ぜんざのはなし 第10回


豪邸と休日

 
 
島田十万(第9号で「『仕事辞めます』高野勝」を執筆)
 
 
 

「部屋が10階なんですが、都庁とか東京タワーが見えるんですよ。夜景が滅茶苦茶キレイで、成功者にでもなったような気分ですねワッハッハッハ」

 笑二さんが以前住んでいたアパートは、立て替えのため一月いっぱいで取り壊しになるということでした。高円寺は離れたくないし予算のことがあるしでなかなか新居が決まらずに困っていたところ、やはり引っ越すことになった吉笑さんとアパートをシェアすることにしたのだそうです。

 新居は青梅街道沿い14階建てのマンションの2DKで家賃は四畳半の笑二さんが4万円、六畳の吉笑さんは5万円。高円寺界隈では破格の物件だと思いますし、成功者!とは大袈裟な気もしますが、それまでの住環境を考えれば無理もないのかも知れません。

 もちろんこれで、あまりに寒くて凍死もありえるか、という生命の危機(第二回参照)は免れたようですから大変におめでたいことではあります!

 
 
 兄弟子と四六時中一緒で気詰まりじゃないですか?

「稽古にしろ仕事にしろ私は、朝出て夜帰るパターンが多いのです。兄さんは自宅で根多を作っていることが多くて完全に夜型なんですね。ですからすれ違いが多くてあまり顔を合わせないんです。それに兄さんは、友人とは違いまして上下の関係がはっきりしていますから、不満に思うことはありませんね」

 うっかりすると、コンビニの弁当とかオニギリと酒で済ませてしまいがちな食事も、兄弟子が作ってくれることもあるそう。(笑二さん自身は高校の調理実習のカレー以来なにも作ったことがない!)

 最近聴いた吉笑さんのまくらによれば、笑二さんはかなり「おおらか」に暮らしているということでしたから、もしかしたら兄さんには少し思うところがあるのかも知れません(笑)。

 ずっと前の勉強会では、吉笑さんのこんなまくらを聞いたことがあります。
 「上下2つ穴が空いているコンセントがありますね。あれにコードを差すときに、上の穴から差すひとがいます。そうすると、下に別のコードを差すときに上のコードがじゃまになるでしょう?わたしは必ず、下から差していきます。細かいんですよわたしは」
 周りにたいして気を利かせる、気を使う、について、概ねこんなことを面白可笑しく、ソフトに話しました。普段似たようなことを考えているボクはバカウケしましたが、吉笑さんは少し神経質なところもありそうです。

 ただ笑二さんも気働きしないわけではありません。前座仕事や打ち上げの席などで、笑二さんは普通にしているように心がけていると聞きました。

 「前座なのだから、師匠やお客さんの空いた杯についで回るものだというひともいるかも知れませんが、それだと周りのひとも落ち着かないと師匠に教わりました。周りに気を使わせるなということかなと思っています」

 目上のひとばかりの席などでは一生懸命働いている、気を使っていると周りにアピールするほうがよっぽど気が楽ですよね。あえて普通にしているのは案外に難しいことですが、飲みの席などでの笑二さんを見ていると気を使いつつ自然に、普通に振舞っているのがよく分かります。

 こういう気の使い方、振舞い方は談志一門の基本なのでしょう、いろいろ出版されている、弟子たちが書いた本には「談志の教え」として必ず出てくるエピソードです。

 両人ともにおっとりした性格のようですし、何があってもシリアスなことにはならないでしょう。どちらにしても仲良く暮らしているようですから、外野があれこれいうことじゃありません。

 最近はようやく引っ越しのバタバタも、正月の忙しさも一段落して徐々に日常の暮らしが戻ってきたようです。
 先日は、大阪NSC時代の友だちが上京したので、久しぶりに息抜きをしてきたということでした。忙中閑あり。厳しい前座修行中とはいえ年がら年中稽古ばかりじゃあ憂さも晴れないでしょう。いよいよ前座生活も3年目に入り、若干の余裕がでてきたのかも知れません。

 大真面目なばかりの落語家じゃあ大成できなような気もしますから面目躍如というところでしょう。

 片道3000円!の深夜バスで上京した吉本時代の同期生2人とは、新宿で落ち合って酒を呑み、深夜バッティングセンターで大騒ぎしたあと、中野新橋のお笑いを目指している先輩の家に押しかけ、夜を徹して呑んで、わざわざ電車に乗って原宿まで行ってクレープを食い、ついでに、たまたま出くわした国体のアイススケートを観戦、したらしいです!

 その後も、大阪に帰る友人たちが深夜バスに乗るまでまた酒を呑んでいたらしいですから、どこをとっても体力勝負。普段のストイックな前座暮らしから見れば真逆の生活。青春というのは無駄なことばかりやりたがるものですよねぇ。だれもが通る路とはいえ頭が下がります。

 そうそう、「笑二は毎晩2時間も3時間も彼女とボソボソ電話してるんですよ。ちょっと羨ましいのもあるんですけど、よく飽きないなぁと呆れています」というのも最新の吉笑さんのまくら。
 3月には、高校生のころからつき合っている彼女が沖縄から就職のため上京してくることに決まったらしく、笑二さんには当分、充実した日々が続きそうです。
 
 

 
-ヒビレポ 2013年3月5日号-

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