「食い物の恨み」は消えず 第8回

「けんちょ」「おばいけ」「おせせり」ってご存知?

 
下関マグロ(「新宿の穴」連載中)
 
 
 

子供のころ、料理の名前がわからずに食べていたものがけっこうある。
そのひとつが「けんちょ」だった。
大人になって家を出て、一人暮らしをし、自炊もするようになって、ふと気になったのがこの料理。
大根と豆腐の料理なんだけど、あれはどうやってつくるんだろう、第一名前はなんというんだろうか。
そう思って実家に電話をした。母親にあれはなんだったのかと聞けば
「ああ、けんちょのことかね」
と言う。そうか、けんちょか。作り方を聞いた。
「そりゃ、簡単にぃね」
と教えてくれたのは、いちょう切りにした大根をフライパンに入れ、ごま油で炒める。
そこに手でつぶした豆腐を入れ、醤油を入れ、水気がかくなるまで炒めればいい。
それだけの簡単な料理だ。

 
 

多めに作り、2〜3日冷蔵庫で保存しながら食べる。常備菜である。
簡単にできておいしい料理だ。
しかし、なんでこの料理が「けんちょ」というのだろうか。
帰省した折に母親に聞いてみると、
「よぉ、わからんけど、けんちん料理からきちょるんじゃない」
とのこと。なるほどねぇ。
自分が作った「けんちょ」の写真をスマホで見せると
「豆腐が多すぎ」
と言われた。これがそれ。
 
 

 
 

なるほど、どうも味が違うと思ったら、豆腐が多かったのか。
以来、大根多め、だいたい普通の大きさの大根三分の1に豆腐半丁くらいの割合で作っている。
少し汁を残してつくり、できたてではなく、一日くらいおいたものを
熱々のご飯にかけて食べるのが好きだ。
ちなみにネットで調べたら、「けんちょ」というのは、山口県の郷土料理なのだそうだ。
郷土料理かどうかはわからないけれど、実家で昔は食べていたけれど、
東京ではまったく食べなくなったものに「おばいけ」である。
つくれないというか、売っていない。鯨の脂身だ。
白くて、コリッとしてて、酢味噌で食べた。僕はあまり得意ではなかったけれど、
母親は好きで、喜んで食べていた。
そういえば、鯨料理は給食によく出た。鯨の竜田揚げやみそ焼きなど。
たいてい赤身を調理したもので、そちらのほうが僕は好きだった。
ただ、これも子供の頃の味覚なので、今は「おばいけ」も好きなのかもしれないが、
スーパーなどで見かけることはなく、まったく食べていない。

あと、たぶんみなさんは聞きなれない料理としては「おせせり」というのがある。
これは、僕たち子供が食べ終えた煮魚の皿にお湯を入れて、残った身を取りながら、
お湯をすするというもの。まあ、料理と言うよりも食べ方か。
煮こごらせたものにお湯をかけるケースもあった。
お湯を飲むといえば、実家でつくる安倍川餅は、
餅を焼き、それを両手でパンパンたたき、平たくして、
お湯につけて、取り出した餅を黄な粉にまぶして食べていた。
で、いくつか餅をつけたこのお湯を母親は飲んでいた。
うまいのかどうか、先日やってみたら、まったく味がしなかった。

僕が「けんちょ」をつくる場合、けっこうアレンジした。
ニンジンやシメジを入れたり、調味料も醤油だけではなく、砂糖、みりん、酒などを入れた。
ここまではいいのだけれど、出汁の素などを入れるのはだめだろう。
というのも、元がけんちん料理だから、やはり動物性のものは入れてはいけないと思っている。

 
 

 
 
-ヒビレポ 2013年2月23日号-

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