ぜんざのはなし 第6回


まくら

 
 
島田十万(第9号で「『仕事辞めます』高野勝」を執筆)
 
 
 

「なれるものなら枝雀師匠になりたいです。桂枝雀(*1)」

 ああだこうだ、3人でいい加減に酔っ払ってくだらない話をしているうちに「週刊誌の仕事がやっと終った」と言いながらいつの間にかやって来たスズキ氏が、「どんな落語家になりたいんですか?」と聞いたときでした。
 スズキ氏は、談笑が面白いよと教えてくれたボクの古い友人で、高円寺在住のため勉強会にはなんども顔を出しています。

 話をするのは始めてでしたが、照れるとか、気後れするとかはあまりなさそうです。笑二さんは落ち着いてゆっくり話し出しました。

 
  
「師匠の談笑は新作とか改作とかやりつくしちゃっているから、あれを超えるものをつくるのは至難の業だと思うんです。自分としては古典をきっちりやりながらも、自分のギャグを入れていければ良いなと思っています」

 上方落語の大御所、桂枝雀の名前は、35歳以上なら知らない人はいないんじゃないでしょうか。東の(古今亭)志ん朝、西の(桂)枝雀とも称された、昭和の名人で人気者のひとりでした。爆笑系で、30年くらい前はテレビで何度も観た記憶があります。

(亡くなって14年が経ちましたが、ネットにある枝雀さんの動画を何本か覗いてみると涙が出るほど笑えました。とくにお勧めは「上燗屋」「代書屋」など)

「伊集院光さんも好きですね。あのお笑いはすごいです。師匠にチラッとお話ししたら、一度テレビ局で紹介していただきました」

 これまでのところ、前座修行はたいへん順調なようです。毎日が楽しくてしかたがないというのだから溌剌としているはずです。
 島袋君は「今度の勉強会には必ず行きますよ」と前に身をのりだすように約束して、ウーロン杯を一気に飲み干しました。

 辛いこととか大変なことはないですか?

 やはり皆、落語家の前座の日常というものに興味があるんですね。生ビールとウーロン杯、梅割りなどおかわりしながら、あっちに行ったりこっちに来たりしながら誰とはなしに、どんどん時間が過ぎていきます。

「肌に合っていたんでしょうかね、辛い苦しいってのはあまりないですね。いろいろ覚えた根多を高座に上げてみたいとは思いますね。二つ目になれば自分の好きな噺を上げられるんですが、まだ前座噺(*2)以外は上げてはいけないことになっているんです」

「うけない」ときとかはどうなんでしょう?
 
「先日、ある新年会に呼ばれたんですが、町内会のお客さん相手に余興として一席勉強させてもらったんです。みなさんお酒飲んでるんでぜんぜん聴いていないんですよ。吉笑兄さんにも早めに終われって言われていたんで『子ほめ』を5分ぐらいやって降りました。あんなのは始めてでしたね。プロ野球の祝勝会で一席やって、誰も聴いていないので血が上って倒れちゃった落語家がいたって聞いたことがありますけど、聴いてもらえないのは辛いですよ」

 いま、なにかやりたいことはありますか?

「まくらやりたいですかね。まくら(*3)も二つ目にならないと振ってはいけないんです」

 
 
 

(*1)桂枝雀(かつらしじゃく)   1939年神戸市生まれ、1999年没。古典落語を踏襲しながらも、超人的努力と空前絶後の天才的センスにより、客を大爆笑させる独特のスタイルを開拓する。(ウィキペディアより抜粋)
 
(*2)前座噺    厳密に決まっているわけではないが、登場人物の少ない、短めで、基礎的な技術を養うのに適当なものを指す。道灌、初天神、寿限無などが代表的。二つ目や真打ちが演じることもある。

(*3)まくら    落語に入りやすくするために、本編の前に話す雑談。演目に関連した話をすることが多い
 
 
 

-ヒビレポ 2013年2月5日号-

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