ぜんざのはなし 第11回


心配ごと

 
 
島田十万(第9号で「『仕事辞めます』高野勝」を執筆)
 
 
 

 前途洋々、順風満帆、なにも問題なさそうな前座生活ですが悩みや、心配ごとはないんですか?

「いろいろ恵まれて、今のところなんの心配事もないですねえ。グフフフ。ただ気になっていることがないではありません」

 ずいぶんと小さいころから、お笑い芸人になるんだと決めてはおりましたが、一人で大阪に出ていくのはちょっと心細い。しかも漫才をやるなら相方が必要だ。そこで、幼稚園のころからの幼なじみに声をかけてみたのです。
 進学や就職ではなくて芸人を目指すのは一生を棒に振る可能性もある、自分はともかく友人を誘って良いものかどうか当時はだいぶ悩んだのだそうです。

 ところが、相方は大阪の水が合わなかったのでしょうか、ひと月もするとお笑いに見切りをつけ沖縄に帰ってしまいました。現在は地元の役場に勤めているらしいのですが、2年前、笑二さんが成人式で実家に帰ったときにもなんとなく気まずくて、お互いに話をできなかった、ということでした。

 
 
「それともう一つ、悩みではありませんが忘れてはいけない師匠からのお達しを肝に銘じています」

 談笑さんは、弟子に対して細かい小言をいったりするひとではないそうですが「いつまでも売れないでいるようなら落語家を辞めてくれ」と最初にキツく釘を刺されたそうです。

 可能性がないのにいつまでも続けるのは本人のためにも落語界全体のためにも良くないと師匠は考えているのです。真面目にやればどんな仕事をやっても、食うには困らない。売れない落語家をしていたずらに苦労するのは良いことではない。

 売れる、というのが、どの程度のことなのかはともかく、確かにいつまでも落語家にしがみついて暮らしに差しさわるようだと悲惨だとの考え方はよく理解できます。そのような弟子を師匠としても見ていられないというところなんでしょう。

「うちの師匠は普段は、本当に優しい人なんですが、もしかしたら、ある意味では一門で一番厳しい人なのかもしれませんね」
 もちろん売れっ子は本人の望むところで、日ごろの努力もそのために違いありませんが必ず売れるという保証があるわけではありません。

 一月の終わりに笑二さんに会ったときに、
「これから志の輔師匠の会に勉強に行ってくるつもりです」と言っていました。立川流一門で忘れてならないのが立川志の輔、NHKテレビ「ためしてガッテン」のあの人ですね。

 志の輔さんはもちろん当代きっての売れっ子落語家で、笑二さんに言わせると、別格中の別格、神、スーパースターなのです。
 毎年、正月に開催する独演会「志の輔らくご in PARCO」は連日満員で、500人収容できる渋谷パルコ劇場の1枚¥4200のチケットが、30日もある期間中まったく予約が取れないという人です。

 立川キウイさんの記録映画を製作中で落語はもちろん、文楽などの伝統芸能にも造詣の深い石川淳志監督のブログには、志の輔独演会についてのこんな記述がありました。

「発売と同時にチケットは全日売り切れで、わずかに残すは当日のキャンセル待ちだけだとは。ネットでは六万円の高値でプラチナチケットだったらしいではないか。一体どうすればチケットは手に入るのか」
石川淳志のブログ2013-02-17分

 落語に縁のない方にこのすごさはちょっと理解できないかもしれませんが、志の輔さんはまさに特別、別格、おばけ、スーパースターなのです。

 来週は、前座笑二さん初の独演会があります。偉大な志の輔さんの背中は見えるのでしょうか?

 
 
 
-ヒビレポ 2013年3月12日号-

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