MAKE A NOISE! 第6回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

アウトな犯罪、笑える犯罪

 

山口ゆかり
 
 
 
 
 

『Black Pond』 
 
各国のインディペンデント映画を集めてロンドンで開催されるレインダンス映画祭で、2011年、最も注目を集めた作品。
日英ハーフのウィル・シャープと、トム・キングズレーによる共同監督作。当時25歳だった2人とも、これが長編監督デビュー。
左から2人目がクリス・ランガム、4人目がウィル・シャープ  映画Black Pondより
 

 
注目を集めたのは、クリス・ランガムの復帰作だったから。
ランガムは、BAFTA(British Academy of Film and Television Arts)での受賞暦もある俳優/コメディアン。それが、児童のわいせつ映像をダウンロードしたことで、2007年に有罪となり3ヵ月半服役。それ以来、初の顔見世。が、『Black Pond』に続く出演作は今のところ無し。

イギリスのエンタメ界では、殺人など重罪を除いては小児性愛を思わせる犯罪が一番復帰が難しいようです。ドラッグがほぼ問題ないのとは対照的。
白い粉を鼻から吸い込む写真が新聞に出たケイト・モス、「こっちにしといて良かったよ。アルコールにしてたら今頃キース・リチャーズみたいになってたかも」と大麻らしきものをくゆらしつつ、テレビで語ったジョージ・マイケルも、干されなかった。

小児性愛関連はそうはいきません。
ランガムは、当時、テレビで演じていたピーピング・トム的キャラクターの資料収集と弁明。裁判で小児性愛者ではないと判断されたけど、いずれにせよダウンロードは違法で、求刑10ヶ月が短縮されて3ヶ月半に。
刑期を終えた後も苦戦しているのは上述の通り。ちょっと気の毒。

イギリスでは、昨年からのジミー・サビルの件が、まだ尾を引いてます。
人気テレビプレゼンターでチャリティ活動でも知られ、ナイトの称号も与えられたサビルは、2011年に死去。2012年に、複数の児童に自分の番組を持っていたBBCの控え室などで性的虐待を加えていたという話が出て、チャリティ先でもそれがあったとか、BBC内部での情報隠蔽があったとか騒ぎが継続中。

近頃では最悪の性犯罪者とも呼ばれるほどなのに、生前ばれなかったのは、テレビ界での力の大きさもあると思われ、並べて考えると、ランガム、可哀想な気がします。小児性愛は疑いを持たれたらアウト。というくらい生理的な嫌悪感を呼ぶのはわからないでもないけど。
そういえば、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』では主人公ケンタのお兄ちゃんが少女誘拐で服役中という設定で、ベルリン映画祭の観客から「もっと普通の犯罪でもよかったのでは?」と質問が出たのを思い出します。
でも、この映画に関しては「嫌な感じにしたかったんです」と答えた大森立嗣監督に賛成。同情も共感も寄せ付けないほどねじくれたお兄ちゃんは、そんなになるほど酷い目にあってきたのであろうことを想像させます。
ともあれ、そんな質問が出るほど嫌われる犯罪ではあります。

長くなっちゃいましたが、ここまでが前置き。
そんなランガムにまつわる嫌な感じも忘れるくらい『Black Pond』は面白かったんです。
犬の散歩中に変なおじさんに出会ったお父さん(ランガム)、そのおじさんを家に招いてしまったことで、手を染める犯罪が新感覚の笑いで描かれます。これからご覧になる方の面白さを減じないよう、どんな犯罪かは伏せますが、一家も犯罪だと気づいていないようだし、見ている方もうっかり見過ごしてしまうような流れが可笑しい。
上手くいってない夫婦という設定で、何をやっても妻をいらつかせる夫を、ランガムはとぼけた味で好演。この映画はイブニング・スタンダードで新人賞を獲得したほか、BAFTAの新人賞にもノミネートされました。集まった注目を、結果につなげられる良い出来だったわけです。

脚本も共同で書いたシャープ監督は、出演もしています。一家の2人の娘の両方に同時に恋してしまうティム・タナカという青年役。悩める青年ですが、おバカでもあるその悩みを打ち明けられ、面白がって広めてしまうカウンセラーを、サイモン・アムステルという若手コメディアンが演じています。
アムステルは以前『Never Mind the Buzzcocks』というテレビ番組のプレゼンターを務めていて、シャープがその番組の本を書いたというつながりのようです。そちらもエッジーで笑える音楽クイズ番組です。

面白い本が書けるシャープは、ケンブリッジで古典を学び、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに参加していたというから、なかなかサラブレッド。
最近ではCMに出たり、日本でもBSで放映されたBBC人気ドラマ『SHERLOCK / シャーロック2』にチョイ役で出演しています。流暢な英語が話せる日系俳優は貴重でしょうから、その方向に行くのかも知れないけど、2本目の脚本監督映画も見てみたいところ。

公式サイトhttp://www.blackpondfilm.com
 
 
2月はベルリン国際映画祭があります。次回はそちらに関連した話題。
 
 
-ヒビレポ 2013年2月6日号-

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