ぜんざのはなし 第7回


隣のバー

 
 
島田十万(第9号で「『仕事辞めます』高野勝」を執筆)
 
 
 

 笑二さん、島袋君、スズキ氏、そしてボクの4人が右隣のショットバーに移動して奥のテーブルに陣取ったのは、12時閉店のため焼鳥屋を追い出されたけれども、もう少し話していこうということになったからでした。

 落語に入りやすくするために、本編の前に話す雑談、とか挨拶のようなものを「まくら」というのは前回も書きました。

 笑二さんは、まくらを振ると客のウケがまるで違うと言います。正式な高座では、前座はまくらを振ることを禁止されているのですが、それも勉強会だとか師匠の独演会の開口一番を務めるときなら問題はありません。まくらをいれると客席が暖まる(*1)のがわかるし本編に入りやすくなるんですね。

 
 

 なるほど、客としても始めての落語家を聴くような場合、ちょっと構えてしまうようなことがあるのはよくあることです。そんな状態で始められても噺に集中できません。

「かと言って、まくらを稽古していくなんてバカバカしい気がします」と本人が言うとおり、気楽に緩く話すような類いのものなのですね。
 同門ではないけれども大御所の、柳家小三治には『ま・く・ら』と『もひとつ ま・く・ら』(どちらも講談社文庫 )という、落語のまくらだけを集めた文庫本が二冊も出版されています。

「わたしのまくらは短いんです」笑二さんがぼそっと呟きました。
 
 その日の客の年齢層によっても違うでしょうが、笑二さんは入門2年に満たない22歳の若者ですから、自在にまくらを振るのは、まだすこし荷が重いかも知れません。とにかく本編を覚えて反復、自分のものにしようと必死なのでしょう。

 ただそこは落語家、のたまご。一緒に飲んでいてもほんわかとして、とても「必死な感じ」には見えませんけれども、、、

 ふっと気がついたら、島袋君はいつのまにか1人となりのテーブルに移って、背の高い細身の美女に「シマブーさん!」なんて呼ばれてニヤニヤしています。
 島袋君が声をかけて、悪くないムードのように見えましたが「靴が金色なんて変ですよ!」なんて会話が聞こえてきて、苦戦しているようです。

 そのうち、水戸市出身というインテリ女子 Kさん(28歳)もこちらのテーブルに合流して、ボクたちは5人で飲むことになりました。

 お坊ちゃんみたいに見えるし「シマブーは、クローが足りないかも」とボクは思いましたが口にはしませんでした(笑)。なんにしても憎めない人物ではあります。

 スズキ氏が笑二さんを紹介してから、Kさんに聞きました。
「落語家って日本に何人ぐらいいると思います?」
「えっ~!50人くらい?それか100人ぐらいかなぁ?」
 まったく想像もつかないという顔でそう答えました。聴いたことはないけれども興味はあると言っていたKさんですが、ベンベンベンでしょう?と扇子で机を叩くまねをしましたから、講談との違いがよく分かっていなかったようです。

「そんなもんなんですかね、普通は」と笑二さんがすぐ反応しました。

 2009年元旦のスポーツニッポン社調べによれば、落語協会、芸術協会の2大協会の落語家数は併せて370人、それに三遊亭円楽一門会41人、立川流46人フリー2人を加えた総数は459人。人数的には歴史上初めての大人数である。とあります。

 この数字が多いのか、少ないのか素人には見当もつきませんが、だいたい300人ぐらいが上限と言う人もいますから、ちょっと多すぎるのかも知れません。真打ちになったからといって楽に食っていける人ばかりじゃないというのも本で読んだことがあります。
  Kさんのような人には落語よりも漫才のほうが身近なのかもしれません。

 漫才とかお笑いの人を意識しますか?

「吉笑兄さんは意識しているような気もしますが、わたしは、意識しませんね。瞬間的な笑いの大きさでは漫才にはかなわないと思いますが、感動したり泣いたりできるのは落語じゃないですか?テレビもそんなに観なくなりました」

 笑いながら穏やかな感じではありましたが、笑二さんの落語に対する信頼と自信を感じました。

 笑二さんは、アルコールをやめてソフトドリンクに切り替えたようです。年末に、兄弟子たちと朝までカラオケをしてしまい、翌日声の調子が悪くて困ったと言っていましたから、明日の仕事に備えたのでしょう。
 
 

(*1)客席が暖まる   緊張が解けてリラックスした状態になる

(*2)スポニチ演芸館
 http://www.sponichi.co.jp/entertainment/column/engei/KFullNormal20090116085.html
 
 

-ヒビレポ 2013年2月12日号-

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