ぜんざのはなし 第3回

一門会のしごと

 
 
島田十万(第9号で「『仕事辞めます』高野勝」を執筆)
 
 
 この寒いのに、なぜ暖房がないのかはともかく、たしかに部屋が温いと外にでるのが億劫にはなりますね。それじゃ稽古にさわるかもしれません。

「暑くても寒くてもアパートではやる気にならないですね。となり近所に迷惑ということもあるけれど、自分の部屋では気が散って集中できないんです」

 公園ならば気兼ねがないし何時間でもこうやって一人で稽古していて苦にならない、辛いということもないらしい。このごろは顔なじみになったお婆さんとかに声をかけられたりすることもあるけれども、のんびりやるしかないと思うようになったとか。

 ドロボウとかフンドシとか、さっきから笑二さんが連呼していたのはトンマなドロボウと八五郎、大家さんの間抜けなやりとりがでてくる「出来心」という噺をさらって(復習して)いたわけです。

 

「古典落語というのは決まった噺なんだろう。なにが面白いの?」と言った落語経験のない友人がいました。確かにストーリーの大筋はかわらないのですが、演じる人によってぜんぜん違うんですね。
 
 巧拙だけではなく、ギャグの入れかたとか登場人物の性格とかに演じる人の個性がでるし、おなじ人が演っても細かなところを微妙に変えたりするところがおもしろい。

「なにもない日は11時ごろ起きて、日中はずっと稽古をしていることが多いですね。腹がへったらコンビニでおにぎり買って。きのうは上野広小路亭で一門会の昼席があったんで7時に起きてコインシャワーに行ってから、公園で一席さらって出かけました」

 一門会などのばあいは開場する1時間前に楽屋入りするのが原則。きのうは昼席なので10時半に楽屋入りして、立川がじらさん立川寸志さんと笑二さんの前座3人で準備をしました。客に配る落語会のチラシを束にしたり高座(*1)、マイクのチェック、受付の用意などやることは少なくないとのこと。

 そして、開場にあわせて一番太鼓をたたきます。「ドンドンドントコイ(金持ってどんとこい!)」と聞こえるように叩くのだとか。ちなみに開演まえに叩くのは二番太鼓。ツテツクテンテンと聞こえるあれです。(たくさんいらっしゃい!と聞こえるように叩く)
 太鼓は前座の大切なしごとの一つ。笑二さんは不得意だと言っておりましたが。

 会をスムーズに進行させるのが前座の役目。一番古株が立て前座と呼ばれて、その日の責任者となります。本日はがじらさんが担当。

 昼席は開口一番(*2)が2席あり、笑二さんは「道具や」という前座噺(*3)をやりました。そのあとで楽屋内の手伝い。

「師匠方は、五月雨式にくる感じです。基本的には、自分の前の人が上がる前までに来ます。まずお茶をだして根多帳(*4)をみてもらって、着替えを手伝います。高座が終われば高座返し(*5)をします。お使いをたのまれることもあるので一人はかならず正座して待機しているんですが、そのときモニターから流れてくるくらいで、師匠がたの噺をがっつり聴くなんて時間も余裕もありません」

 ちなみに一門会の手伝いは、交通費の名目で一日¥2000が支給されるそうです。師匠や兄さんがたと飲んだり食ったりするときにはほとんど出してもらうし、その他のご祝儀などもあって、最低の生活をしているぶんには、今のところあまりお金の心配はないらしい。(なおさら暖房を入れましょうよ~!)アルバイトもしていない。

「ありがたいです。貰えるというのがほんとうに嬉しいですね。なにせ吉本のころは舞台に上がるのに、こっちがお金払ってましたからね」

 えっ!吉本にいたんですか?
 
 
 

(*1)高座――――――落語家が演じる舞台
(*2)開口一番――――最初に高座にたつ。前座の仕事でその日の番組には数えないのがきまり
(*3)前座噺――――――比較的、単純で短い噺が多い。二つ目や真打によって演じられることもある。前座は前座噺いがいを高座に上げてはいけないとされる
(*4)根多帳――――――誰が何を演じたか演目(根多)を書く帳面。その日他の人がどんな話を取り上げたか確認する
(*5)高座返し――――座布団をひっくりかえし、めくり(高座に置かれた演者の名前が書かれた紙)をめくること

 
 
 

-ヒビレポ 2013年1月15日号-

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