ハルヒマヒネマ 3−8

アイドル・ワンダーランド

 
やまだないと(「料理入門」連載中)
 
 
 
 

「大林監督」が、「AKB48」の「ミュージックビデオ」を「撮った」というニュースを聞いて、「ハルヒ」は、AKB「ずっるーい」とおもったのだった。
「ずっるーい」には、いくつかあって、まず、大林監督がAKB資本で(お金持ちという認識)女優への色気など、まだもたないだろう女の子たちを主役にするなら、ぜったい「きゅんきゅん」するMVができるにきまってるじゃん!ってゆーのと、そのミュージッククリップが1時間もあって、「A MOVIE」ではじまるれっきとした「大林映画」だっていうのと、それはAKBの「新曲」「CD」買わないと観られないのだってのと、そして、どうやらそのMVは「この空の花」の「アナザーバージョン」なんだってこと。「ずっるーい」「うらやましーい!」
去年ハルヒは随分久しぶりに「大林ワンダーランド」を体験した。ここから先は「ワンダーランド」であるとはじまる『この空の花−長岡花火物語』は、はじまった途端、「懐かしい」「古里」でも楽しむ気でいたハルヒの目を回した。(ほんとに目の回るようなめくるめく映像と語りかけだった)8月には「長岡の花火」を実際に観にいった。あたりが暗くなり始めると、いつのまにかぞろぞろと、「見知らぬ」観光客や地元の人と一緒に河原にむかった光景、これから同じものを目撃し、体験する、共同体のような親しみをじんわりと感じた、あれはほんとうに「映画に導かれた」「ワンダーランド」の「思い出」だ。
その思い出を、なんだよう、「国民的アイドル」は、その特権で「ひとりじめ」しちゃうのかよう。そんな「ずっるーい」であり「うらやましーい!」であり、ああ、大林監督とアイドルなんて、「待ってました」だ、「こんちくしょう」、で、ハルヒは初めて「AKB48」の新曲CDを「買った」のだった。

 
 

『So long!』2013 日本
D:大林宣彦 W:大林宣彦/大林千茱萸 A: 渡辺麻友/松井珠理奈/ミッキー・カーチス

“ミュージックビデオ”といっても、実質「So long!」のMVは、曲の長さのだいたい6分くらいの部分で、そこにいたるまでの約50分は、AKB48の子たちが、長岡市に住む女子高生と南相馬から転校してきた女の子となって、『この空の花』の方法論の応用で、戦争や被災から“復興”するということを、大林監督のことばで伝える“劇映画”になっていた。それはどういうことかというと、AKB48による“なんか世間じゃ『この空の花』って映画が話題になってるけど、アイドル出てないし辛気くさそうだからみる縁はないやって若い人の為の『この空の花−長岡花火物語』まとめ”である。
このCDを手にしたほとんどの人がAKBファンで、今まで通り、彼女達を応援する為に買ったものだとおもうけど、そんな彼らからしてみれば、いきなりはじまるその映像は、まさに“ワンダーランド”に迷いこんだ、え?どこ?ここ、であったことだろう。
ハルヒは、申し訳ないけど、AKBの曲は、ほっといてもどっかから耳に入ってくる(テレビとか観ないハルヒでさえも曲を知ってるアイドルだ)ものであって、CDは大林監督の映画目的で、そういう目的だったから、Amazonをのぞいたとき、まよわずマーケットプレイスの“握手券はついていません”のセコハンを買ってしまった。つまり仮面ライダースナックのスナックが食べたかったから、あ、いらないならちょうだい、をしてしまったのだ。AKBファンに便乗してしまった。でも、おかげで、この映画館では観られない“大林映画”を観ることができた。
『この空の花−長岡花火物語』が2時間40分もの大作であったのは、当たり前だけど情報量だけではなかった。いや、情報としては2時間40分には納まりきらない量がぎっちりつまってるんだけど、ハルヒたちは、与えられるだけじゃなく、ちゃんと映画の体験をしていたのだ。
それは不思議な構造で、よく知ってる俳優たちが“ドキュメンタリー”を演じ、“劇”としてみせるというもの。大林監督の“嘘を真に”がこんな形になるとは。
リアルな演技、リアルなシチュエーションによる真ではなく、DVカメラを使ったクリアな画面と、二セくさい合成、談話や証言をあつめて現実を“再構成”することで真実を伝えるドキュメンタリーという嘘で、劇という嘘を真にした、なんだか“ぶっとんだ”監督のアイデア、そのセンスは、映画を見た人を片っ端から驚かせた。
『So long!』の驚きは、たぶんまた違った驚きなのだ。それは、AKBファンにとっても、ハルヒたち大林ファンにとっても。
だってさ、まさかあの、“国民的アイドル”出す曲出す曲ミリオンヒットらしい大スタァの女の子たちと、その資本を使って“え!!!これ?!”なんだもん。
隠喩とか、パロディとか、オマージュとか、なんかそういう言葉を使いたくてもつかえないくらい、それは大林監督の欲望に満ちあふれた“まんま”なんだもん。やりたいまんまなんだもん。遠慮なく。
びっくりするよねえ。だって、それって子供じゃないですか、まるで。
せっかくAKBという、大人気で今やオークションでプレミアのついてるような、箱から出さずにたいせつに保管してるコレクターもいるような希少なおもちゃをプレゼントしてもらったのに、わーい!とばかりに、ばりばりばりっと箱を破りとばすや、いきなりネジ回しやらマジックやら駆使して自分オリジナル改造する、しかれない子供じゃないですか、まるで。
ハルヒびっくりしたよ。ほんと。
で、これはもしかして、アキモトヤスシプロデューサー、じぶんとこのAKBという娘達をつかって、個人的に大林監督の『この空の花−長岡花火物語』のPVを作りたかったんじゃないだろうか。大胆なステマだったんじゃないだろうか。
それが成功したかどうかは、AKBファンに聞いてみないとわからないけど、でも、だったら、『この空の花−長岡花火物語』のDVDの特典として、このAKB版『この空の花』が入ってる方が、フレンドリーだったんじゃないかとハルヒは思う。マーケットプレイスで買っといてなんだけど。
それだったら、AKBファンと“大林ワンダーランド”の思いもよらない出会いとなったかもしれない。じゃない?

