたナイジェリアのカリスマミュージシャン、今は亡きフェラ・クティも出てきます。クティが歌い、トランス状態のダンサーが踊る熱狂に、すんなり馴染んでしまうベイカー。
バルガー監督がベイカーに興味を持つきっかけとなった映像が、このあたり。いろいろな意味で天然なベイカーが見られる映像です。

コメントしてる方々だけでも、ちょっとしたロック史。
元バンド仲間だったエリック・クラプトン、ジョン・ライドンや、チャーリー・ワッツ、スチュワート・コーポランド、チャド・スミス…と60年代から現代までのドラマーも続々。
元妻たちや子らのコメントも、家庭人として当然ダメなベイカーを伝えつつ、愛情も伝わってきます。結果的に、報われなかった愛なのが悲しいですが。

このコメントを撮りに行くと告げたバルガー監督に、ベイカーぶち切れ、が栄えある巻頭シーンになってます。
「やつらに聞くことなんか無い!俺の映画にやつらは出さない!」「病院送りにしてやる!」
眼鏡の奥の目を剥き、歩行補助用の杖をも凶器に変えて振り上げる白髪のお姿にシビレます。
杖を受け、流血の憂き目にあったバルガー監督ですが、強烈なオープニングとタイトルまで得られて、ここでも結果オーライ。

その振幅の大きな人生は無茶苦茶すぎて、かえって痛快にさえ感じる映画ですが、見た後には、いちまつの悲哀をともなって記憶に残ります。バンドや家庭も壊したけど、一番被害を受けたのはベイカー自身だったような…

この映画はSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト映画祭)でドキュメンタリー賞を獲得してます。
SXSWと言えば、前年、地団駄踏む思いをしたのが、やはりSXSW受賞作…次回はそちらでいきます。

公式サイト http://bewareofmrbaker.com

 

-ヒビレポ 2013年1月9日号-

Share on Facebook