「食い物の恨み」は消えず 第11回

おじや? 雑炊? それともリゾット?

 
下関マグロ(「池袋の穴」連載中)
 
 
 

さて、これはなんでしょうか。正解は文末で!
 
 

大阪の大学を5年間かけて卒業した僕は、
上京して小さな出版社に就職した。
編集部で働くことを希望していたが、
配属されたのは営業部だった。
最初のころは、仕事を覚えるため、
いろんな先輩社員といしょに都内の書店を車でまわった。
車の免許はあったのだけれど、ペーパードライバーだし、
都内の道もわからないので、運転するのは先輩で、
僕は毎回、助手席に座わる。

 
 
先輩社員のなかでいちばん苦手なのは、30歳過ぎのN課長だった。
N課長は、ちょっと九州弁の訛がある喋り方をする人で、
しょっちゅう何かに怒っている。
その日も営業車に乗り込むなり、
「きのうは、まいちゃったよ。いやね、ファミレスでさ、
リゾットとライスを注文したんだけどね、あ、リゾットって知ってる」
「あー、なんとなくわかりますけど…」
 僕は、雑炊のようなものを思い浮かべた。80年代のはじめ頃のことで、
リゾットだとかピラフだとかパエリアとかジャンバラヤだとか、わけのわからない
ごはん料理が出てきたころだ。
「料理がきてわかったんだけど、リゾットって、米入ってんだよね。
そこにライス頼むバカはいないって。そういうことは注文したときに
ちゃんと説明してくれなきゃって叱ってやったよ」
 たぶん、ファミレスの人はN課長にネチネチ怒られただろう。
そんなことを想像していると、N課長はこちらを向いて
「違う? オレ、間違ってる?」
とかん高い声で言う。僕は即座に
「間違ってません」
 と答えた。いやぁ、前を向いて運転してほしいよ。
「あのぉ、しかし、その、課長はリゾットってどんなものだと思ってたんですか」
「そりゃ、写真を見る限り、西洋風のチーズの煮込みみたいなもんだと思ったんだけど、
ありゃ、西洋風のおじやだね」
 とN課長。久しぶりに“おじや”という言葉を聞いた。僕はその日、N課長の話に
なんとか受け答えをしながら、おじやのことを考えた。

子供の頃、母親はおじやをよく作ってくれた。
「なんで、おじやっていうの?」
と母親に聞いたことがある。
「じやじや焼くからじゃないかねぇ」
 母親は自信なさげに言った。たしかに、おじやは、
最後に鍋で、ジャージャーと音をさせて、水分を飛ばし、
こげる寸前のところで火からおろすのだ。
雑炊のことをおじやと呼ぶ人もいるけれど、
僕にとって雑炊とは、かなり汁気のあるもので、
おじやは水分を飛ばしているものという認識だ。
まあ、どれが正しいということでもないんだろうけれど。

僕と弟は母のつくるおじやが好きだった。
ジャージャーという音が聞こえると胸が高鳴った。

作り方はいたって簡単。
残った味噌汁に残ったご飯を入れて煮る。
そこに溶き卵を入れる。
味噌汁の具材にプラスして、
切ったカマボコやちくわが入っていたり、
刻んだネギが入っていたりした。

熱々をフーフー吹きながら食べる一杯目もいいけれど、
好きなのは少し冷めた2杯目だった。
元気よく「おじやおかわり」と茶碗を差し出すと、
母親は少し笑いながら
「そんなに大きな声でおじや、おじやって言わんでちょうだい。近所に聞こえると恥ずかしいわぁね」
と言うのだ。僕は不思議に思い、なんで?と訊いた。
「じゃって、おじやちゅうたら、貧乏な人が食べるもんじゃから?」
「えっ、ウチは貧乏なの?」
「貧乏ちゅうわけじゃないけどねぇ」
と母親は言葉に詰まっていた。僕は、なんとなく心が沈んだ。おじや、こんなにおいしいのに。。。
と、そのとき、ひとつ年下の弟が、これまで聞いたことのないような大きな声で
「おじや、おかわりぃ」
と叫んでいた。母親は苦笑いをしながら、弟の茶碗を受け取り、そこにおじやをすくって入れた。

あの時、なんであんな大声で弟はおかわりしたんだろう。
大人になって、ふと思うのは、弟も同じように、
自分の好きなおじやがちょっとおとしめられた気分がしたから、
ああして、叫んだのではないか。そんな気がする。

さて、冒頭の画像だけれど、これは今風のおじや。
この原稿を書くためにおじや専門店を検索したところ、
原宿にあるということがわかった。
「bio ojiyan cafe」というなんともオシャレなかんじ。
で、これはカレーおじやに鶏の唐揚げトッピング。
意外に美味しかった。
 
 
bio ojiyan cafe (ビオオジヤンカフェ)
http://www.cafe-master.com/cafes/harajuku/bio-ojiyan-cafe
 
 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2013年3月16日号-

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