同じものを伝ようとして、一見同じようなつくりになっているけど、映画『この空の花』とAKB版この空の花『So long!』は、ハルヒは別物だと思う。
『この空の花』の撮影が行われた2011年、監督は実際の被災地に劇映画のカメラを持ち込むのは違うと思ったと言っていた。だから、実際の震災についてではなく、過去におこった中越地震、それから戦争、そういったものを主人公のマツユキヤスコが知っていくことで、間接的に、でもかなりダイレクトにハルヒの胸にその年、日本に起こったこと、日本人が受けたもの、そこにある希望と決意が、刻まれた。
『So long』はなんだかすごく“そこにいない感”がした。いや、AKBは長岡、山古志にいって撮影をしているんだけれど、その合間合間にはさまれる合成シーンが、なんだかすごく“そこにいない”を感じさせた気がする。
だから、『この空の花』でハルヒたちの脳をどかんどかんとゆさぶったあの情報やメッセージが、この短編からもハルヒを揺さぶったかというと、ハルヒは2度目であるってことをのぞいてもたぶん揺さぶられなかったし、映画未見のAKBファンはどうだろうか。
でも、情報と情報の隙間に、ちゃんとAKBの女の子たちのかけがえのない瞬間「A MOVIE」が映っていて、やっぱハルヒは、その部分にはきゅーんとなったのだ。
ワタナベマユユは、ワタシの夢は女優になること、の女の子主人公「夢」ちゃんを演じるんだけど、このこが、なんかまったく、演じてないというか、お仕事をしてる。お人形のようなかわいい顔でにこにこにこにこ、いつも通りのかわいいを優先してる。今時なかなかいない指差し演技、合成画面もあいまって、朝の情報番組のお天気コーナー担当のアイドルみたいになっちゃってる。でも、そんなところがきっと、かけがえがないんだとおもう。だって、彼女はきっとこの先、だんだん、演じることが仕事になっていくだろうから、演じることにもっと複雑に向かい合い追求しはじめるだろうから。かわいくうつることにいっしょうけんめいな姿は、きっと今しかうつせないものなんだろう。
夢の親友の南相馬から来た「未来」のマツイジュリナは、すごく大林映画に似合う女の子だなと思った。暗い瞳とすべてが遠慮がちで堅いところがいいな。
高校の仲間たち、AKB選抜メンバーがひとりひとりの名前とキャラクターを紹介されながら登場すると、途端ハルヒの心が浮かれる。似たような女の子たちだとおもってたけど、タカハシミナミとオオシマユウコがいつまでたってもどっちがどっちかわからなかったけど、みんなちゃんと個性があって、それぞれいろいろかわいい。
AKBが住む街の姿が見えてきて、学校生活がみえてきて、修学旅行なんて思い出まで残って、あれえ、やっぱこういうAKBをハルヒみたかったよ。
温泉のシーンはもうエバーグリーンだと思った。水着がまだちっともやらしくなくて(いや、それはみる人によるだろうけど)はだかんぼがなんか元気だ。鈍そうでたのもしい男の先生。女子校の青春だなあ。
こういう女の子たちを観てると、悲しいことも、うまくいかないことも、ふっとわすれて笑顔になる。大林監督、この空の花は今回花火じゃなくてAKBの女の子たちですよ。
平和への祈りも、復興の誓いも、すべて彼女達の笑顔にありますよ。
そして、やっぱハルヒ、彼女達のPVとして、これからいろんなとこで見かけることになるんだろう6分間に、一輪車で走るAKBがいたらよかったな。くるくるまわる花火みたいな女の子たちがいたらよかったな。
ああ、あの一輪車少女団をAKBファンの子たちもみせたかったな。

 
 
 

ハルヒマヒネマ
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最近のハルヒの頭の中、日々をささげる王子様観劇日記
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–ヒビレポ 2013年3月1日号-

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