イメージの詩 第29回

ブロディ方式

 
 
えのきどいちろう
(第10号で「活字とラジオ(とテレビ)はこんなに違う」を執筆)
 
 
 

『ミュージックマガジン』の新連載は非常に緊張した。ま、ひとつにはあんまりよく知らなかったのだ。中村とうようさんがやってるウルサガタの雑誌ってイメージ。日本語のロック論争だとか、その時分ならワールドミュージックへの傾斜とか、ざっくりしたイメージはあるけれど、自分とはあんまりカンケイない雑誌に思えた。これは面白いことだと思うのでちょっと考えてみよう。

 たぶんその頃の『ミュージックマガジン』は駆け出しライターにとって「権威」に見えたんだ。ひとつはカウンターカルチャー由来の「堂々立派なサブカル性」みたいな感触と、もうひとつは専門誌性だね。連載たのまれたのはいいけど、どう考えても自分は門外漢の部外者に思えた。ここで仕事すんのかぁ。

 ま、知らない世界は興味深いから毎月、掲載誌送られてくるのを読んで吸収していけばいいんだけど、この雑誌の読者にウケるにはどうしたらいいかなぁ。読者をきっちりイメージできないと、何がウケて何がウケないかもわかんない。

 
 
 とりあえず探り探り続けて、だんだん勢いつけてくしかない。えーと、僕は連載の1回と3回にこだわります。まず、どういう入りをするか。初回がいい感じなら2回めはそれを受けてでもいいし、それをツイストしてもいい。自然に2回めは書けるんだ。で、問題は3回め。ここで連載の方向性を大きく発展させるような球が欲しい。と4回5回とペースが出て来る。

 前にもちらっと書いたけど、僕は緊張したら初球、暴投を放るのが大好きなんだね。逆に大胆なことをする。リラックスしますけん。具体的に『ミュージックマガジン』で何をやったかというと、「ミュージックマガジンを読んでるような奴」というでたらめな企画だった。これはね、銀座の旭屋書店で粘ってて、ミュージックマガジンを持ってレジへ持ってく奴がいたら、すかさず声をかけて、「あんたの大好きなミュージックマガジンに掲載するから」と持ちかけ、そいつん家へ上がり込んで、へぇ、こんなレコード持ってんのかぁ、本はこういうのかぁともり上がる、という突撃企画。

 なかなかOKしてくれる人がいなくて大変だったけど、何とか形にできた。僕はこの頃、こういう「とっつかまえるパターン」を得意にしていて、面白いんだよねぇ、強引に行く芸って。おかげで想像上の「格式高いミュージックマガジン読者」みたいなもんを振り切る効果もあった。ビビッてるときは実際の相手より、頭のなかで肥大させた相手にビビッてる場合が多いでしょ。想像ではいくらでも怖い相手がこしらえられる。だから緊張をほぐすために逆に直撃したんだね。

 たぶん誌面上は「何かヘンなことする奴の連載始まったぞ」って感じだったと思う。それは狙いなんよ。悪目立ちでも目立ったほうがいい。で、第2球は低めスライダーでファウル打たせて、3球めはいちばん速い球見せるみたいな感じじゃなかったかな。いや、何やったか忘れてるんだけど。もう、とにかく3球めはホップするストレートにかぎるね。

 あ、前に「ケンカ売って始める」って表現したっけか。そういう意味では「ミュージックマガジンを読んでるような奴」って、これからお前らんとこ攻め込むぞみたいな意気込みってのかご挨拶でもある。もうね、しょうがないワカゾーですよ。と同時に「真剣に読者と向き合ってから始める」でもある。向き合ってますからね、そいつん家で。

 で、そうやって始めた「音楽あかさたな」(どうとでも取れるタイトルってことで採用。あんまり音楽のことは出てこない)だったんだけど、ひとつ方式を編み出したんだ。これはね、その頃、人生でいちばんプロレスを見ていた時期と重なったせいでもあるんだけど、「ブルーザ・ブロディ方式」と命名された。

 ま、カンタンに言うと外人レスラーとして芸能をお届けするって方式なんだね。あ、芸能ってわかりにくいか。立ち位置の問題。んと、だから『ミュージックマガジン』ってリングってかサーキットがあるでしょ。そこではわかんないけど、北中正和さんとか正規軍がいる。とうようさんは一種、猪木みたいでしたよね。場のなかで芯を張る「主役」(ベビーフェイス)がいるわけです。そのレスラーの活躍がサーキットを支えている。

 で、オレなんか正規軍のわけないじゃん。芯なんか張れないよね。そんなこと誰も期待してないし、そう育ってくれとも思ってない。だとしたら外人レスラーでいいんだ。もう、藤波なんかがマジメにやってるとこへじゃらじゃらチェーン振り回して登場して、何だこいつめちゃくちゃだなくらいのひと芸能見せて帰って行く。あれはヘンな奴だったなくらいの感想残せればいい。

 つまり、ブロディ方式だとどんな雑誌でも暴れるだけで喜んでもらえるんですね。ジャンルを問わない。実際、この後、『NAVI』って自動車文化誌(最初、見本誌が届いたときはこんな雑誌でオレに何をしろっていうんだ、と頭くらくらした)でも「クルマぜんぜん知らない人間」というゴキゲンな連載を開始する。この場合は徳大寺さんとかそういう人が芯ですね。こっちは「非正規」の特殊部門。

 つまり、どんな専門誌にも「例外」的なページがあり、「例外」的な存在が必要であると、そういうことなんだなぁ。ま、悪目立ちといえば悪目立ち専門。心ある読者はマユをひそめます。だけど、外人レスラーには外人レスラーの役目があって、それはリングを活性化させることですね。わぁっともり上げる。

 といってブルーザ・ブロディ自身がそうだったんだけど、そのサーキットでどんなふるまいが好まれるか、ストロングスタイルのリングなのかショーアップスタイルなのか、そういう読みはきっちりできてないといけない。そのツボは押さえてないとトンチンカンなだけ。で、この話はブロディが殺されたとき、ミュージックマガジンにちゃんと書いといた。

 今、こういう芸風のライター見ると懐かしいっていうか、しみじみしますね。おお、やってるやってる。あざといといえばあざといけど、それがスタイルだからね。楽しいなぁと。ま、だから色んな芸能のあり方があるわけでしょ。「こいつ、またやってる、楽しい奴だなぁ」ですよ。

 『ミュージックマガジン』の連載は手応えあったね。どこへ行っても「見たよ」と言われる。で、それを見て小学館『DIME』の編集者が連載やらないかとレンラクしてくるんだ。『DIME』は創刊誌だった。『シンプジャーナル』でゴンゴンやって、『ミュージックマガジン』でゴンゴンやったことが次へつながる。次はどうするのかって? もちろんゴンゴンやるんだよ。

 
 
 
-ヒビレポ 2013年3月10日号-

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