MAKE A NOISE! 第3回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!

 

青田買い

 

山口ゆかり
 

全く予備知識無しに映画を見られたらいいのに、なかなかそうもいきません。
たいていは見る時点で、かなりの情報が出回っている。加えて、チケット代なりDVD代なりお金を払って見る時は、レビュー読んだり、むしろ自分から積極的に予備知識を得てしまう。損したくないもん。でも、外さない分、驚きは減る。

映画取材でうれしいのが、そこ。
予備知識無しで面白いのにあたると、自分がその面白さの第一発見者! まあ実際には違うわけですが、気分はそんなで大変うれしい。今回の『Natural Selection』は大喜びだった映画です。

ロンドン映画祭のプレス試写、日時と場所にタイトルという試写スケジュール表の情報だけで会場へ。ナチュラル・セレクションって自然淘汰? チャールズ・ダーウィン? 何を見せられるかもわかってない理想的な状態。

これが上出来のコメディドラマでした!
生死の境をさまよう夫に精子提供での息子がいることを発見した妻リンダが、息子を探して連れ帰るロードムービー仕立て。
探し当てた息子らしきチンピラ青年レイモンドと、道中、リンダがデキてしまう。それも恋に落ちるというようなものじゃなく、ひょんなことからお互いに欲情というドタバタ合体。
リンダの相談相手になっている神父さんというのが、実はリンダに惚れていてピエロ役。聖と俗、きちんとした社会人とあぶれ者というあたりで、笑わせるポイントはもれなく笑わせつつ、よどみなく進む。
笑わせるだけじゃなく、リンダがなぜ良きクリスチャンにして良き妻になっているかがわかる胸に迫る場面もある。年齢から境遇まで大きな開きのあるデコボココンビ、リンダとレイモンドは、お互いが、こうじゃない自分を考えるきっかけともなる。
ほんとに夫の息子なの? この2人はどうなっちゃうの? と見ていくと、必ずしもハッピーエンドではないのに後味の良いエンディングが待ってます。

映像のテンポと音楽がまた心地良く、良い映画見っけ! と試写後に猛然と情報収集。
脚本も書いているロビー・ピッカリング監督はこれが1作目の新人。
けっこう美人なのにダサい真面目妻リンダを演じるレイチェル・ハリス、ほぼ全編で薄汚れた格好だけど磨けば光りそうなレイモンド役のマット・オレイリーとも、見たことあるような無いような…でしたが、調べたら、やはり見てました。脇役として、いろんなのに出てます。メインにきて底力を見せてもらえました。
記事にすべく、取っ掛かりを探していたところ、ロビー・ピッカリング監督フィルムメーカーアフタヌーンティー参加の発表!

フィルムメーカーアフタヌーンティーは、ロンドン映画祭が設けるカジュアルなインタビューの場です。前回のジェイ・バルガー監督もそれです。
アフタヌーンティーというのは、チマチマと小っちゃいサンドイッチに、これもチマチマしたスコーンなど菓子類が紅茶とセットになってるしゃらくさいイギリス名物です。
通常は3段重ねのお皿とティーポットでしゃらくさ度を増してサーブされますが、フィルムメーカーアフタヌーンティーでは好きなものを各自取る方式。
カフェ貸切で、監督たちが各テーブルに陣取り、お目当ての監督のところに取材者が行ってインタビューします。
言ってみればアフタヌーンティーと監督がともにビュッフェとなって迎えてくれる、取材者には有難い場。
 
 
発祥地ウォーバン・アビーのアフタヌーンティー(撮影:筆者)
 
 

なんですが…、結局、話は聞けなかった…
カジュアルな場とは言え、時間をとらせて、それを掲載しないわけにはいかない。事前にあちこちインタビュー記事掲載をもちかけたのが全敗!
この映画も、もちろん私が第一発見者ということもなく、既に受賞暦いっぱいでした。
作品賞、脚本賞、音楽賞、編集賞、ハリスとオレイリーそれぞれ演技賞に観客賞と7つの賞獲得のサウス・バイ・サウスウェスト映画祭はじめ、あちこちで受賞、ノミネートされていることも、もちろんプッシュしましたとも。でも、記事掲載にうんと言ってくれるとこがなかった…

この映画に限らず、名前を言ってもピンと来る人も少ないような新人監督と俳優陣の作品は掲載場所探しにいつも大苦戦します。
実りを迎える前に、見込みありそうな田を買っておくという青田買いという言葉がありましたね。昔、就職戦線で、悪い意味で使われてましたが、雑誌は、もっと青田買いしたほうが良いと思います。
見込みありそうな新人を紹介しないで、何のための映画誌さ!

ちなみに、ピッカリング監督は『Natural Selection』の後、クロエ・グレース・モレッツやジェシカ・ビールが出演する『The Devil and the Deep Blue Sea』という映画に、脚本家として参加していました。
2作目にして、メインストリームど真ん中に大抜擢です。

さりげなく私の目に狂いはなかったことをひけらかし、やさぐれかけた気持ちを立て直したところで、次回は、ドカーンときた1作目に、なかなかやるなの2作目を経て、ブラボーな3作目がようやく日本でも公開されそうな、今最もワクワクさせる若者です。
 
 

公式サイト http://www.naturalselectionthemovie.com
 
 
-ヒビレポ 2013年1月16日号-

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